《完結》政略結婚で幸せになるとか

mm

文字の大きさ
8 / 26

8

しおりを挟む
 残されたオレ達に何とも言えない沈黙が落ちた。
 オレは、別にいいと思いつつも、スピネルが言い放ったギヴの小細工が気になっていたし、ギヴも何か思いに沈んでいるようだった。
 
 「──テーブルライトの大量発注は殿下だったのか」

 「はい。間に人を入れていましたが」

 オレとギヴを引き離すために注文を入れたってこと?金持ち(王族)の発想はすごいな。

「えーと、ギヴはどうしてここに?」

 タイミング良すぎな気がする。

 「・・・それは。──貴方に見張りを付けていました。この時期、私がいなくなれば下心のある誰かが、必ず貴方の元を訪れるのではと」

 「そ、うなんだ」

 下心かぁ、確かにスピネルは下心があったな。

 「私の家は、三代前は平民で商人です。先の戦争で、金銭面での貢献が認められ男爵になり、その後も飢饉や流行り病などがある度、子爵、伯爵と爵位を上げてきました。商人にとって情報は利益の為に、損失を少なくする為に、何より大事なことなのです。だから、様々な場所に人を放っているのです」

 「うん」

 「──すいません、言い訳でした。貴方に対し姑息な真似をしてしまった。──ラド、心よりお詫びします。勝手に見張りを付けていたこと、・・・そして、出会ってから今までの、貴方に対する小細工をお詫びします」

 「ん。気にしないで。オレ達、家同士の結婚なんだし、・・って、出会ってからの、ってそんなに前から!?」

 オレは覚えがないけど、ギヴがオレに出会ったのは学園の2年生の時って言ってなかったか?

「・・・一目で恋に落ちました」

 「え?・・・それってオレのことが好きってこと?」

 「はい。私が小細工を弄してまで欲しかったのは家柄でも古美術品でもありません。貴方です。ただ、ただ、貴方が欲しかった」

 えーーーーっ!!!!

 「ラド」

 衝撃に固まるオレの前に、ギヴが騎士のように跪いてこちらを見上げてきた。

 「──私は、こういったことに不慣れで、追い詰めて貴方を手に入れても、二人で幸せになれると信じていました。だけど、先程の貴方の言葉。貴方からの愛の言葉が、本当に私が欲しかったものだと気付きました。
 私の悪事を何度でもお詫びします。どうか、もう一度やり直させてください。
 貴方を愛しています。
 愛しい人、どうか私の手を取って下さい。貴方と共に人生を歩んでいきたい」

 いつの間にか手を取られ、懇願されていた。
 これって、まるでプロポーズ・・・。いやプロポーズそのもの。・・・悪事って?

 「・・・あ、オレ、なんて言ったらいいか、あ、ありがとう?──っていうか立って!」

 無理矢理立たせた。
 
 「えーと、その、う、嬉しいよ。あ~・・だってさ、この先、仮面夫婦とか嫌だし、仲良くしたいって思ってたし」

 いや、何を言いたいんだオレ。困ってギヴを見上げると、ギヴもやっぱり困った顔をしていた。
 いつになく髪を乱している。これは玄関からショートカットで木立を抜けてきたからだな。もしかして走ったのか?
 スピネルとの愛人契約を阻止しようと?
 そっと前髪を直してみた。

 「一つ質問があります」

 「ああ、何?」

 「殿下の話を受けなかったのは何故です?」

 「・・・え?」

 「殿下は貴方に魅力的な提案をしたはずです」

 そういえば、騎士団の給与をくれるって話だったな・・・。
 
 「確かに魅力的な提案だったけど」

 今でさえ騎士団員は高給取りだ。王族だし、戦略も立てられそうだから将軍まで登り詰めるかもしれない。その給与を毎月もらえるのは魅力的だ。

 「でも、愛人は無理だな。抱きしめられたのが生理的に無理だったから」

 「そうですか。確かに殿下に抱きしめられている貴方は顔色が悪かったですね」

 うん。オレはこくりと厳かに頷いた。

 「・・・試してみてもいいですか?」

 「何を?」

 「私も貴方を抱きしめて、生理的にどうなのか判断して欲しいです」

 「何を真面目な顔でバカバカしいことを」

 男なら誰でも同じに決まっている。決まりきった答えに興味を無くし、屋敷の方へ踵を返した。
 
 「ラド・・・」

 背中から抱きしめられた。
 ドキン、と心臓が音を立てた。

 「私に抱きしめられるのは、嫌ですか?」

 後ろから、耳元で囁かれた。
 これ、前後ろは違うけど、スピネルにされたやつ。
 また気持ち悪く・・・ならないな。気持ち悪いというよりも、ドキドキする。背中に当たるギヴの胸の音も早い。
 
 「さっき、愛の言葉と共に私に抱きついてくれましたよね?あの時はどうでした?」

 私は、天にも昇る心地でしたよ、と続けた。
 
 「こ、こういうことは女性にしろ!」

 「嫌です。貴方にしかしたくありません」

 ぎゅぎゅう。
 強く抱きしめられ、呼吸困難だ。やめろ、バカ、と怒鳴りたいけど、顔の火照りが気になって、後ろを振り向くこともできない。
 
 「も、わかった、から」

 スピネルとは全然違う。気持ち悪くなんてない。むしろ、──気持ちいい。

 「・・・好きです。愛しています。ラド」

 ギヴは腕を緩め、気付いたら向き合って抱き直されていた。
 優しくオレの背中をさすりながら、

 「本当に、貴方は可愛い人だ」

 聞き覚えのある言葉をまた言って、また、頭のてっぺんにキスを落とした。
 

 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...