指輪は鳥居でした

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 呆然と立ち尽くす。
 振り返った道路の向こうのセンタービルは、曇天と謎の靄の中、その姿を曖昧に見せていた。

 「・・・か、帰ろう」

 もうプリンどころではない。
 早足でパーキングへ向かいながら、ふと、どこに向かっているのか分からなくなった。
 街並みも何か記憶の中と違ってきているような。
 必死になって辺りを見回し、少し先のビルの曇りガラスの嵌め込まれたドアが、記憶の中のパーキングのドアに似ていると思った。管理人室のドア。
 すがるような思いで駆け寄ってドアを開けた。

 「あの!!」



 ──中は純日本家屋の玄関だった。

 「うそっ!!」

 料亭の幅の広い玄関というか、ああ、お寺の玄関とか、そんな感じ。重厚な赤みを帯びた焦げ茶色の艶のある床が美しい。
 明らかにパーキングではない。え、この安っぽいドアからここに通じる?
 後ろを振り返ると、くぐってきたドアが消えていた。

 「うそ・・・」

 そこには美しい玄関に見合った格子戸があった。恐る恐る戸をカラカラと開けて外へ出ると、そこは靄の中、コンクリートのビルがいくつも立っていて、うん、さっきまで自分がいたところだ。

 「あれ?でも微妙に違うような・・・」 

 靄がかかっているせいか、看板等もレトロな感じに見える。どこもかしこもピカピカした印象の街が、今はしっとりと落ち着いた感じを強く受ける。
 そうだ、緑が多くなっている!どのビルにも壁には蔦が伸びているのだ!

 「・・・どうなってるの?」

 そして、先程とは違って、あれだけ混み合っていた街中なのに、今は全く人気が無くなっていた。

 「はは、なーんかホラー映画ぽいな、なんて」

 ──ゾンビとかゾンビとかゾンビとか?
 このまま外にいるのが怖い。振り向くと開け放したままの格子戸。その奥の玄関にも人気はない。
 でも、家の中のほうがまだマシだよね?頭の中ではゾンビに襲われる自分が悲鳴を上げてる。

 もう一度、そっと中に入り格子戸を閉めた。

 奥を伺うが、物音一つしない。外も怖いが中も怖い。
 けど、このままここにいるのが一番怖いような気がする。
 オレは靴を脱いで上がらせてもらうことにした。

 「・・・おじゃまします」

 脇の靴棚には一足も靴が置かれていない。
 なんでー、皆さん揃って外出中なのー、外は人っ子一人いないのにー、と怖さで精神崩壊しそうだ。
 靴棚の端に自分の靴を揃えて置き、上がり框を進んだ。
 左右に別れた廊下をなんとなく右に進む。
 進むと右手は全面ガラス戸になっていて、和で統一された前庭が見える。そんなもの絶対になかったと言い切れるが、もう何も考えない。ないないー。左手は多分部屋がいくつか連なっているが、襖戸が閉まっていて中は見えない。人の気配はない。
 これなんだろ?違う世界に来てしまったってこと?漫画や小説でよく読んだよ。好きだよそのジャンル。異世界転生とか異世界転移とか。でも、もう少し楽しそうな世界に来たかった。ほら、乙女ゲームの世界とかさ。やったことないけど。これじゃ、ホラゲーの世界だよ。しかもやったことないし。オレ、あんまりゲームって興味ないんだよね。マリオカートとかは好きだけどさ。
 ん?ちょっと待てよ?ここが異世界として。
 異世界にいるってことは、オレ、死んでしまったのでは?

 「うそっ!!」

 オレ、今日何回うそ、って叫んだかな。
 呆然としながら頭の片隅でそんなことを考えていた。
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