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馬車に乗り込んだ途端、言われた。
「ねえ、ラド。私達は、もっと話し合うべきだと思うんです。私達の関係について。その為には今回のこの旅はうってつけだと思いませんか?」
両手を握られる。
「あ~、そうかな?」
「ええ。私の気持ちはもうお伝えしました。あとは、ラドからの言葉が欲しいです」
「う、うーん。・・・今?」
「はい。今!」
「うーん、オレの気持ちは、だから、ギヴのこと、・・・すごくいいヤツだと思っているし、ギヴのおかげでいっぱい助かっていることあるし、・・・」
オレの口から愛の言葉を引き出したいんだろうけど、ついさっきまで白い結婚だと思っていたし、ギヴだって同じ気持ちだと信じていた。
それに、オレも、オレ自身のことがよくわからない。
この胸のときめきはギヴへのものなのか、・・・浅ましいけど、お金にときめいているという可能性も捨てきれない。
「しょうがない人ですね」
ギヴはため息混じりにそう言うと、隣に座るオレを抱き寄せ、まさかの膝の上に横座りに乗っけた。
「ギヴ!何すんの!下ろして!!」
「はい」
嫌がると、膝を開いてストン、とオレを座面に座らせた。
「いや、そういうことではなく・・・」
尻は膝に乗っていないだけで、ほぼ横抱きにされている。
「私はいつでもくっついていたい派です。それに、こうしていないとラドはすぐに気持ちが曖昧になってしまうでしょう?──貴方は私が好きなんです。愛しているんです。そうでしょう?」
「そう、なのか?」
金色の瞳に見つめられ、断言されると、確かにそうだと思えてくる。
「でもオレ、金銭面でお前に頼りっぱなしで・・・」
「いいじゃないですか。私が持っているお金は私の魅力の一つです。でも私は商人ですからね、贈りっぱなし、ということはありません。ちゃんと回収しますよ」
「つまり、お互いに贈り合う円満な関係ってことだよね。
──オレがギヴに贈れるものって・・・?」
「ええ、愛です。私は、ラドからの愛が欲しいんです。」
──愛。
爵位とか美術品じゃなくていいのだろうか。
「急には無理ですか?いいですよ。鈍いところも貴方の魅力の一つです。愛しています」
「オレは鈍くない!学園ではずっと首席だった!」
拗ねて言うと、ギヴは嬉しそうに笑う。
「だからこその魅力ではないですか」
なんだか、ギヴに全て主導権を取られている気がする。これではどっちが歳上かわからないな。
それからも、会話のところどころで愛の言葉を囁かれ、その度にドキドキしながら馬車に揺られた。もちろん横抱きのままだ。
途中、旅装の購入のためにリゲル伯爵家が経営する服屋に入り、何日か分の下着や服、コート、靴、その他沢山のものを買ってもらい、外に出たらとっぷり日が暮れていた。
まだ王都から出てもいないのだが。
「ギヴ・・・」
「おや、もう夜ですね。近くにいいバルがあるのですが、今夜はそこで一杯どうです?」
「何をのん気に!成人したばかりの奴が生意気言うんじゃない!買い物に時間をかけ過ぎだろ?もう門も閉まっている時刻だ。・・・こんな、オレ、足手まといになっているじゃないか。こんなことならオレは行かない方が。──あ、でも買ってもらったのがムダになる!」
言われるがままにファッションショーをしていた自分が嫌になる。
どーんと反省モードで落ち込んでいると、ギヴがまたとんでもないことを言い出した。
「この時間に新たに宿を取るのは難しそうなので、今夜は我が家に泊まりませんか?ラドが来てくれたら家族も喜びます」
「・・・え」
聞けばここから割と近いらしい。
「・・・ご両親にご挨拶、してないな、オレ」
気にはなっていた。が。そもそも政略結婚は挨拶とか、何なら式もすっ飛ばすことができる。だから、言い訳になるが、挨拶は式の当日でもいいかと考えていた。白い結婚なら。
「まあ、家に行っても家族に会えるとは限りませんが」
リゲル伯爵は毎晩屋敷を社交の場として開放しているらしく、家族で晩餐などは取らないらしい。
在学中、勉強ばかりしていた弊害か人見知りの面があるオレだが、そんなに希薄な家族関係なら挨拶をすることもないかと、泊まらせてもらうことに同意した。
ご挨拶のときにはちゃんと手土産を持って貴族らしく挨拶したいし。
そう思っていたのに。
「初めまして、ラブラドライト様。お会いできて嬉しく思います。ギベオンの父、ジルコンです。こちらは妻のユークレース。」
「初めまして、ラブラドライト樣。ギベオンの母です。ギベオンから話を聞いて、ずっとお会いしたいと思っていましたのよ」
──オレが甘かった。
リゲル伯爵であるギヴの父は背の高い、いかにも切れ者といった感じの背筋がピンと伸びた美丈夫だ。ギヴと同じ黒い巻毛に形の良いちょび髭を生やしている。
奥方であるギヴの母は、少しふっくらとして、金の髪と金の瞳が美しい、快活そうな方だ。
金の瞳がギヴそっくり。
──手土産がないのが本当に悔やまれた。
「ねえ、ラド。私達は、もっと話し合うべきだと思うんです。私達の関係について。その為には今回のこの旅はうってつけだと思いませんか?」
両手を握られる。
「あ~、そうかな?」
「ええ。私の気持ちはもうお伝えしました。あとは、ラドからの言葉が欲しいです」
「う、うーん。・・・今?」
「はい。今!」
「うーん、オレの気持ちは、だから、ギヴのこと、・・・すごくいいヤツだと思っているし、ギヴのおかげでいっぱい助かっていることあるし、・・・」
オレの口から愛の言葉を引き出したいんだろうけど、ついさっきまで白い結婚だと思っていたし、ギヴだって同じ気持ちだと信じていた。
それに、オレも、オレ自身のことがよくわからない。
この胸のときめきはギヴへのものなのか、・・・浅ましいけど、お金にときめいているという可能性も捨てきれない。
「しょうがない人ですね」
ギヴはため息混じりにそう言うと、隣に座るオレを抱き寄せ、まさかの膝の上に横座りに乗っけた。
「ギヴ!何すんの!下ろして!!」
「はい」
嫌がると、膝を開いてストン、とオレを座面に座らせた。
「いや、そういうことではなく・・・」
尻は膝に乗っていないだけで、ほぼ横抱きにされている。
「私はいつでもくっついていたい派です。それに、こうしていないとラドはすぐに気持ちが曖昧になってしまうでしょう?──貴方は私が好きなんです。愛しているんです。そうでしょう?」
「そう、なのか?」
金色の瞳に見つめられ、断言されると、確かにそうだと思えてくる。
「でもオレ、金銭面でお前に頼りっぱなしで・・・」
「いいじゃないですか。私が持っているお金は私の魅力の一つです。でも私は商人ですからね、贈りっぱなし、ということはありません。ちゃんと回収しますよ」
「つまり、お互いに贈り合う円満な関係ってことだよね。
──オレがギヴに贈れるものって・・・?」
「ええ、愛です。私は、ラドからの愛が欲しいんです。」
──愛。
爵位とか美術品じゃなくていいのだろうか。
「急には無理ですか?いいですよ。鈍いところも貴方の魅力の一つです。愛しています」
「オレは鈍くない!学園ではずっと首席だった!」
拗ねて言うと、ギヴは嬉しそうに笑う。
「だからこその魅力ではないですか」
なんだか、ギヴに全て主導権を取られている気がする。これではどっちが歳上かわからないな。
それからも、会話のところどころで愛の言葉を囁かれ、その度にドキドキしながら馬車に揺られた。もちろん横抱きのままだ。
途中、旅装の購入のためにリゲル伯爵家が経営する服屋に入り、何日か分の下着や服、コート、靴、その他沢山のものを買ってもらい、外に出たらとっぷり日が暮れていた。
まだ王都から出てもいないのだが。
「ギヴ・・・」
「おや、もう夜ですね。近くにいいバルがあるのですが、今夜はそこで一杯どうです?」
「何をのん気に!成人したばかりの奴が生意気言うんじゃない!買い物に時間をかけ過ぎだろ?もう門も閉まっている時刻だ。・・・こんな、オレ、足手まといになっているじゃないか。こんなことならオレは行かない方が。──あ、でも買ってもらったのがムダになる!」
言われるがままにファッションショーをしていた自分が嫌になる。
どーんと反省モードで落ち込んでいると、ギヴがまたとんでもないことを言い出した。
「この時間に新たに宿を取るのは難しそうなので、今夜は我が家に泊まりませんか?ラドが来てくれたら家族も喜びます」
「・・・え」
聞けばここから割と近いらしい。
「・・・ご両親にご挨拶、してないな、オレ」
気にはなっていた。が。そもそも政略結婚は挨拶とか、何なら式もすっ飛ばすことができる。だから、言い訳になるが、挨拶は式の当日でもいいかと考えていた。白い結婚なら。
「まあ、家に行っても家族に会えるとは限りませんが」
リゲル伯爵は毎晩屋敷を社交の場として開放しているらしく、家族で晩餐などは取らないらしい。
在学中、勉強ばかりしていた弊害か人見知りの面があるオレだが、そんなに希薄な家族関係なら挨拶をすることもないかと、泊まらせてもらうことに同意した。
ご挨拶のときにはちゃんと手土産を持って貴族らしく挨拶したいし。
そう思っていたのに。
「初めまして、ラブラドライト様。お会いできて嬉しく思います。ギベオンの父、ジルコンです。こちらは妻のユークレース。」
「初めまして、ラブラドライト樣。ギベオンの母です。ギベオンから話を聞いて、ずっとお会いしたいと思っていましたのよ」
──オレが甘かった。
リゲル伯爵であるギヴの父は背の高い、いかにも切れ者といった感じの背筋がピンと伸びた美丈夫だ。ギヴと同じ黒い巻毛に形の良いちょび髭を生やしている。
奥方であるギヴの母は、少しふっくらとして、金の髪と金の瞳が美しい、快活そうな方だ。
金の瞳がギヴそっくり。
──手土産がないのが本当に悔やまれた。
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