12 / 26
12
しおりを挟む
ここは賭場ではない。
この場合のカードゲームはあくまで会話を円滑にするため、相手に顔色を伺わせないため、常に冷静な判断を下すため、等、つまりは商談を有利に運ぶためのツールなのだ。
わかっている。わかっているが、3戦3敗となると負けず嫌いの血が騒ぎだす。
今、ジョーカーはオレの手の内にある。次は宰相が俺の手札からカードを引く番だ。ここで必ずジョーカーを引かせる。
ギヴに考えていることが顔に出やすい、と言われたことがあるからな。あえて無表情を作る。
「実はね、ラリマーとは時間が会えばよくランチを共にする仲なんだ」
「は?」
ラリマーとは父の名だ。宰相が物凄いこと言い出した。
途端、力が抜け、カードが何枚か、はらりと手から落ちた。その中にはジョーカーもいる。
「ああ、やっぱり君のところにいたんだ」
あわあわと手札を戻した瞬間、端のカードを抜かれた。いや、落ちたの見ましたよね、そのまま手に持っただけだからどこにジョーカーがあるか知ってて違うの取りましたよね、なんなら目的のカード取りましたね。「ハイ、上がり」ってずるい!
「これでも君の父君には目を光らせていたんだ。あまりにも無防備でお人好しだからさ。寄ってくる羽虫達をどれだけ潰したかな。この程度の没落で済んでいるのは私のお陰だと自負しているよ」
そ、そうだったのか・・・。
かなりひどいと思っていた父の人助け(という名の浪費)は宰相が動いてくれなければもっとひどかったのか。
「・・・ありがとうございます」
オレの言葉に三じじは笑った。
「ラリマーの話題はいつでも妻と息子のことでね。妻は女神のように美しく、息子はいつか宰相になれるほど賢い、と。確かに領地経営に乗り出して三年で目処をつけるとはなかなかやるね」
「いえ、そんな」
隣のギヴのカードを引きながら応える。
「で、ワインはどれ程の量が見込めるのかね?まあ、試飲してからの話にはなるが、ボジョレーを私のところで独占販売してもいいと思っているのだが」
ホテルチェーンの会長が軽い口調で提案してきた。
「君のところには瓶やラベルなんかのノウハウはないんじゃないのかい?うちが一括してやれば効率もいいし、お互いに利がある」
「ありがたいお話です・・・」
うまい話に即乗ろうとしたら、隣のギヴが口を挟んできた。
「ええ、本当にありがたいお話ではありますが、実はもう酒造会社を立ち上げた後でして」
残念です、と微笑んだ。
「侯爵家の領地は地の利に恵まれていますので、今後は観光の整備にも力を入れていく予定です。博物館や、──そう、リゾートホテルなんかも必要になってきますね、ラド」
「──そうだね、ギヴ」
ちゃんと笑顔を作れていただろうか。もちろん、ギヴが話した内容は何一つ話し合ったことすらない。ああ、博物館の話はしたことがあったっけ。
「ほほう、ホテル経営なら力になってやれるかもしれないよ?」
「ええ、ぜひお願いします。でも今はまだ、始めたばかりの事業ですし、出資を広く募っているところです」
「乗ろう。表立っては動けないが妻の財産から動かすよ」
宰相が一番に名乗りを上げた。
「ふうむ」
と、会頭。
「ちなみにワインの名前は、エメラルドにちなんだ名前にしようと考えています」
にっこりとオレに微笑みかけるギヴ。
エメラルドとは、オレの瞳の色を名付けに使うと?うちは赤ワインがメインなのだが、苦情など来ないだろうか。
「いいね」
「詰める瓶の色を従来のものより少し鮮やかな緑にするのも、案の一つとしてあります」
「ふうむ」
会頭は唸ってばかりで会長からカードを引くのをお忘れだ。
「──よし、全ては結婚式でワインの味を確かめてからだ」
会頭が結論を出し、会長からカードを引き、上がった。
「そうだね。私もそうしよう。美味ければ、ぜひ出資させてくれ。──ああ、それから、博物館の話はとても良いね。侯爵家はとても歴史があるから。その時にはうちにある、侯爵家から譲ってもらったティーセットを寄贈するよ」
「ありがとうございます」
信じられない思いで、お礼を言った。胸がドキドキと高鳴っている。いともあっさりと商談がまとまったのだ。厳密には違うけど、とても脈アリだ。
「ふむ、ここらで乾杯でもどうだね?」
「いいね。二人の結婚に」
「我々の発展に」
「神秘的なエメラルドに」
「皆様の健康に」
「今夜の出会いに」
「「「「「乾杯!」」」」」
席を立ちフルートグラスを軽く触れ合わせた。
「全てギヴのおかげだよ!何度お礼を言っても足りないくらいだ!」
3階の家族のフロアにあるシャワー室で並んでシャワーを浴びてる。といっても仕切りがあって、肩から上と膝から下が出ている状態だ。
贅沢にお湯を浴びながら、湯けむりの中、ギヴに何度も感謝を伝えた。
「大したことはしてませんよ。先にあがっていますね。部屋で待っています」
「ん、わかった」
侯爵家の命運を握る程の商談をまとめたのに本人はいたって冷静だ。そこがまたカッコいいが。
口ばかりで手を動かしていなかったせいで置いてきぼりにされてしまった。急がねば。
オレは手早く全身を洗い、用意してもらった夜着を着てギヴの部屋へ向かった。
この場合のカードゲームはあくまで会話を円滑にするため、相手に顔色を伺わせないため、常に冷静な判断を下すため、等、つまりは商談を有利に運ぶためのツールなのだ。
わかっている。わかっているが、3戦3敗となると負けず嫌いの血が騒ぎだす。
今、ジョーカーはオレの手の内にある。次は宰相が俺の手札からカードを引く番だ。ここで必ずジョーカーを引かせる。
ギヴに考えていることが顔に出やすい、と言われたことがあるからな。あえて無表情を作る。
「実はね、ラリマーとは時間が会えばよくランチを共にする仲なんだ」
「は?」
ラリマーとは父の名だ。宰相が物凄いこと言い出した。
途端、力が抜け、カードが何枚か、はらりと手から落ちた。その中にはジョーカーもいる。
「ああ、やっぱり君のところにいたんだ」
あわあわと手札を戻した瞬間、端のカードを抜かれた。いや、落ちたの見ましたよね、そのまま手に持っただけだからどこにジョーカーがあるか知ってて違うの取りましたよね、なんなら目的のカード取りましたね。「ハイ、上がり」ってずるい!
「これでも君の父君には目を光らせていたんだ。あまりにも無防備でお人好しだからさ。寄ってくる羽虫達をどれだけ潰したかな。この程度の没落で済んでいるのは私のお陰だと自負しているよ」
そ、そうだったのか・・・。
かなりひどいと思っていた父の人助け(という名の浪費)は宰相が動いてくれなければもっとひどかったのか。
「・・・ありがとうございます」
オレの言葉に三じじは笑った。
「ラリマーの話題はいつでも妻と息子のことでね。妻は女神のように美しく、息子はいつか宰相になれるほど賢い、と。確かに領地経営に乗り出して三年で目処をつけるとはなかなかやるね」
「いえ、そんな」
隣のギヴのカードを引きながら応える。
「で、ワインはどれ程の量が見込めるのかね?まあ、試飲してからの話にはなるが、ボジョレーを私のところで独占販売してもいいと思っているのだが」
ホテルチェーンの会長が軽い口調で提案してきた。
「君のところには瓶やラベルなんかのノウハウはないんじゃないのかい?うちが一括してやれば効率もいいし、お互いに利がある」
「ありがたいお話です・・・」
うまい話に即乗ろうとしたら、隣のギヴが口を挟んできた。
「ええ、本当にありがたいお話ではありますが、実はもう酒造会社を立ち上げた後でして」
残念です、と微笑んだ。
「侯爵家の領地は地の利に恵まれていますので、今後は観光の整備にも力を入れていく予定です。博物館や、──そう、リゾートホテルなんかも必要になってきますね、ラド」
「──そうだね、ギヴ」
ちゃんと笑顔を作れていただろうか。もちろん、ギヴが話した内容は何一つ話し合ったことすらない。ああ、博物館の話はしたことがあったっけ。
「ほほう、ホテル経営なら力になってやれるかもしれないよ?」
「ええ、ぜひお願いします。でも今はまだ、始めたばかりの事業ですし、出資を広く募っているところです」
「乗ろう。表立っては動けないが妻の財産から動かすよ」
宰相が一番に名乗りを上げた。
「ふうむ」
と、会頭。
「ちなみにワインの名前は、エメラルドにちなんだ名前にしようと考えています」
にっこりとオレに微笑みかけるギヴ。
エメラルドとは、オレの瞳の色を名付けに使うと?うちは赤ワインがメインなのだが、苦情など来ないだろうか。
「いいね」
「詰める瓶の色を従来のものより少し鮮やかな緑にするのも、案の一つとしてあります」
「ふうむ」
会頭は唸ってばかりで会長からカードを引くのをお忘れだ。
「──よし、全ては結婚式でワインの味を確かめてからだ」
会頭が結論を出し、会長からカードを引き、上がった。
「そうだね。私もそうしよう。美味ければ、ぜひ出資させてくれ。──ああ、それから、博物館の話はとても良いね。侯爵家はとても歴史があるから。その時にはうちにある、侯爵家から譲ってもらったティーセットを寄贈するよ」
「ありがとうございます」
信じられない思いで、お礼を言った。胸がドキドキと高鳴っている。いともあっさりと商談がまとまったのだ。厳密には違うけど、とても脈アリだ。
「ふむ、ここらで乾杯でもどうだね?」
「いいね。二人の結婚に」
「我々の発展に」
「神秘的なエメラルドに」
「皆様の健康に」
「今夜の出会いに」
「「「「「乾杯!」」」」」
席を立ちフルートグラスを軽く触れ合わせた。
「全てギヴのおかげだよ!何度お礼を言っても足りないくらいだ!」
3階の家族のフロアにあるシャワー室で並んでシャワーを浴びてる。といっても仕切りがあって、肩から上と膝から下が出ている状態だ。
贅沢にお湯を浴びながら、湯けむりの中、ギヴに何度も感謝を伝えた。
「大したことはしてませんよ。先にあがっていますね。部屋で待っています」
「ん、わかった」
侯爵家の命運を握る程の商談をまとめたのに本人はいたって冷静だ。そこがまたカッコいいが。
口ばかりで手を動かしていなかったせいで置いてきぼりにされてしまった。急がねば。
オレは手早く全身を洗い、用意してもらった夜着を着てギヴの部屋へ向かった。
95
あなたにおすすめの小説
【完結】運命じゃない香りの、恋
麻田夏与/Kayo Asada
BL
オメガ性のリュカ・レバノンは、王国の第一王子ダイセルが見初めた、彼の運命の番だ。だが、ダイセル王子に無体な真似を働かれ、リュカは婚約の王命を断ろうとする。当然、王宮からの追っ手が来たところで──「そなた、何やら素晴らしい香りをしているな」。その声は、国一番の魔術師兼調香師のマシレ・グラースのものだった。調香師アルファ×不幸めオメガのラブストーリー。
この運命を、あなたに。
皆中透
BL
オメガが治める国、オルサラータ。この国は、王がアルファを側室に迎える形式で子孫を残し、繁栄して来た。
イセイは現王ジュオの運命のつがいとの間の息子で、ジュオの二番目の子供にあたる。彼には兄が一人と弟が二人いるのだが、その弟の父であるイファに長年恋心を寄せていた。
しかし、実父の側室であり、弟たちの父親である人を奪ってまで幸せになる事など出来ないと思い、一度もその想いを告げたことはなかった。そして、成人後には遠くの領地をもらい、イファから離れる道を選ぶと決めている。そうして想いに蓋をしたまま、彼は成人の日を迎えた。
祝宴の日の朝、正装をした四兄弟は杯を交わし、これからも変わらずにいることを誓い合おうとしていた。すると、その杯を飲み干したイセイは、そのままその場に倒れ込んでしまう。
暗殺かと思われたその出来事は、イセイが翌日目を覚ましたことで杞憂に終わったのだが、目覚めたイセイはなぜかオメガになっていて……。
秘めた想いが絡まり合い、真っ直ぐに繋がれない恋。
不器用な二人が番うまでの日々を綴る、訳ありオメガバース。
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
メランコリック・ハートビート
おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】
------------------------------------------------------
『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』
あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。
-------------------------------------------------------
第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。
幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。
【完結】偽装結婚の代償〜リュシアン視点〜
伽羅
BL
リュシアンは従姉妹であるヴァネッサにプロポーズをした。
だが、それはお互いに恋愛感情からくるものではなく、利害が一致しただけの関係だった。
リュシアンの真の狙いとは…。
「偽装結婚の代償〜他に好きな人がいるのに結婚した私達〜」のリュシアン視点です。
次は絶対死なせない
真魚
BL
【皇太子x氷の宰相】
宰相のサディアスは、密かにずっと想っていたカイル皇子を流行病で失い、絶望のどん底に突き落とされた。しかし、目覚めると数ヶ月前にタイムリープしており、皇子はまだ生きていた。
次こそは絶対に皇子を死なせないようにと、サディアスは皇子と聖女との仲を取り持とうとするが、カイルは聖女にまったく目もくれない。それどころかカイルは、サディアスと聖女の関係にイラつき出して……
※ムーンライトノベルズにも掲載しています
白銀オメガに草原で愛を
phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。
己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。
「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」
「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」
キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。
無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています
追放系治癒術師は今日も無能
リラックス@ピロー
BL
「エディ、お前もうパーティ抜けろ」ある夜、幼馴染でパーティを組むイーノックは唐突にそう言った。剣術に優れているわけでも、秀でた魔術が使える訳でもない。治癒術師を名乗っているが、それも実力が伴わない半人前。完全にパーティのお荷物。そんな俺では共に旅が出来るわけも無く。
追放されたその日から、俺の生活は一変した。しかし一人街に降りた先で出会ったのは、かつて俺とイーノックがパーティを組むきっかけとなった冒険者、グレアムだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる