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鼓動、よーし。
呼吸、よーし。
顔の火照り、よーし。
「いい加減、離れろって」
ようやく平常心を取り戻したオレは声を上げ、ギヴの腕の中から抗議した。
落ち着くまでにけっこう長い時間抱き合っていたのは素知らぬふりだ。長い人生、ごまかしながら決断を先延ばしにするのもありだと思う。うん。ありありだ。
「テーブルライトの件はどうするんだ?」
だからというわけではないが、気になっていたことを聞いて話をそらしてみた。
「受注したからにはきちんと対応します。予定通りドワーフの村に頼みに行くつもりです」
「え、ドワーフ!」
まさかのワード!
「フフ、北のアビコ山の麓に小さな村があって、そこの工芸品がまるでドワーフが作ったかのように素晴らしいのです」
「だから、ドワーフの村・・・」
ロマンだなあ。
「良かったら一緒に行きませんか?」
「え?いや、仕事だろ?オレが行ったらおかしいだろ」
「そんなことはありません。あそことはひょんなことから縁が繋がり、学生時代からの付き合いなんです。これを機会に伴侶となる貴方のことを紹介できたら嬉しいのですが」
「そうか、でも・・・」
オレには毎朝の大事なお勤め(パン屋のバイト)があるからな。
「ドワーフの村は、観光地化されてはいませんが、実は温泉があるんです。天然の露天風呂は気持ちいいですよ。鹿や猿なんかも入って来て、びっくりしますがみんな大人しく入っているんです。そして更に素晴らしいのは、牛の放牧が盛んなので牛乳やチーズがとても美味しいんです。チーズフォンデュは絶品ですよ」
「チーズフォンデュ・・・」
オレの大好物の一つだ。
しかも動物達と露天風呂。
行きたい。・・・けど。
「もちろん、式のこともありますから、その村には長く滞在できませんが、道中も色々な見どころや美味しい郷土料理が沢山あります」
バイトのことは話していない。侯爵家の跡取り息子がバイトをしてるなんて前代未聞だし、きっと引かれてしまうだろう。
「もちろん、日々の仕事にお忙しいのはわかっています。ですが、貴方の仕事を誰かが代わりにやってくれるとしたらどうです?」
まあね。バイトを誰かが代わってくれるなら行けるけど。行きたいけど。そんなアテはない。
「急なのはわかっています。でもダメもとで侯爵様に聞いてみましょう」
なかなかに押しの強いギヴに連れられ、優雅にお茶をしている両親の元へと頼みに行き(ギヴが)、オレの毎日のバイトや領地経営の実務を何もわかっていない父様は簡単に了承した。
母様も、「あら、婚前旅行ね。素敵だわ」と微笑んでいる。そんなのん気な二人を見て、やはりこの生活力の無い二人を放っておけないと、きっぱりギヴに断ろうとした。
その時。
「ラブラドライト様」
ドナが小声で呼んできたので、さり気なくドアの横に立つドナの側まで行った。
「パン屋のバイトなら代わりに私が行けますので大丈夫です。心置きなく楽しんで来て下さい」
「・・・そ、そう?」
あっさりバイトの代わりが見つかってしまった。察しの良い使用人は家の宝だ。でもいいんだろうか、この急展開。
「──お義父様、お義母様。もう一つお願いがあります」
改まった感じでギヴが話し出した。
「今後、ラドのもとに、殿下のような用件が多く寄せられるでしょう。中にはとてもいい条件を提示してくる者もいるかもしれませんが。ですが、すべてお断り頂きたい。私達は“白い結婚”ではなく、愛し合って結婚するのです」
「「「え?」」」
親子で驚いてハモった。
ギヴがジトッと睨んでくる。
「ご、ごめん」
「私は、学生の頃からラドに片思いをしてきました。ラドには爵位や侯爵家の持ち物目当ての結婚ではないとはっきり伝えています」
──確かに。そういえばお茶会の日にも貴方さえいれば、みたいなこと言われたな。
「・・・そうだったのか。それを聞いて安心したよ。ラドを頼んだよ」
「ええ。片思いを実らせたなんて素敵!私達も恋愛結婚なのよ」
親の恋愛事情はできれば聞きたくない。微笑ましく見られたくもない。
「あら、あのコったら真っ赤になっちゃって。ウフフ」
指摘されたくもない。
「ラド、では行きましょう!」
ギヴの満面の笑みが眩しい。
こんな顔を見ると、恥ずか死んだ甲斐があるというものだ。
「ん。じゃあ、準備をしてくるから・・」
「準備など何も必要ありませんよ。その都度、必要なものは購入しましょう。式の日取りも迫っていますし。──それになにより私の大好きな素晴らしい景色をできるだけ多く貴方に見せたい!」
「ギヴ・・・」
きゅん。
胸がときめいて痛い。幸せで。
「あ、でもそんなことにお金を使うのは、」
「貴方の為ならいくらでも」
「はは・・・ありがとう」
恋愛結婚と言い切る割に、要所要所で金を出してくるギヴ。
そしてそんな彼にときめくオレ。
複雑な気持ちでギヴにエスコートされ、旅行、もとい仕事(ギヴの)の交渉に向かう為、馬車に乗り込んだ。
呼吸、よーし。
顔の火照り、よーし。
「いい加減、離れろって」
ようやく平常心を取り戻したオレは声を上げ、ギヴの腕の中から抗議した。
落ち着くまでにけっこう長い時間抱き合っていたのは素知らぬふりだ。長い人生、ごまかしながら決断を先延ばしにするのもありだと思う。うん。ありありだ。
「テーブルライトの件はどうするんだ?」
だからというわけではないが、気になっていたことを聞いて話をそらしてみた。
「受注したからにはきちんと対応します。予定通りドワーフの村に頼みに行くつもりです」
「え、ドワーフ!」
まさかのワード!
「フフ、北のアビコ山の麓に小さな村があって、そこの工芸品がまるでドワーフが作ったかのように素晴らしいのです」
「だから、ドワーフの村・・・」
ロマンだなあ。
「良かったら一緒に行きませんか?」
「え?いや、仕事だろ?オレが行ったらおかしいだろ」
「そんなことはありません。あそことはひょんなことから縁が繋がり、学生時代からの付き合いなんです。これを機会に伴侶となる貴方のことを紹介できたら嬉しいのですが」
「そうか、でも・・・」
オレには毎朝の大事なお勤め(パン屋のバイト)があるからな。
「ドワーフの村は、観光地化されてはいませんが、実は温泉があるんです。天然の露天風呂は気持ちいいですよ。鹿や猿なんかも入って来て、びっくりしますがみんな大人しく入っているんです。そして更に素晴らしいのは、牛の放牧が盛んなので牛乳やチーズがとても美味しいんです。チーズフォンデュは絶品ですよ」
「チーズフォンデュ・・・」
オレの大好物の一つだ。
しかも動物達と露天風呂。
行きたい。・・・けど。
「もちろん、式のこともありますから、その村には長く滞在できませんが、道中も色々な見どころや美味しい郷土料理が沢山あります」
バイトのことは話していない。侯爵家の跡取り息子がバイトをしてるなんて前代未聞だし、きっと引かれてしまうだろう。
「もちろん、日々の仕事にお忙しいのはわかっています。ですが、貴方の仕事を誰かが代わりにやってくれるとしたらどうです?」
まあね。バイトを誰かが代わってくれるなら行けるけど。行きたいけど。そんなアテはない。
「急なのはわかっています。でもダメもとで侯爵様に聞いてみましょう」
なかなかに押しの強いギヴに連れられ、優雅にお茶をしている両親の元へと頼みに行き(ギヴが)、オレの毎日のバイトや領地経営の実務を何もわかっていない父様は簡単に了承した。
母様も、「あら、婚前旅行ね。素敵だわ」と微笑んでいる。そんなのん気な二人を見て、やはりこの生活力の無い二人を放っておけないと、きっぱりギヴに断ろうとした。
その時。
「ラブラドライト様」
ドナが小声で呼んできたので、さり気なくドアの横に立つドナの側まで行った。
「パン屋のバイトなら代わりに私が行けますので大丈夫です。心置きなく楽しんで来て下さい」
「・・・そ、そう?」
あっさりバイトの代わりが見つかってしまった。察しの良い使用人は家の宝だ。でもいいんだろうか、この急展開。
「──お義父様、お義母様。もう一つお願いがあります」
改まった感じでギヴが話し出した。
「今後、ラドのもとに、殿下のような用件が多く寄せられるでしょう。中にはとてもいい条件を提示してくる者もいるかもしれませんが。ですが、すべてお断り頂きたい。私達は“白い結婚”ではなく、愛し合って結婚するのです」
「「「え?」」」
親子で驚いてハモった。
ギヴがジトッと睨んでくる。
「ご、ごめん」
「私は、学生の頃からラドに片思いをしてきました。ラドには爵位や侯爵家の持ち物目当ての結婚ではないとはっきり伝えています」
──確かに。そういえばお茶会の日にも貴方さえいれば、みたいなこと言われたな。
「・・・そうだったのか。それを聞いて安心したよ。ラドを頼んだよ」
「ええ。片思いを実らせたなんて素敵!私達も恋愛結婚なのよ」
親の恋愛事情はできれば聞きたくない。微笑ましく見られたくもない。
「あら、あのコったら真っ赤になっちゃって。ウフフ」
指摘されたくもない。
「ラド、では行きましょう!」
ギヴの満面の笑みが眩しい。
こんな顔を見ると、恥ずか死んだ甲斐があるというものだ。
「ん。じゃあ、準備をしてくるから・・」
「準備など何も必要ありませんよ。その都度、必要なものは購入しましょう。式の日取りも迫っていますし。──それになにより私の大好きな素晴らしい景色をできるだけ多く貴方に見せたい!」
「ギヴ・・・」
きゅん。
胸がときめいて痛い。幸せで。
「あ、でもそんなことにお金を使うのは、」
「貴方の為ならいくらでも」
「はは・・・ありがとう」
恋愛結婚と言い切る割に、要所要所で金を出してくるギヴ。
そしてそんな彼にときめくオレ。
複雑な気持ちでギヴにエスコートされ、旅行、もとい仕事(ギヴの)の交渉に向かう為、馬車に乗り込んだ。
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