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第三章 遺跡の役目

第4話 なんとか説明してみたけど

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「まだ、お尻が痛い。もしかして火傷かな。それにしても……あ~もう、それにしてもソルト達遅すぎ! まだなの!」
一人だけ先に地下二十五階まで下りてきたレイが螺旋階段の手摺から身を乗り出し上の方を確認しながら一人憤慨する。

『カサ……ガサガサ……』
「え? なに、なんの音?」

手摺にもたれてソルト達を待っていたレイの耳になにやら不穏な音が聞こえてくる。
『カサ……カサ……』
「うん、やっぱり聞こえる。日本でも何回か聞いた覚えがあるあの音が……」
レイはすぐ側にあるドアの前に行き、耳を澄ます。

『ガサガサ……』
「うわぁ……このドアからだ。嫌だな~もう、早く来てよ~」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「しっ!」
「ソルト、どうしたの?」
螺旋階段を下りている途中でソルトは急に立ち止まりゴルド達に静かにするように言うと、小声で話しかける。
「この下、二、三階下にレイがいるんだけど、どうやら俺達を待っているらしい」
「なら、早く行きましょう」
「まあ、待てって。そのレイの様子がさ、少しだけ妙なんだ」
「それこそ、早く行かないとダメなんじゃないの?」
「だから、待てって。そんなに深刻な状況なら俺だって急ぐさ。でもな、ちょっとだけ違うんだ。なんて言うのかな、少し凹んでいるというか寂しがっているというか」
「ほぉ、あのレイがな」
ソルトの言葉にゴルドが少しだけ楽しげな顔をする。
「もう、あんた達は」
エリスがゴルド達を窘めるようにいうが、その顔は少し綻んでいる。
「そういうエリスも顔がニヤけているぞ」
「えっ! 嘘! そんなわけないでしょ!」
「いいや、ニヤけているな。なあ、ソルト」
「うん。ニヤけているね」
「なんだい、お前達は、あの嬢ちゃんが困っているのを喜んでいるのか?」
「サクラ、お前はまだこのパーティに入ったばかりだから分からないだろうけど、レイの突飛な行動にはこっちも手を焼いているんだ。だから、今回はいい勉強になると思ってね」
「ふむ、あの嬢ちゃんがね。まあ、そういう理由ならお前達の態度も分からんではないが、少し状況が悪くなっているみたいだぞ」
「「「え?」」」
「何者かがドアを食い破ろうとしている音が聞こえるな。ちょうど嬢ちゃんがいる辺りだな」
「ソルト!」
「ああ、分かった。急ごう!」

ソルト達が手摺に腰掛けると、そのままレイの元へと一気に滑り降りる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「なんか音が大きくなったような気がする。こんなことなら調子に乗って一人で下りるんじゃなかった。早く来てよ、ソルト~」
「呼んだ?」
「え?」
レイがソルトの名を呼ぶのとほぼ同時にソルトがレイの横に手摺から降り立つ。
「ソルト!」
レイがソルトに抱き着こうとすると、ソルトはレイの腕を取り、邪魔だからどいてようねとレイを交わすと、そこにゴルド、エリス、サクラと次々に手摺を滑り下りてくる。
そして、少し遅れてリリス達も合流する。

「あら、レイってば、もしかして泣いてるの?」
エリスが珍しい物を見るようにレイの顔を覗き込む。
「バ、バカじゃないの! なんで私が……」
「でも、ほらそこに……」
エリスがレイの頬をつたう涙の跡を指して指摘する。
「これは欠伸なの。エリス達が来るのが遅すぎて退屈だったからなの!」
「ふ~ん、そう。じゃ、ソルトの名前を叫んだのは寝言なのかな?」
「え? もしかして……聞こえたの?」
「ええ、すぐ上にいたからね」
「……」
「ついでに懺悔も聞こえたわよ。これに懲りたら少しは単独行動は慎むことね」
「……分かった。ごめんなさい」
「ま、分かればいいのよ。でね、そこのドアが危ないんだけど分かってた?」
「そ、そう! そこのドアからさっきから物音がしているんだけど、段々と大きくなっているのよ」
「多分、レイの存在を中のヤツらが感知してこっちに出てこようとしているんだとおもうぞ。しかもこれは虫系だな。それも黒い「いや~どうにかしてよ~」……はぁ、やっぱり苦手か」
「ソルト、話が見えないんだけど?」
「ああ、俺達のいた世界での嫌われ者の害虫っぽいのが、このドアの向こうにいるっぽいって話をしただけだ」
「それって、黒くて平べったい妙にテカテカとしたアレ?」
「ん? エリスも知っているのか?」
「知っているもなにもあんなのが大量にいるなんて、私でも無理よ」
「じゃ、このドアは……「「ダメ! 開けちゃダメ!」」そう言われてもな。その内、食い破って出てくるぞ」
「そこはなんとかしてよ!」
「ソルト、お願い!」
「え~」
レイとエリスからドアを開けずに退治するようにお願いされるが、それは無理な注文だろうとソルトは考える。
『コノドアノムコウノムシノタイジヲオノゾミデスカ?』
『そうだけど、なにかいい手がある?』
『コノドアノムコウノオンドヲサゲルコトデ、コウドウヲトメラレルトオモイマス』
『分かった。それでお願い』
『マスターノイシヲカクニンシマシタ。シツオンヲヒョウテンカマデサゲマス』
「なるほどね」
「なにがなるほどなの? どうにかなったの?」
「ああ、多分ね」
「ふ~ん」
エリスはソルトがなにかを隠していることに確信を持っているみたいにソルトをじっくりと見る。

「音はしなくなったみたいね」
サクラの言葉にソルトは頭の中の誰かに確認する。
『ねえ、ドアの向こうの様子は分かるかな』
『ウゴイテイルセイブツハカクニンデキマセン』
『そう、ありがとう。ところで、君に名前があるのなら教えて貰えるかな』
『ワタシニハナマエハアリマセン。カツテハ『ドール417』トヨバレテイマシタ』
『417か。じゃ、君は今から『シーナ』と呼ぶね』
『シーナ……ソレハ、ワタシノナマエデスカ?』
『そう、いつまでも君じゃ素っ気ないしね。気に入らないならいつでも言って。考えるからさ』
『イエ、イイです』
『そう。じゃ、ルー悪いけど、中のムシを回収して貰えるかな』
『え? 私がですか?』
『そうだけど、ダメ?』
『いえ、そうではないのですが……』
『マスター、私が代わりに『私がやりますから!』……』
『そう、じゃお願いね』
『ソルトさん、貸しですよ……』

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「じゃ、落ち着いたみたいだし再開しようか」
「なんだ、もう終わったのか?」
「うん。終わったみたいよ」
「「「「……」」」」
ソルトが返す言葉に四人はなにかを言いたそうにしているが、今聞くと長くなりそうだと各々で判断しぐっと飲み込む。
「まあ、今はいい。最下層に着くのが先だな」
「ええ、そうね。今は流しておきましょう」

今は最下層に辿り着くのが先だと目的が統一されたことで改めて最下層を目指す。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

螺旋階段の最後の一段から下りる。
「あ~やっと着いた~」
「ほら、レイ。そんな所で止まってないで邪魔になるから」
「もう、少しくらい余韻に浸っていてもいいじゃない」
「そんなことは後でいくらでもやっていいから。ほら、ソルト。そこのドアなんでしょ。さっさと開けちゃって」
「はいはい。その前にちょっとチェックな。サクラ、なにか物音は?」
「今の所はないわ」
「そうか、じゃちょっと待って」
『ルー、地図には敵性表示はないけど、大丈夫かな?』
『はい、ソルトさん。特に注意することはないと思います』
『分かった。で、シーナの方は?』
『シーナ……あ、私ですね。ドアの向こうに動いている物は存在しません。最下層はドアを抜けてから、案内の指す方向を目指して下さい』
『……』
『マスター、どうしました?』
『いや、少しシーナの雰囲気が変わったなと思って』
『そうでしょうか?』
『ま、今はいいか。ありがとうシーナ』
『いえ……』

「ソルト!」
「あ、悪い。じゃ、行こうか」
ソルトはなにも気にすることなくドアを開け、中へと入る。
「なんだか、拍子抜けだな」
「ゴルド、気になることはあとで纏めて聞こうよ」
「そうだな。たっぷりと聞かせて貰うか」

最下層の一つ手前の階層の中へと足を踏み入れたソルトはシーナが言っていた案内を探すと足下に微かに矢印が書かれているのを見付ける。
「ゴルドさん、エリス、レイ、足下を見て」
「「「足下? あっ!」」」

矢印の指す方向を見ると、その先にはドアがあり、その横にはなにかを認証する為の器具らしき物が据え付けられている。

「レイ、これってさ、やっぱりあれだよね」
「そうだと、思うけど。とりあえずやってみたら?」
「まずは、レイがやってみてくれないか」
「私? 多分、無駄だと思うけどね」
レイがそう言いながら、器具の上に右手で触れるがなにも反応しない。
「多分、入口と同じでソルト限定だと思うよ。ほら、やってみなよ」
やっぱりそうなのかとソルトは自分の右手を見てみるが、特に変わった感じはない。
『シーナ。シーナは教えてくれないんだよね?』
『すみません。私から言うことは禁じられています』
「ま、いいか。じゃ、やってみるね」

ソルトが右手を器具の上に触れると、シーナが反応する。
『マスターを確認しました。ドアロックを解除します』
『ガチャ』と音がして、目の前のドアが左右に開かれる。
「「「やっぱり」」」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「さて、ソルトよ。最下層へと行く前に説明してくれるか」
「え~と、なにを?」
「今更、惚けても無駄だろ。入口からここまでお前がなんらかの形で関わっているのは皆分かっているぞ」
「あれ? そうなの? ソルト?」
「……」
「ほら、正直にいってしまえ」
「なら、言うけど嘘とか揶揄っているとか、そういうのは無しでちゃんと聞いてくれる?」
「それほどか?」
「分からないけど、多分、すぐには信じて貰えないと思う」
「「「「……」」」」

「どうする? それでも聞きたい?」
「ああ、話してくれ」

「分かったよ。じゃ、話すね」
ゴルド達の前でソルトは入口の窪みに手を入れた時から頭の中で声がすることを話す。マスターと呼ばれたことを除いて。

「すると、たまたま先に手を触れたソルトが代表みたいな扱いになったということか?」
「そうね、一概には信じられないけど、施設の案内をしたこととか、照明を点けたことを考えると信じるしかないんじゃない」
「ソルトが嘘をついている様子は感じられないな。私は本当のことを言ってると思う」
「え~それなら、私が最初に触るんだった。ソルトばっかりずるい!」
「少なくとも一番適任だと俺は思うぞ」
「レイよりはずっとマシね」
「そうだね。嬢ちゃんには無理だね」
「もう!」

ソルトの告白を皆が受け止めたところで、ドアの前に立ち誰が言うでもなく皆で『よし!』と気合いを入れ直してドアの向こう側へと足を踏み入れる。
その瞬間に部屋の照明が一斉に灯る。

パパパッと連続して灯る照明の下には液体で満たされた透明な筒の中に全裸の少女が両足を抱えて漂っていた。
「なにこれ?」
ソルトもそう思ったが、筒の足下の方に『ドール135』と書かれているのを見付ける。
『シーナ。君の体もここにあるのかな?』
『分かりません』
「そうか。まずは鑑定してみるか『鑑定』」

ソルトが近くの筒の中を漂っている少女に対し鑑定してみると、『種族:ホムンクルス』と表示された。

「鑑定したらホムンクルスだって」
「ホムンクルスなの? それって大分前に失われた技術で今では禁忌とされているわよ」
「でも、結構な年数経ってるんでしょ? 大丈夫なの?」
「それは蘇生というか起動させないと分からないよね。だから、今はスルーで行こう」
「え~もう少し見させてよ」
「エリス、先に最下層に行くんでしょ?」
「そうだけど……う~もう、後で絶対に来るからね!」

並んだ筒の間の通路を抜け、下へと続く階段を見付ける。
「この先が最下層なんだな」
「ゴルドさん、もしかして緊張してる?」
「そりゃ緊張もするさ。やっと最下層に辿り着いたはいいが、まだ先になにがあるかも分からないんだからな」
「本当になにがあるんだろうね」
そう言いながらソルトはゆっくりと階段を下りていく。

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