《完結》政略結婚で幸せになるとか

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 これぞ政略結婚。
 どんと来い政略結婚。
 全然気にならないよ?だってオレはお貴族様なのだから!
 何としてもこの縁談をまとめる。ええ、そう固く決意していましたとも。──そう、実際に会うまでは!



 「風が気持ちのいい日ですね。ラブラドライト様」

 エンとドナ、そして家族総出で体裁を繕った我が家の庭園で、そよ~、と穏やかな風に吹かれながら微笑んでいる黒髪巻毛に金の瞳の美形。
 
 「そうですね。後でぜひ我が家の庭を案内させて下さい。庭師が丹精した花が見頃を迎えているんです」

 「ええ、ぜひ」

 ハハハ、ハハハ、ハハハ。

 ──って、来たの男じゃねえか!
 
 顔合わせのお茶会にやって来たのは、リゲル伯爵家の三男、ギベオンだった。
 思わず後ろを振り返って両親の部屋辺りを睨む。
 年を聞くと(女性じゃないからね、スパッと聞いてみた)オレの三つ下だと言う。ということは、貴族の子息のほとんどが通う6年制の学園でどうやら3年被っている計算になる。記憶にはないが。いや、あの当時の記憶といえば勉強したことしか出てこない。家の内証が苦しく、学費を払えない程だった為、奨学金をもらおうと必死に勉強していたのだ。
 そうでなくとも、4年生の時の新入生など普通は覚えていないだろう。
 逆もしかり。
 だが。

 「私はラブラドライト様を覚えています。──あれは、私が2年生で前期の生徒会に入り少し経った頃のことです」

 学園は3年間ずつで前期と後期に別れていて、生徒会もそれぞれ、もちろんイベントもそれぞれで行われていた。

 「前期と後期の生徒会の合同会議があって、後期生の棟に訪れた時です」

 後期生徒会室の窓から図書室が見え、そこでオレが勉強していたらしい。

 「後期の生徒会長がラブラドライト様のことを教えて下さいました。勤勉で優秀な生徒だと。生徒会に誘ったが素気無く袖にされたとも」
 
 「・・・ああ、殿下はお世辞を言ったんですよ」

 それか、皮肉を。
 当時の生徒会長、第3王子のスピネルには確かに何度か生徒会に誘われたし、なんならお茶会やランチ、狩猟等の貴族の遊びにも誘われた。全てお断りさせていただいたが。奨学金の為に学年1位でいなければいけなかったからな。お気楽に遊んでいる暇などなかった。オレは自分の分を知ってる男さ。
 だが、断られる方は嫌な気持ちになっただろう。取り巻きに何度か嫌味を言われたことがある。言わせた、とまでは思わないが、止めなかったのだから、まあ、そう思っているということだろう。
 オレ自身、侯爵家なのに内証が苦しいことを誰にも言えずやさぐれていたからな、金の苦労を知らないお坊ちゃまには自然と態度が悪くなっていたのかも。

 「ところで、こちらには希少な美術品が沢山あるとか。実家は美術品を扱った仕事もしておりまして、私もそちらに興味があるのです。見せて頂けたらありがたいのですが」

 来たな。
 歴史ある侯爵家には先祖代々伝わる美術品が多数ある。
 縁談を持ち掛けた理由の一つだろう。
 父の代になって数が多少減ってしまってはいるがそれでもかなりの数だ。
 泣く泣く売ってしまった美術品達はいつか全て買い戻すつもりでいる。 

 「ええ、もちろん。伴侶となる方には全てお見せしますよ」

 見せるだけね。売らないよ。意地悪くそう思う。
 今まで散々買い叩かれた記憶が、美術商の印象を悪くしていた。

 「ありがとうございます!私も侯爵家の為に援助を惜しみません!」

 おう!どんどん頼むぜ!感激したふうに言うギベオンを冷めた目で見る。

 「ラブラドライト様、では、この御縁、進めさせて頂いてよろしいですか?」

 「ええ。どうぞよろしくお願いします」

 お互い満面の笑み。にっこり。
 つまり、”政略結婚=仕事”ということだ。完全に理解したぞ。
 ならば、リゲル伯爵家の援助をフルに使って、父の作った借金の返済と領地経営に必要な用具とか買ってもらっちゃおっかな。手作業つらいからね。機械入れちゃおっと。

 「ところで、跡継ぎはどうしようか」

 男同士の婚姻では子宝は望めない。親族の中から養子を取るのが一般的だが。ここの手綱は渡せない。ここで向こうの一族から養子を取ることになったら侯爵家は乗っ取られると同義だ。

 「跡取りですか。私が口出しすべきことではありませんから、ラブラドライト様に全ておまかせします」

 え、まさかの放棄。

 「それでいいのか?」

 「はい。私には貴方がいて下されば十分ですので」

 面映そうにうつむくギベオン。
 どういう意味だろう。
 オレの代だけでかなりの儲けの試算をしてあるということなのか?美術品?売らせないけど、そこはぼかして結婚しちゃっていいよな。だって政略結婚だしな。

 「──ああ、それと、リゲル伯爵に父がお金を借りてるそうだね」

 「ええ、三百万ピノほどと聞いています」

 「・・・は?」

 聞き間違いかな。三百万ピノって聞こえたけど。
 オレのバイトの日当が三千ピノだ。一月で約九万ピノ。──いや、そんな計算に何の意味がある?バイト代は全て生活費で消える。その他の支払いは美術品を担保に入れてお金を借りてしのいでいるのだ。ちなみに父の月給は取り立て屋が全て持って行く。
 ──はあ、三百万・・・。父よ。

 「ですが、お返しいただかなくて結構だと父は申しておりました。御縁を金で買ったと思われたくはない、と」

 「ほ、本当ですか!?」

 「ええ」

 さすが資産家!いいこと言うねえ!

 「ありがとうございます!」

 オレは心の底からお礼を言った。
 ああ、今日はなんて素晴らしい日なんだ!人生最良の日かもしれない。

 「ラブラドライト様、そろそろお庭を案内して頂いても?」

 「ええ、もちろん」

 差し出された手を何も考えずに握る。
 椅子から立ち上がるとなぜか腰に手を回された。

 「・・・」

 え~と。オレ、エスコートされてる?


 
 
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