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第二章 これからの生き方を求めて

第8話 気付いた違和感

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 ナキはマリアにも他の属性を試してもらおうと思っていたところで「ん?」と違和感を感じる。

「あれ?」
「どうしたの?」
「いや、あのさ……」

 ナキはマリアに対し結界で包んだままだったことを思い出した。そして、そんな状態でマリアが魔法を使えたのも確認した。だから、ナキはさっき自分で防御魔法以外の魔法を使おうとして発動しなかったことを不思議に思ったこと。でも、生活魔法はなんの意識もしないですんなりと使えたことに違和感を感じていることをマリアに伝える。

「へ~なんだか色々と考えているのね」
「マリアは気にならないの?」
「まあ、ナキに言われたから気付いたって感じだし。そもそも物心着いた時からこびりついているからね」
「そうなんだ」
「そうなのよ。それで、その違和感はどうするの?」
「どうするって……そりゃ試すしかないよね。モノは試しって言うし。ってことで『水球ウォーターボール』と。うん、ちゃんと出来るね。じゃあ、さっきはなんで出来なかったんだろ」
「出来たんだからいいんじゃないの?」
「そうだけど、なんか落ち着かないからイヤだ」
「ふ~ん」

 マリアには悪いが、もう少しだけとナキは自分の中の違和感を払拭するためにもどうしてさっきは出来なかったのかを考えてみる。

「僕はさっきなんで出来ないと思ったのかな。多分、その思い込みが出来なかった原因だったんだろうと思うけど。それだけなのかな?」
「もう、ナキは考え込んじゃったみたいね。じゃあ、こっちはこっちで勝手にやってみますか。え~と呪文は必要としないのよね。じゃあ、まずは使い慣れた『火球ファイアボール』からやってみようかしら。『火球ファイアボール』……ほらね……ってえぇ!」

 ナキがブツブツと呟きながら違和感をどうにかしようとしているのを見たマリアは長くなりそうだなと思い、自分は自分でとナキに言われたように他の属性を試す前に使い慣れた『火球ファイアボール』を呪文の詠唱なしで使ってみるかと、先程と同じ様に構えてから『火球ファイアボール』と呟くが、何も発動しなかったのを確認し「やっぱり」と構えを解こうとしたら、『ボッ』と音が鳴り、その場に火球ファイアボールが出現したのだ。しかもいつものより一回りも二回りも大きい気がする。

 マリアは自分の目の前に突然現れた火球ファイアボールに驚き、どうしたらいいのかとナキを見るが、ナキはナキでまだ地面に何かを書きながらブツブツと言っている。

「え、ちょ、ちょっとナキ……これどうすればいいのよ!」
「……でも……いや、そうなると……」
「ナキ!」
「え? 何? うわぁ! どうしたのそれ? 早くポイしちゃいなよ。危ないよ」
「そうだけど、こんなに大きいのをその辺に放って大丈夫なのかな」
「あ~それもそうだね。じゃあ、上に射っちゃえば?」
「上……そうか、上ね。よし! いっちゃぇ!」

 マリアは前に突き出していた右腕をそのまま、真上にと掲げ大声で「いっちゃえ!」と叫ぶと同時にマリアの前に浮かんでいた火球ファイアボールは勢いよく『ギュン!』と上空へと飛んでいく。

「「「ふぁ~」」」

 そんな情景にナキとマリアだけでなく二人の様子をジッと見ていた子供達も火球ファイアボールが飛んで行った上空を眺めていると『グェ!』と何かの鳴き声が上空から聞こえてきた。

「マリア、なんか聞こえちゃいけないようなのが聞こえたんだけど?」
「ナキにも聞こえたの?」

 ナキは頷き、火球ファイアボールが飛んで行った空を見上げ、マリアも同じ様に上を見ていると黒点が見えるのに気が付く。

 そして、その黒点が少しずつ大きくなり、自分達のいる方に近付いて来るのが分かる。

「ねえ、マリア。ちょっと聞いてもいいかな?」
「何かな。多分だけど、ナキの言いたいことは分かるよ」
「じゃあ、聞くけど。空を飛ぶ魔物って言えば、ハーピーやワイバーンにドラゴンだよね」
「そうね。でも、ドラゴンを見たってのはこの辺りじゃ聞いたことがないわね。それにハーピーは基本的に群れで行動するから、アレは違うと思う」
「じゃあ、残る可能性として、もしかしてアレはアレなの?」
「どうも、そうみたね。もうあんなに大きいし」
「そうだね……」

 ナキとマリア、それに子供達が立っている場所は既に上空からこちらへと落下してくる何かの影で陽光が遮られている。

 子供達は段々と近付いて来る何かに怯え互いに抱きしめ合っている。オジだけは上に手を伸ばし掴もうとしているが。

 それに対しナキは飄々とした感じで、この場から逃げようとかしている風でもない。マリアはそんなナキの落ち着き様を見て、「ナキがなんとかしてくれるんでしょ」と落ち着いている。

「じゃあ、そろそろ用意しといた方がいいよね。結界!」

 ナキは上空に結界を多層構造で設置する。ナキ達に近い最下層は硬くして、上に行くに従い少しずつ柔らかくすることでワイバーンの落下の勢いを殺しつつ落下の衝撃で霧散させない為の策だった。

「うわぁ! 結構大きいなぁ」
「もう、そんなこと言っている場合じゃないでしょ。本当に大丈夫なのよね」
「うん、大丈夫だよ。あ、そろそろだからね。準備はいいかな?」
「準備って何をすればいいの?」
「えっと、チビらない様にとか?」
「……もう、遅いわよ!」
「え?」
「見るな!」

 肉眼でもハッキリと落下物が何かと分かる様になり、マリアに準備よろしくと声を掛ければ「遅い!」と言われたナキだったが、「履いてないし、いいのかな?」と違った方向で安心する。
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