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ここは賭場ではない。
この場合のカードゲームはあくまで会話を円滑にするため、相手に顔色を伺わせないため、常に冷静な判断を下すため、等、つまりは商談を有利に運ぶためのツールなのだ。
わかっている。わかっているが、3戦3敗となると負けず嫌いの血が騒ぎだす。
今、ジョーカーはオレの手の内にある。次は宰相が俺の手札からカードを引く番だ。ここで必ずジョーカーを引かせる。
ギヴに考えていることが顔に出やすい、と言われたことがあるからな。あえて無表情を作る。
「実はね、ラリマーとは時間が会えばよくランチを共にする仲なんだ」
「は?」
ラリマーとは父の名だ。宰相が物凄いこと言い出した。
途端、力が抜け、カードが何枚か、はらりと手から落ちた。その中にはジョーカーもいる。
「ああ、やっぱり君のところにいたんだ」
あわあわと手札を戻した瞬間、端のカードを抜かれた。いや、落ちたの見ましたよね、そのまま手に持っただけだからどこにジョーカーがあるか知ってて違うの取りましたよね、なんなら目的のカード取りましたね。「ハイ、上がり」ってずるい!
「これでも君の父君には目を光らせていたんだ。あまりにも無防備でお人好しだからさ。寄ってくる羽虫達をどれだけ潰したかな。この程度の没落で済んでいるのは私のお陰だと自負しているよ」
そ、そうだったのか・・・。
かなりひどいと思っていた父の人助け(という名の浪費)は宰相が動いてくれなければもっとひどかったのか。
「・・・ありがとうございます」
オレの言葉に三じじは笑った。
「ラリマーの話題はいつでも妻と息子のことでね。妻は女神のように美しく、息子はいつか宰相になれるほど賢い、と。確かに領地経営に乗り出して三年で目処をつけるとはなかなかやるね」
「いえ、そんな」
隣のギヴのカードを引きながら応える。
「で、ワインはどれ程の量が見込めるのかね?まあ、試飲してからの話にはなるが、ボジョレーを私のところで独占販売してもいいと思っているのだが」
ホテルチェーンの会長が軽い口調で提案してきた。
「君のところには瓶やラベルなんかのノウハウはないんじゃないのかい?うちが一括してやれば効率もいいし、お互いに利がある」
「ありがたいお話です・・・」
うまい話に即乗ろうとしたら、隣のギヴが口を挟んできた。
「ええ、本当にありがたいお話ではありますが、実はもう酒造会社を立ち上げた後でして」
残念です、と微笑んだ。
「侯爵家の領地は地の利に恵まれていますので、今後は観光の整備にも力を入れていく予定です。博物館や、──そう、リゾートホテルなんかも必要になってきますね、ラド」
「──そうだね、ギヴ」
ちゃんと笑顔を作れていただろうか。もちろん、ギヴが話した内容は何一つ話し合ったことすらない。ああ、博物館の話はしたことがあったっけ。
「ほほう、ホテル経営なら力になってやれるかもしれないよ?」
「ええ、ぜひお願いします。でも今はまだ、始めたばかりの事業ですし、出資を広く募っているところです」
「乗ろう。表立っては動けないが妻の財産から動かすよ」
宰相が一番に名乗りを上げた。
「ふうむ」
と、会頭。
「ちなみにワインの名前は、エメラルドにちなんだ名前にしようと考えています」
にっこりとオレに微笑みかけるギヴ。
エメラルドとは、オレの瞳の色を名付けに使うと?うちは赤ワインがメインなのだが、苦情など来ないだろうか。
「いいね」
「詰める瓶の色を従来のものより少し鮮やかな緑にするのも、案の一つとしてあります」
「ふうむ」
会頭は唸ってばかりで会長からカードを引くのをお忘れだ。
「──よし、全ては結婚式でワインの味を確かめてからだ」
会頭が結論を出し、会長からカードを引き、上がった。
「そうだね。私もそうしよう。美味ければ、ぜひ出資させてくれ。──ああ、それから、博物館の話はとても良いね。侯爵家はとても歴史があるから。その時にはうちにある、侯爵家から譲ってもらったティーセットを寄贈するよ」
「ありがとうございます」
信じられない思いで、お礼を言った。胸がドキドキと高鳴っている。いともあっさりと商談がまとまったのだ。厳密には違うけど、とても脈アリだ。
「ふむ、ここらで乾杯でもどうだね?」
「いいね。二人の結婚に」
「我々の発展に」
「神秘的なエメラルドに」
「皆様の健康に」
「今夜の出会いに」
「「「「「乾杯!」」」」」
席を立ちフルートグラスを軽く触れ合わせた。
「全てギヴのおかげだよ!何度お礼を言っても足りないくらいだ!」
3階の家族のフロアにあるシャワー室で並んでシャワーを浴びてる。といっても仕切りがあって、肩から上と膝から下が出ている状態だ。
贅沢にお湯を浴びながら、湯けむりの中、ギヴに何度も感謝を伝えた。
「大したことはしてませんよ。先にあがっていますね。部屋で待っています」
「ん、わかった」
侯爵家の命運を握る程の商談をまとめたのに本人はいたって冷静だ。そこがまたカッコいいが。
口ばかりで手を動かしていなかったせいで置いてきぼりにされてしまった。急がねば。
オレは手早く全身を洗い、用意してもらった夜着を着てギヴの部屋へ向かった。
この場合のカードゲームはあくまで会話を円滑にするため、相手に顔色を伺わせないため、常に冷静な判断を下すため、等、つまりは商談を有利に運ぶためのツールなのだ。
わかっている。わかっているが、3戦3敗となると負けず嫌いの血が騒ぎだす。
今、ジョーカーはオレの手の内にある。次は宰相が俺の手札からカードを引く番だ。ここで必ずジョーカーを引かせる。
ギヴに考えていることが顔に出やすい、と言われたことがあるからな。あえて無表情を作る。
「実はね、ラリマーとは時間が会えばよくランチを共にする仲なんだ」
「は?」
ラリマーとは父の名だ。宰相が物凄いこと言い出した。
途端、力が抜け、カードが何枚か、はらりと手から落ちた。その中にはジョーカーもいる。
「ああ、やっぱり君のところにいたんだ」
あわあわと手札を戻した瞬間、端のカードを抜かれた。いや、落ちたの見ましたよね、そのまま手に持っただけだからどこにジョーカーがあるか知ってて違うの取りましたよね、なんなら目的のカード取りましたね。「ハイ、上がり」ってずるい!
「これでも君の父君には目を光らせていたんだ。あまりにも無防備でお人好しだからさ。寄ってくる羽虫達をどれだけ潰したかな。この程度の没落で済んでいるのは私のお陰だと自負しているよ」
そ、そうだったのか・・・。
かなりひどいと思っていた父の人助け(という名の浪費)は宰相が動いてくれなければもっとひどかったのか。
「・・・ありがとうございます」
オレの言葉に三じじは笑った。
「ラリマーの話題はいつでも妻と息子のことでね。妻は女神のように美しく、息子はいつか宰相になれるほど賢い、と。確かに領地経営に乗り出して三年で目処をつけるとはなかなかやるね」
「いえ、そんな」
隣のギヴのカードを引きながら応える。
「で、ワインはどれ程の量が見込めるのかね?まあ、試飲してからの話にはなるが、ボジョレーを私のところで独占販売してもいいと思っているのだが」
ホテルチェーンの会長が軽い口調で提案してきた。
「君のところには瓶やラベルなんかのノウハウはないんじゃないのかい?うちが一括してやれば効率もいいし、お互いに利がある」
「ありがたいお話です・・・」
うまい話に即乗ろうとしたら、隣のギヴが口を挟んできた。
「ええ、本当にありがたいお話ではありますが、実はもう酒造会社を立ち上げた後でして」
残念です、と微笑んだ。
「侯爵家の領地は地の利に恵まれていますので、今後は観光の整備にも力を入れていく予定です。博物館や、──そう、リゾートホテルなんかも必要になってきますね、ラド」
「──そうだね、ギヴ」
ちゃんと笑顔を作れていただろうか。もちろん、ギヴが話した内容は何一つ話し合ったことすらない。ああ、博物館の話はしたことがあったっけ。
「ほほう、ホテル経営なら力になってやれるかもしれないよ?」
「ええ、ぜひお願いします。でも今はまだ、始めたばかりの事業ですし、出資を広く募っているところです」
「乗ろう。表立っては動けないが妻の財産から動かすよ」
宰相が一番に名乗りを上げた。
「ふうむ」
と、会頭。
「ちなみにワインの名前は、エメラルドにちなんだ名前にしようと考えています」
にっこりとオレに微笑みかけるギヴ。
エメラルドとは、オレの瞳の色を名付けに使うと?うちは赤ワインがメインなのだが、苦情など来ないだろうか。
「いいね」
「詰める瓶の色を従来のものより少し鮮やかな緑にするのも、案の一つとしてあります」
「ふうむ」
会頭は唸ってばかりで会長からカードを引くのをお忘れだ。
「──よし、全ては結婚式でワインの味を確かめてからだ」
会頭が結論を出し、会長からカードを引き、上がった。
「そうだね。私もそうしよう。美味ければ、ぜひ出資させてくれ。──ああ、それから、博物館の話はとても良いね。侯爵家はとても歴史があるから。その時にはうちにある、侯爵家から譲ってもらったティーセットを寄贈するよ」
「ありがとうございます」
信じられない思いで、お礼を言った。胸がドキドキと高鳴っている。いともあっさりと商談がまとまったのだ。厳密には違うけど、とても脈アリだ。
「ふむ、ここらで乾杯でもどうだね?」
「いいね。二人の結婚に」
「我々の発展に」
「神秘的なエメラルドに」
「皆様の健康に」
「今夜の出会いに」
「「「「「乾杯!」」」」」
席を立ちフルートグラスを軽く触れ合わせた。
「全てギヴのおかげだよ!何度お礼を言っても足りないくらいだ!」
3階の家族のフロアにあるシャワー室で並んでシャワーを浴びてる。といっても仕切りがあって、肩から上と膝から下が出ている状態だ。
贅沢にお湯を浴びながら、湯けむりの中、ギヴに何度も感謝を伝えた。
「大したことはしてませんよ。先にあがっていますね。部屋で待っています」
「ん、わかった」
侯爵家の命運を握る程の商談をまとめたのに本人はいたって冷静だ。そこがまたカッコいいが。
口ばかりで手を動かしていなかったせいで置いてきぼりにされてしまった。急がねば。
オレは手早く全身を洗い、用意してもらった夜着を着てギヴの部屋へ向かった。
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