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その後も足繁く我が家に通うギヴは、午後のお茶の時間を待てないと昼前に来て一緒にランチを食べるようになった。
我が家のランチは質素だ。いや、朝食も夕食もだけど。
大体がバイト先から貰ってきたパンと、畑で採れた野菜を使ったサラダとスープ。お肉は干し肉をダシ代わりにスープに少しだけ。そこにフルーツ。紅茶。朝食とそんなに変わらない。
オレ自身はバイト先で焼き上がったばかりのふかふかのパンと具だくさんのスープを朝食に頂いているのだが、母が言うにはそうらしい。卵とかお肉が食べたいというが、素食は美容にいいんですよ、とごまかしている。
実際、バイトをしていなければパンはないし、畑を耕さなければ野菜も果物も食卓には上らないだろう。食い扶持(ギヴ)が一人増えてもなんとかなっているのはそのおかげだ。うちの経済状況はそれほど逼迫している。
そんなことを思い、感謝しながら、パンにドナ特製のイチゴジャムを塗っていると、奥からドナとエンが入ってきてオムレツを給仕していった。
ギヴが卵を持ってきてくれたので急遽、一品作ったという。
「ギベオン君、ありがとう。ご馳走になるわね」
母は久々のオムレツに鷹揚に構えているが、内心大喜びだ。
「ギヴ、ありがとう。頂くね」
もちろん、オレも。
久しぶりの卵に舌鼓を打ちながら、そうだ、鶏を飼おうと思いつく。土地なら、ここが王都だと思えないほどいっぱいある。
だが、侯爵家から鶏のあげる鬨の声が聞こえたら噂になるかもしれないな・・。
名誉を取るか毎日の卵料理を取るか、悩ましいところだ。
「取引先に卵農家がありまして、売り物とは別に、毎日食べ切れないほどうちに置いていってくれるんです。なので、よかったらこちらにお分けしますよ」
さらりと提案してくれる。
神様かな?拝んでしまいそうだ。
もちろん我が家に否の声はなく、それからは毎日卵料理が食卓に饗されることになった。
嬉しい。ギヴ、好き。
そんなこんなで、ギヴはすっかり家族の一員になって、いよいよ式が2週間後に近付いてきたある日。
業者と部屋のリフォームの打ち合わせをしているギヴの元に、リゲル伯爵家から使いの者がやって来た。
その後、ギヴがオレの部屋に来て言うには、店に大量にテーブルライトの発注があったという。一つ一つ手作りのライトの為、すぐに数は揃わないが、現地に行って職人達に急いでもらうよう頼みに行かねばならないという。
「そうか、ありがたい話じゃないか。準備はオレが見ておくから」
移動も含め一週間はかかりそうだと難しい顔をするギヴに、安心させるように微笑んでみせた。
考えてみれば、最近はほぼうちに入りびたりで仕事は従業員に任せっきりだったしな。
「頑張ってこいよ、オーナー!」
そう言うとやっと笑顔を見せてくれた。
ギヴが出発した翌日、いつものように早朝のバイトに精を出し帰って来ると、出迎えたエンが、お父様が書斎でお待ちです、と告げた。
「書斎で?」
仕事を早退したのだろうか?
イヤな予感がする。
「ドナにお茶会の準備を命じていました」
「そう」
足早に書斎に行きドアをノックし、返事も聞かず開けると、顔色の悪い父が机に伏せていた顔を上げた。
「父様、今度はなんです?プライドなど捨てて下さい!一週間以内ならなんとでもなるんですから」
「ラブラドライト・・・」
口ごもる父にイラつくがここで癇癪を起こしてもしょうがない。
それに、オレにはギヴという名の金庫、いや銀行がついてる。
──ふう。
なんとかイラつきを収め、机の前のソファに腰を下ろした。
「実はな、スピネル様に呼び出されてな、ほれ、殿下とお前は同窓であるからてっきりお祝いの言葉でも頂けるのかと思ったんだが・・」
「殿下とは特に親しくありませんでしたが」
逆に、スピネルとは成績のトップ争いをしていた。こちらは奨学金がかかっているから全戦全勝だったが、あちらは万年2位。親しいどころかオレに悪感情を持っていてもおかしくはない。
「・・・。殿下は私にこう仰った・・・っぐ!」
またこのパターンか。いや前回は母様が苦しがっていたな。
「何なのです?父様も文官なら、明確に簡潔に、お話し下さい」
「わ、わかった。殿下は、お前を・・・」
「はい」
「──・・・、お前とお茶を飲みたいと仰られた。今日、午後のお茶の時間にこちらにいらっしゃるからおもてなしをするように」
「お茶を?なぜ、わざわざうちに?」
「ラブラドライトよ、情けない父を許しておくれ」
「・・・王家に借金、なーんて、まさかですよね?」
「馬鹿を言うな。私にだってプライドはある」
そのプライドが家計を逼迫させているのだ。
ふんぞり返る父に、更にイヤな予感が増す。父の尻拭いであることは間違いないだろうが、借金より悪いことってなんだろう。
スピネルの、なんの感情も浮かばないアメジストの切れ長の目を思い出す。
そういえば学生時代、よく目が合っていたな。なんといっても相手は王族。こわばる表情筋を無理やり動かし微笑んで見せていたが、向こうから何か返ってくることはなかった。
つまり無反応だった。
上の二人の殿下達は、THEロイヤルといった感じの終始にこやかな方たちだが、第三王子のスピネルは幼い頃から仮面のように無表情だったように思う。
あの殿下とお茶をするのか・・・。
胃が痛むのを感じた。
我が家のランチは質素だ。いや、朝食も夕食もだけど。
大体がバイト先から貰ってきたパンと、畑で採れた野菜を使ったサラダとスープ。お肉は干し肉をダシ代わりにスープに少しだけ。そこにフルーツ。紅茶。朝食とそんなに変わらない。
オレ自身はバイト先で焼き上がったばかりのふかふかのパンと具だくさんのスープを朝食に頂いているのだが、母が言うにはそうらしい。卵とかお肉が食べたいというが、素食は美容にいいんですよ、とごまかしている。
実際、バイトをしていなければパンはないし、畑を耕さなければ野菜も果物も食卓には上らないだろう。食い扶持(ギヴ)が一人増えてもなんとかなっているのはそのおかげだ。うちの経済状況はそれほど逼迫している。
そんなことを思い、感謝しながら、パンにドナ特製のイチゴジャムを塗っていると、奥からドナとエンが入ってきてオムレツを給仕していった。
ギヴが卵を持ってきてくれたので急遽、一品作ったという。
「ギベオン君、ありがとう。ご馳走になるわね」
母は久々のオムレツに鷹揚に構えているが、内心大喜びだ。
「ギヴ、ありがとう。頂くね」
もちろん、オレも。
久しぶりの卵に舌鼓を打ちながら、そうだ、鶏を飼おうと思いつく。土地なら、ここが王都だと思えないほどいっぱいある。
だが、侯爵家から鶏のあげる鬨の声が聞こえたら噂になるかもしれないな・・。
名誉を取るか毎日の卵料理を取るか、悩ましいところだ。
「取引先に卵農家がありまして、売り物とは別に、毎日食べ切れないほどうちに置いていってくれるんです。なので、よかったらこちらにお分けしますよ」
さらりと提案してくれる。
神様かな?拝んでしまいそうだ。
もちろん我が家に否の声はなく、それからは毎日卵料理が食卓に饗されることになった。
嬉しい。ギヴ、好き。
そんなこんなで、ギヴはすっかり家族の一員になって、いよいよ式が2週間後に近付いてきたある日。
業者と部屋のリフォームの打ち合わせをしているギヴの元に、リゲル伯爵家から使いの者がやって来た。
その後、ギヴがオレの部屋に来て言うには、店に大量にテーブルライトの発注があったという。一つ一つ手作りのライトの為、すぐに数は揃わないが、現地に行って職人達に急いでもらうよう頼みに行かねばならないという。
「そうか、ありがたい話じゃないか。準備はオレが見ておくから」
移動も含め一週間はかかりそうだと難しい顔をするギヴに、安心させるように微笑んでみせた。
考えてみれば、最近はほぼうちに入りびたりで仕事は従業員に任せっきりだったしな。
「頑張ってこいよ、オーナー!」
そう言うとやっと笑顔を見せてくれた。
ギヴが出発した翌日、いつものように早朝のバイトに精を出し帰って来ると、出迎えたエンが、お父様が書斎でお待ちです、と告げた。
「書斎で?」
仕事を早退したのだろうか?
イヤな予感がする。
「ドナにお茶会の準備を命じていました」
「そう」
足早に書斎に行きドアをノックし、返事も聞かず開けると、顔色の悪い父が机に伏せていた顔を上げた。
「父様、今度はなんです?プライドなど捨てて下さい!一週間以内ならなんとでもなるんですから」
「ラブラドライト・・・」
口ごもる父にイラつくがここで癇癪を起こしてもしょうがない。
それに、オレにはギヴという名の金庫、いや銀行がついてる。
──ふう。
なんとかイラつきを収め、机の前のソファに腰を下ろした。
「実はな、スピネル様に呼び出されてな、ほれ、殿下とお前は同窓であるからてっきりお祝いの言葉でも頂けるのかと思ったんだが・・」
「殿下とは特に親しくありませんでしたが」
逆に、スピネルとは成績のトップ争いをしていた。こちらは奨学金がかかっているから全戦全勝だったが、あちらは万年2位。親しいどころかオレに悪感情を持っていてもおかしくはない。
「・・・。殿下は私にこう仰った・・・っぐ!」
またこのパターンか。いや前回は母様が苦しがっていたな。
「何なのです?父様も文官なら、明確に簡潔に、お話し下さい」
「わ、わかった。殿下は、お前を・・・」
「はい」
「──・・・、お前とお茶を飲みたいと仰られた。今日、午後のお茶の時間にこちらにいらっしゃるからおもてなしをするように」
「お茶を?なぜ、わざわざうちに?」
「ラブラドライトよ、情けない父を許しておくれ」
「・・・王家に借金、なーんて、まさかですよね?」
「馬鹿を言うな。私にだってプライドはある」
そのプライドが家計を逼迫させているのだ。
ふんぞり返る父に、更にイヤな予感が増す。父の尻拭いであることは間違いないだろうが、借金より悪いことってなんだろう。
スピネルの、なんの感情も浮かばないアメジストの切れ長の目を思い出す。
そういえば学生時代、よく目が合っていたな。なんといっても相手は王族。こわばる表情筋を無理やり動かし微笑んで見せていたが、向こうから何か返ってくることはなかった。
つまり無反応だった。
上の二人の殿下達は、THEロイヤルといった感じの終始にこやかな方たちだが、第三王子のスピネルは幼い頃から仮面のように無表情だったように思う。
あの殿下とお茶をするのか・・・。
胃が痛むのを感じた。
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