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第一章 転生先は……どこ?

第七話 まだ、怒っているんだよ

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翌朝、アビーの顔はずっと不貞腐れたままだ。
「アビー。いい加減にしなさい。いつまで不貞腐れているの。折角の可愛い格好が台無しよ」
「ねえ、履き替えてもいい?」
「ダメよ。せめて、お披露目が終わるまでは我慢しなさい」
「でも……」
アビーも何も理由もなく不貞腐れているわけでは無い。今の格好がアビーにはどうしても我慢出来ないから、不貞腐れているのだ。
そして、その格好というのが、寝ている内に履かされていたチェック柄のスカートだ。
そして、そんなアビーを無視してジュディは可愛いと連呼して、満足そうにしている。
「アビー、何がそんなに気に入らないんだ。ちゃんと可愛いじゃないか」
「だって……」
マークに可愛いと言われてもアビーの機嫌は直らない。
そもそも、男の子と勘違いしたのは、マークの不用意な発言のせいなのに、当のマークは悪びれる様子もない。
「もう、そもそもマークのせいでこんなややこしいことになったんでしょ。ちゃんと、反省してるの?」
「してる、してるって。だから、ほら、馬車もちゃんと借りて来たでしょ」
「馬車っていっても荷馬車じゃないの」
「そんな無理いうなよ。大体、箱馬車なんて、この村にある訳ないだろ」
「そうだけど……とにかく、ちゃんとアビーのご機嫌を直してよ。膨れっ面のままじゃお披露目なんて出来ないわよ。そんなんじゃ可愛いのも台無しよ」
ジュディはマークにアビーのご機嫌取りを任せると自分も準備するために部屋の中へと入っていく。
「それもそうだな。アビー、な。今日だけ。今日だけ我慢してくれないか?」
「今日だけでいいの? そしたら、もうスカートを履けとか言わない?」
「ああ、言わない。約束する」
「でも、お父さんは僕に『生えてくる』って嘘ついた」
「あ~」
アビーのご機嫌取りを任せられたのはいいが、アビーは元々女の子らしい格好を殊更嫌う節がある。マークもそれを知っているから、あまり無理強いをしたことはない。だけど、今日はお披露目で女の子の格好をしていないと周りから変な目で見られてしまうかも知れないと考えてしまう。それにアビー自身が自分を男の子だと勘違いしたのは自分が不用意なことを言ってしまったからだということもマークの負い目になっている。だから、マークがアビーに対し約束するからと言ってもアビーからの信頼度はがた落ちのままだ。

「なあ、アビー頼むから笑ってくれよ」
不貞腐れたままのアビーの周りにポポ達が飛び回る。
『アビー今日は可愛い格好してるのね』
『普段のアビーもいいけど、今日のアビーも可愛いわよ』
『うん、いいね。きっと、モテモテになるわよ』
ポポ達の無責任な発言にアビーの顔は一層、膨れ上がる。

「え~アビー、どうしたの。さっきよりも膨らんじゃってるじゃない」
「おまたせ~どう、アビーのご機嫌は? ちょっと、マーク。何やってるの! もっと酷くなってるじゃないの!」
「何も言ってないよ……急に膨れたんだって」
「もう、時間もないから、このままでいいわ。マーク、荷馬車を用意して」
「分かったよ」

不貞腐れたままのアビーをポポ達が見ている。
『ほら、ポポのせいで……』
『私だけじゃないでしょ! ププにピピも可愛いって言ったじゃない!』
『でも、可愛いじゃないの。ほら』
確かにスカート姿で膨れっ面のアビーも可愛いが、このままだとアビー本来の可愛さが台無しだ。

『でも、悪い虫が付く心配しないでいいから、却っていいかもね』
『そういうのはお父さんが心配することでしょ』
『でも、中にはそういうのがいいって男の子もいるかもよ』

結局、アビーの膨れっ面は治ることはないと思っていたが荷馬車の心地よい揺れに抗うことは出来ず、ジュディの腕の中で眠ってしまっていた。

「ほら、アビー起きなさい。着いたわよ」
「ん? ここは……」
「村の集会場だよ。俺は馬車を停めてくるから、お母さんと一緒に入ってなさい」
「そうね。ほら、アビー下りるわよ」
「はい……」

アビーは、スカート姿のままだったが、もう諦めの境地でそんなことより、他の子供達がいるということに興味が移っていた。
ジュディに手を引かれ、集会場へと入ると奧の方に子供達が集められているのが目に入る。
「お母さん。あれ、あそこにいる人達は皆、僕と同じ五歳なの?」
「あれ? そうよ。皆、アビーと同じ五歳よ」
「へ~なら、友達になれるかな?」
「なれるわよ。当たり前じゃないの。ほら、アビーもあそこに行って来なさい」
「うん!」
という響きにアビーは憧れがあった。歩であった頃、病院に入っていた方が長いくらいだったので、学校みたいに子供がたくさんいる場所には縁がなかった。でも、院内学級があったので、何人かと友達になることは出来たが、それは期間限定のことだった。
院内学級に来るのは入院患者が対象なので、病気が治り入院する理由がなくなれば、当然の様に退院するので、歩とも自然に友達解消となることが多かった。中には退院してからも手紙のやり取りを繰り返すこともあったが、退院してしまえば元気な友達と遊ぶことも多くなり、歩との手紙のやり取りは自然に返事も遅れがちになり、やがては忘れられてしまうこととなる。

だけど、今度は違う。アビー自身の体も丈夫だし、村の子供にも病弱な様子は見て取れない。アビーは今度こそ、一緒に山の中を走り回れる友達が出来る。そう思っていた。

ただ、アビーの思惑と違っていたのは、単なる五歳児が一日数十キロメートルも走れる体力なんか持ち合わせているはずがないということに気付けなかったことだろう。
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