《完結》政略結婚で幸せになるとか

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 同性同士の結婚はそれほど珍しいことでもない。
 だが、貴族の中では少数派だ。
 跡継ぎの問題もあるし、同性が好きなら愛人にすればいいという考え方だから。夫婦揃ってパーティーに出席し、その後はお互いに同性の愛人と合流という話も珍しくない。貴族は世間体を整えてなんぼなところがあるから。
 逆に、跡継ぎ問題が絡んで来ない場合、仕事上の都合で同性同士で結婚する場合もまれにある。多分オレ達はこのくくりに入ると思うのだが。
 最近で言えば、貴族ではないが商家の跡取り息子と隣国の貴族の跡取り息子が結婚した。
 これはお互い貿易の上での利権の拡大と港の使用権が絡んでいたらしく、契約の為の結婚といった趣がある。どちらの息子達も仕事の場でしか顔を合わせず、もちろん一緒に暮らしてもいない。お互いの家には愛人と愛人との間の子もいたりする。
 これは体の関係を伴わない“白い結婚”と言われ、なんとも不思議な話だけど教会にも認められているのだそうな。

 “白い結婚”
 オレ達もこれでよくね?
 ギベオンとはこの短い間にすっかり気心の知れた友達になれたし、このままの関係をずっと続けられたら最高だ。
 子供を作るあれこれはいらないのだから、別に暮らすほうが何かといいよね?
 

 そう思い、今日も我が家にやって来たギベオンに、早速“白い結婚”を提案したのだけど。

 「・・・・・、ラブラドライト様」

 ギベオンの笑顔がこわばった。ような気がする。

 「ん?・・あ、それと、お互いもう少し砕けた呼び方をしないか?これから一生の付き合いになるわけだし。敬称もナシで。え~と、オレのことは、ラブとか、ラドとか・・・?」

 「──ラド。ラドと呼んでいいですか?」

 「うん!今まで誰にもそう呼ばれたことない。それがいい!」

 「私のことは、どうぞギヴと」

 「──ギヴ。いいね。・・・よろしく、ギヴ」

 「ええ、こちらこそ、ラド」

 伸ばした右手をギヴはぎゅっと握ってくれた。
 まだ、話し方は固いけど、少しずつ普段の自分を出してくれたらいいな。

 「さて、今日は何を決めないと行けなかったっけ、もうあらかた・・」

 テーブルの上の握手を自然に解こうとしたのだが、できなかった。

 「・・・ギヴ?」

 それどころか握られた右手が、更にギヴの左手で包まれる。不思議に思ってギヴを見るが、笑顔のままだ。

 「ギヴ?どうした?具合いが悪い?」

 「いいえ。貴方の欠点を見つけたので嬉しくて」

 なんですと?欠点?
 今までの会話を頭の中で反芻するがよくわからない。

 「でも、私にとっては愛しくてたまらない点なので、欠点ではなく美点と言えるでしょうね」

 「それは、つまり、直さなくていい欠点、ってこと?」

 「はい」

 にっこり、といつもの笑顔だ。いや、そうなのかな?なんか金の瞳が笑ってないような?背中が寒くなるような笑顔だ。

 「ん、と。その欠点とやらを教えてもらっていいか?」

 「う~ん、もったいないから教えたくないですねえ。
 それより、今日は部屋のインテリアに関する資料を色々持ってきたんです。貴方の仕事部屋、私の仕事部屋、二人の部屋、二人の寝室。少なくとも4部屋は必要ですよね。ああ、浴室やトイレ、衣装部屋に仕度部屋も必要ですね。・・・ラド、いっそ敷地内に一軒建てた方が早いと思いませんか?」

 “白い結婚”どこ行った?

 「・・・・・・つまり?」

 「私には愛人など必要ありません」
 
 「??」

 つまり、別々には暮らさない。そして愛人はいらない。
 ──それって、もしかして、性欲がない、とか?

 「・・そういうことか!」

 この結婚は誰に対してもその気にならないことを隠すため、という側面もあると。オレは体の良い隠れ蓑ってことなのか。

 「違います。ハズレです」

 「──オレ、まだ何も言ってないだろ?」

 「貴方は自分で思っているよりずっと顔に出るんです」

 「・・・」

 思わず両手で頬を押さえるオレを見て、ギヴは珍しく声をあげて笑った。

 結局この日のお茶会で決まったことは、二人で過ごす部屋と続き部屋になる二人の寝室の家具やインテリア。
 ギヴがそういった店をやっているし、詳しいからギヴの提案のまま頷いていたけれど、「え、ダブルベッド?二人で寝るのか?」とのオレの問に、ギヴは、「そういえば、領地に贈った農業機械はうまく作動してますでしょうか」と話を逸らし、領地経営の主となるワイン造りの話で盛り上がってしまい、そのまま流れでダブルベッドということになった、らしい。ま、いいけど。大人が二人寝ても十分な広さがあるらしいし。

 その夜、夕食にギヴが手土産に持ってきてくれたハムのステーキにナイフを入れながら、ふと、もしかして農機の話は威しだったのかな・・、とようやく気付いたのだった。いやいや、威しなんて言葉が悪いな。
 ギヴ、もしかしてダブルベッド好きなのかな、一人では寂しくて寝れない、とか?そうか、オレに突っ込んで聞かれたくなかったんだな。可愛いとこあるなあ。

 実際のギヴは全然可愛くなんかない、とこの先気付くのだが、この夜のオレはどこまでもお人好しだった。

 
 




 
 
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