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ポンコツ王太子
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ジルベールは王宮のテラスにいた。テラスで「アンドなんとか」という女にケーキを「あーん」してもらっている最中だった。
「何やってるんですか兄上、真っ昼間から!」
シャルルはイチャつく兄と、アンドなんとかに詰め寄った。
「こ、こんな王宮のテラスで、他の者が皆見ているではないですか。それに、公務の方は、どうなさったのです」
込み上げる怒りをなんとか抑えながら兄に問うと、兄ジルベールは締まりのない顔で「あ~」と言った。
「あ~じゃないですよ兄上、まだお仕事が残っているでしょう?」
「もう終わった」
「え?」
「俺の未来の王妃……アンドロイドが全部やってくれたよ。だから問題ナーシ」
ジルベールはそう言いながら、甘えるようにアンドロイドという女の膝に、頭を乗せた。膝枕というやつだ。
「兄上……」
「第二王子シャルル殿下。お初にお目にかかります、異世界より召喚された、アンドロイドと申します」
シャルルが見ちゃいられないと情けない声を出すと同時に、アンドロイドがシャルルに向かって綺麗にお辞儀をした。もっとも、膝にジルベールを乗せているので立ち上がることはできなかったが。
「アンドロイド……それが貴方の名前ですか」
その美しさに、シャルルも一瞬だけ目を奪われた。だけど何だろう、どこか、冷たい感じのする女だ、とシャルルは心の奥で感じた。
「アンドロイドが私の名前……まあ、そうであると言えます」
「……? 貴方が兄上の公務をすべて行ったというのは本当なのですか」
「ええ。私の手にかかればお茶の子さいさいです」
「アンドロイドは凄いぞ、一度教えたことは忘れない、仕事は正確、疲れた顔も見せない、完璧だ」
ジルベールが膝枕されながらデレデレ顔でドヤった。
それはそうである。なにせ23世紀の日本のアンドロイドなのだから。アンドロイドは人間そっくりに造られた機械だ。機械だから記憶力は抜群、仕事は正確でミスをしない、そして、どんなに働いても疲れることはない。けれども機械人間の存在という概念を持たないジルベールやシャルル、ひいてはこの世界の人々は、アンドロイドを絶対的に理解できなかった。
この世界は科学の代わりに魔法が発達している世界なのだから。
公務を完璧に……? それならば、やはりこの女性はこの国の王妃にふさわしいのだろうか。シャルルは少し戸惑ったが、兄のみっともない姿を見て、いやいや、やはりこれではいけない、と思い直す。
「アンドロイド殿。貴方は召喚されたと言われましたね。それは、誰に?」
シャルルはこの感情が読めない、どこかおそろしくもある女に問うた。
「一級魔導師のミゲルです」
アンドロイドは顔色一つ変えずに答えた。
「ミゲル……」
そいつを捕らえて、尋問したほうがいいな。
シャルルは軟体動物のようにアンドロイドにへばりつく兄を一瞥して、とりあえず頭を下げると、テラスを離れた。
「何やってるんですか兄上、真っ昼間から!」
シャルルはイチャつく兄と、アンドなんとかに詰め寄った。
「こ、こんな王宮のテラスで、他の者が皆見ているではないですか。それに、公務の方は、どうなさったのです」
込み上げる怒りをなんとか抑えながら兄に問うと、兄ジルベールは締まりのない顔で「あ~」と言った。
「あ~じゃないですよ兄上、まだお仕事が残っているでしょう?」
「もう終わった」
「え?」
「俺の未来の王妃……アンドロイドが全部やってくれたよ。だから問題ナーシ」
ジルベールはそう言いながら、甘えるようにアンドロイドという女の膝に、頭を乗せた。膝枕というやつだ。
「兄上……」
「第二王子シャルル殿下。お初にお目にかかります、異世界より召喚された、アンドロイドと申します」
シャルルが見ちゃいられないと情けない声を出すと同時に、アンドロイドがシャルルに向かって綺麗にお辞儀をした。もっとも、膝にジルベールを乗せているので立ち上がることはできなかったが。
「アンドロイド……それが貴方の名前ですか」
その美しさに、シャルルも一瞬だけ目を奪われた。だけど何だろう、どこか、冷たい感じのする女だ、とシャルルは心の奥で感じた。
「アンドロイドが私の名前……まあ、そうであると言えます」
「……? 貴方が兄上の公務をすべて行ったというのは本当なのですか」
「ええ。私の手にかかればお茶の子さいさいです」
「アンドロイドは凄いぞ、一度教えたことは忘れない、仕事は正確、疲れた顔も見せない、完璧だ」
ジルベールが膝枕されながらデレデレ顔でドヤった。
それはそうである。なにせ23世紀の日本のアンドロイドなのだから。アンドロイドは人間そっくりに造られた機械だ。機械だから記憶力は抜群、仕事は正確でミスをしない、そして、どんなに働いても疲れることはない。けれども機械人間の存在という概念を持たないジルベールやシャルル、ひいてはこの世界の人々は、アンドロイドを絶対的に理解できなかった。
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「一級魔導師のミゲルです」
アンドロイドは顔色一つ変えずに答えた。
「ミゲル……」
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シャルルは軟体動物のようにアンドロイドにへばりつく兄を一瞥して、とりあえず頭を下げると、テラスを離れた。
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