《完結》政略結婚で幸せになるとか

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 お茶を飲んでいた四阿を出て秋の薔薇を堪能しながら石畳に沿って散策していくと、2階建てで縦長の、何の装飾も施されていない白い建物に着く。
 空調の為の細長い窓しかついてないこの建物は、そう、代々の美術品を納めた“物置”だ。

 「ここが、名高いポーラ侯爵家の博物館・・・」

 そんなだいそれたものじゃないけど、庭から続く入口の門を見て、ギベオンが感慨深げに呟いた。
 先々代が屋敷に置いておくと邪魔だったり、壊してしまったりするので一箇所にまとめたというだけらしいのだが、どうやら噂が噂を呼んでるらしい。
 
 「ギベオン君のお眼鏡に叶うと良いけど」

 中は絵画や骨董品等が多数並ぶが、年代物の皿や茶器なんかも多い。昔の家具もここに置かれている。
 ギベオンが話すには、学園に通っている頃から実家の影響で古美術に興味があり、長い休みには弟子入りして修行をして、今は古美術と宝石、2つの鑑定士の資格を持っているらしい。
 そして、卒業と同時にお試しで、家具とインテリア雑貨の店を始め、それがなかなか売上が良いのでもう一軒店を出すという。

 「・・・すごいな」

 素直に称賛の言葉が出た。劣等感の塊のオレは金持ちの貴族は嫌いだけど、ギベオンは別だ。努力して資格まで取ってるからね。他とは違う。
 しかも、のんびり見て回りながらお互いのことを少しずつ話していたが、ギベオンは本当に見どころのある、いい青年だということがわかった。
 また、すごく聞き上手で、「いつか、お金が貯まったら領地に博物館を建てて、入場料で余生を過ごす」という誰にも話していない絵空事めいた夢を語ると、

 「余生などと言わないで今から実行に移してはどうです?」

 お力にならせて下さい、とギベオンは嬉しい事を言ってくれた。それって資金面で、ってことだろうか。
 ギベオンの実家であるリゲル伯爵家は、貿易商であり、そこから色々な小売業、飲食業を手掛けているが、本業は銀行、という最強な家なのだ。
 
 「・・・ありがとう」

 思わず口をついた感謝に、ギベオンは貴族らしく微笑むだけだった。なんかギベオンって、すごく頼もしいな。いや、頼もしいのはお金か。・・・つまり、お金って最高だな。
 金のために男と結婚するという嫌な感情が、なんか霧散していた。
 そうだよ、男だからなんだっての?
 逆に、オレでいいの?侯爵家の肩書きしかないよ?
 しかも!ギベオンは若いのに世間的にも成功していて、話も楽しくて、聞き上手で、性格も良さげで、ハッ!しかもこいつ、めちゃくちゃイケメンだ。
 淡く輝く黄褐色の瞳が美しい。
 ギベオンが今まで婚約すらし
ていなかったのは奇跡だ。オレにとっての。
 オレはギベオンとの出会いにに心から感謝した。


 そこからは話がトントン拍子に進み、三ヶ月後には婚姻という運びになった。
 スピード婚だ。
 ギベオンは初めて顔合わせをしたお茶会から3日と空けずうちに通ってきて、結婚の打ち合わせを進めてくれる。
 まだ結婚前だけど領地の収穫に必要でしょうと農機具や大型の機械も買ってくれた。いい奴過ぎる。
 結婚式は教会から神父に来てもらって、披露パーティーと合わせてウチの庭で行うことになった。代々そうしてきたようだし、場所の費用も抑えられる。飲み物や食べ物、その他のかかる費用なんかは全てリゲル伯爵家持ちで、メイドやフットマンも連れてきてくれるらしい。
 頼もしい。
 出席者も最低限に抑え、──たかったのだがこちらはそうはいかなかった。リゲル伯爵家は商売の絡みで、うちは王家の血も入っている侯爵家ということで人数を削ることはできなかった。うちの庭はだだっ広いので、そこは大丈夫なのだが。
 王家からも誰かしら来るという。めんどくさ、と思っていたらギベオンが、その分ご祝儀がたんまり入るではありませんかと微笑む。なるほど、ご祝儀か。目からウロコが落ちた。
 さすが三男といえど商いで成功している家の人間だな、と感心した。
 だが、衣装ぐらいは自分で出すと申し出た。うちには何代も前からの衣装があるから実質タダだし。
 そう言ってギベオンに衣装を見せたら思いのほか気に入って、自分もこの衣装に合わせたものを作ると言い出して、でもこのままだと懐古趣味の要素が勝っているとかなんとか言って後日、衣装に合わせた装飾品を山のように持って来た。
 そしてその装飾品には宝石がこれでもかと幾つも散りばめられていた。
 この中から一つ付けろということかと問えば全部つけて欲しいと言われる。
 イヤリング、ネックレス、指輪、ブレスレット。この辺りはオレにだってわかる。だが他にも山のようにあるのはどこにどうやって付けたらいいのか。
 困るオレにギベオンは衣装を試着するように言い、仕度の終わったオレに、装飾品を一つ一つ手に取り、自らの手でオレを飾っていった。
 肩や胸、わずかしか覗かないだろう腰にも。
 ダイヤと真珠が主に使われているが他はシトリンやトパーズ等の黄味がかった宝石で、それが五、六十年前の型の古い式典用のくすんだシルバーのスーツによく合う。
 レトロに胸元や袖口から溢れ出るレースのブラウスにもぴったりだ。
 さすが、仕事柄かセンスがいいな。──と思っていたら、一番最後に、小さな天然真珠が蜘蛛の巣のようなレースに編み込まれたものを取り出し、頭に乗っけられた。

 「・・・」

 これは流石にいらないだろう?まるで花嫁のベールだ。

 「・・・素晴らしいです。まるで精霊のように儚くて、夢のように美しい・・・」

 宝石の鎖でがんじがらめにされて動けない錯覚に陥ってるオレとは逆に、ギベオンは頬を染め、自分のセンスの良さに感激している。

 「此等は全てハレの日の貴方の為に特注で作らせておいたものです。衣装とぴったり合って良かった。これも神のお導きですね」

 「・・・」

 既製品ではなかった。これだけの数の装飾品をいったいいつから作らせていたのか。
 もしかしてウチ、だいぶ前から狙われていた?

 ちゅ。

 慄いて固まっていたら唇の端にキスをされた。

 「ンなっ!!」

 「ああ、良かった。あまりの美しさに精霊たちが貴方の魂を彼の国に運んでしまったのかと思いました」

 何言ってんだコイツは!本当に年下か?金が有り過ぎて女遊びばかりしてんじゃないだろな。まだ学園を卒業したばかりの18歳のくせに。ひよっこのくせに。

 「う、動きづらい。こんなにじゃらじゃら、いらない」

 顔をぽっぽさせながら文句を言ったが笑顔で却下された。

 「一つでも欠けてはダメなのです」 

 ・・・どうして?
 後ろのエンを振り返ると、エンがギベオンに同意するように大きく頷いた。
 
 
 


 
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