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第三章 遺跡の役目

第3話 遺跡の中へ

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ソルトの目の前の岩肌がゆっくりと上に持ち上がる。
『ソルトさん! 魔素が溢れ出ます! 障壁を!』
「え! それはヤバイよ! 『障壁』!」
「ソルト? どうしたのよ、せっかく開けたのに?」
「レイ。このままじゃ遺跡内部から魔素が溢れだす。だから、応急処置で障壁を張ったんだ」
「うわっ! それ、ヤバイじゃん! で、どうするの?」
「閉じたいんだけど、どうしたらいいと思う?」
「そりゃ、開けた所が鍵なら、閉めるのもそこじゃないの?」
「ソルトはどうやって開けたの?」
「どうやってって……そこの窪みの中に手を突っ込んで、ペタリと……」
ソルトが岩肌の窪みを指差す。
「ここ?」
「そう、そこに手を入れたら声が聞こえてさ」
「声?」
「そう、声が聞こえたんだけど……もしかして、聞こえてない?」
「ああ」
「うん」
「聞こえてないわよ」
「私に聞こえないのなら、誰も聞こえてはないだろうな」
「え?」
あの声を誰も聞いていないと言う。ソルトはそんなことはないだろうと思うが、『マスター』と言われたことから、ハッキリするまでは言わない方がいいだろうと考えた。

「ねえ、なにもならないんだけど?」
レイが窪みの中に手を何度も出し入れするが、岩肌が閉じることはない。エリスやゴルド達も試してみたが、結果は変わらない。
「ねえ、なんで?」
「俺に聞かれてもな……もしかして……」
ソルトがなにかを思い付き、試そうとした時に遺跡の中が騒がしくなる。
『グギャギャギャ』
『ゴブリンの集団の様です』
ルーに言われ視界に映る地図を見ると赤い光点で塗り潰されているのをソルトは確認する。
「遺跡探索の前に片づけないとな……」
ソルトは遺跡の入口の前に立つと、一人障壁を抜け、遺跡内部へと入る。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ゴブリンを片付け終わると、ソルトは亡骸を無限倉庫に収納すると試したかったことをやってみる。
「『転移』……あれ? もう一度、『転移』。やっぱりダメか」
障壁を抜け、ゴルド達の元へ戻る。

「ソルト、中でなにか試してみたようだが?」
「うん。ちょっとね、中から転移が使えるか試してみたんだ。でも、ダメだった」
「転移は使えないか。そうなると、一度中に入ってしまうと気楽には戻って来られないということか」
「そうみたい」
「ねえ、入るのなら早く入ろうよ。どっちみち入るしかないんでしょ」
「そうだな、レイの言う通りだな」
「とりあえず、第一陣は片付けたけど、一応はなにがあってもいいように構えだけは忘れない様に」
「うん」
ゴルドを先頭に皆が中に入ったのを確認するとソルトも遺跡の中に入る。
「レイ、灯りをお願い」
ソルトはそう言うと入口側に外と同じ様に鍵がないか岩肌を探すと、似たような窪みがあったので、その中に手を入れペタリと触る。すると、またソルトだけに聞こえる声がソルトの頭の中に響く。
『イリグチヲトジマスカ?』
「閉じるってどうやるんだ?」
『トジタイトネンジテクダサイ』
「念じる? こうかな。『閉じてくれ』」
『マスターノイシヲカクニンシマシタ。イリグチヲトジマス』
ソルトの頭の中に何者かがそう告げると、ぽっかりと開いていた入口がゆっくりと閉じられる。
「閉まったのね」
「ああ、似たような仕掛けがあったからね」
「……」
そう返事をしたソルトにエリスがなにかを言いたげにソルトを見ている。そして……
「ふぅ、いいわ。そういうことにしといてあげる。ほら、行くわよ」

ゴルドを先頭にゆっくりと遺跡の中を見て回る。
「天井に照明っぽいのがあるけど、スイッチはどこかな?」
「照明?」
「そうよ。ほら、天井部分に白っぽいのが等間隔に並んでいるでしょ?」
「ええ、あるわね」
「私達の世界でも似たようなのがあったのよ。ねえ、ソルト。ソルトもそう思うでしょ? ソルト?」
レイがソルトに声を掛けるが、ソルトはソルトで独自に遺跡の内部を調査していた。
「ソルトってば!」
「ん? なんだレイ」
「もう、なんだじゃないでしょ! 天井の照明を点けるスイッチはどこって聞いてるの!」
「照明? ああ、あれか」
そう言って、ソルトが天井のそれを認識すると、また頭の中のなにかが呟く。
『マスターノイシヲカクニンシマシタ。ゼンフロアノショウメイヲツケマス』
「え?」
ソルトの頭の中でそうなにかが呟くとソルト達のいるフロアの全てが急激に明るくなる。
「眩しっ! もう、急になにするのよ! 点けるなら一言言ってからにしてよ!」
「あ、悪い。って、俺のせいかよ!」
「だって、ソルトが点けたんでしょ? なら、ソルトのせいじゃないの。大丈夫?」
「あれ? そうなのか? 俺が点けた……」
『ゴキボウデアレバ、ケシマスガ』
「いや、いい。このままで」
「ソルト、また独り言。ねえ、本当に大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」
「なら、いいけどさ。下へ行くのに階段かエレベーターがあると思うんだけど、早く見つけようよ」
「そう慌てるなって。まずはフロアの案内図や、この遺跡自体の案内図みたいな物があると思うんだけどな」
「なんで、そう思うの?」
「なんでって、普通施設の入口には案内のお姉さんか案内図があるもんだろ」
「それもそうか。なら、このフロアを満遍なく探せばどこかにあるかも知れないってことね」
「ああ、多分な」

『なあ、君は一体何者なんだ?』
『シツモンノイミガワカリカネマス』
『ルーからコンタクトは取れないの?』
『難しいです。さっきからいろいろとやってみてはいるんですが……』
『そうか。それで、君はこの遺跡の中にいるの?』
『イセキ? マスターガイウイセキトハ、コノシセツノコトデショウカ?』
『そう、俺達は遺跡から流れ出る大量の魔素を止めるためにここまで来た。なにか知っているのなら教えて欲しい』
『マソノリュウシュツデスカ。ソレナラ、サイカソウマデイクヒツヨウガアリマス』
『最下層か。そこにはどうやって?』
『エレベーターハアルノデスガ、ケイネンレッカデツカウコトハオススメシマセン』
『経年劣化って、この遺跡……施設は何年くらい稼働しているの?』
『ソウデスネ……オヨソセンネンハケイカシテイルカトオモイマス』
『そこはおおよそなんだ』
『ワタシモナガネンキュウミンシテイタノデ。ガイブノヒヅケガワカレバホセイカノウデス』
『あ、ごめん。それは俺も分からないや』
そんな時、レイの声がフロア中に響く。
「エレベーターっぽいのを見つけたよ。多分、動くんじゃないのかな。これが下行きのボタンだよね。えい!」
「あ! あのバカ!」
レイの声がした方へソルトが急いで向かうとちょうどレイの前のエレベーターの扉が開き、まさに今、エレベーターに乗り込もうとしていたレイの腕を掴んでレイを引き戻す。
「もう、なにするのよ!」
「なにするのは、こっちのセリフだ! お前は一体なにを考えているんだ!」
「なにって、こういう場合は最下層になにかがあるもんでしょ? なら、パパッと最下層に行けば終わりじゃない」
レイはなぜ、ソルトに止められたのか分からないままに自分のしたことが正しいと思っている。
「まさか、一人で行くつもりだったのか?」
「それこそまさかでしょ。いくらなんでも私一人は無理!」
「でも、今乗り込もうとしてたよな?」
「あ~ちょっと偵察にいってみようかなって……ダメだった?」
「いや、その前にだ。このフロアの探索も終わっていないのに最下層はないだろう。そもそも最下層って何階だって話だ」
「何階だろうね」
レイの返答に嘆息したソルトはエレベーターのドアを閉じる前に顔だけエレベーターの中に入れると階数表示のボタンを確認し、最下層と思われる九十九階のボタンを見付ける。
「九十九階か……」
「え~なら、エレベーターを使おうよ」
「お前は……これだけの人数が乗って、ワイヤーロープが切れるかもって心配はないのか?」
「え? 大丈夫じゃないの?」
「定期点検もなく何十年、何百年と放置されていたかもしれない施設だぞ? 乗ったら、垂直落下のアトラクションに変わるかもな」
「げ、それはヤダ」
「なら、お前も真面目に探せ」
「分かったわよ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
取り敢えずと入ったフロアの全ての部屋を見て回ったが、資料といえる物もなく案内図の類も見付けることは出来なかった。
「おかしい……あってもいいはずなのに」
「ソルト。もしかしたらさ、紙媒体じゃなくてスマホみたいな電子媒体に近い物が普及していたのかもよ?」
レイに電子媒体に近い物と言われ、ソルトは頭の中に住み着いたなにかがソレに当たるなにかなのかと思ったが、すぐに違うなと考えを捨て、もしかしたら知っているのかもと頭の中のなにかに聞いてみる。
『なあ、施設の案内図って、どこかにないの?』
『それなら私が『アンナイズヲテンカイシマス』……私の仕事……』
ソルトの視界に遺跡の全体図が表示される。
「うわぁ~結構深いな~」
「ソルト、なにか分かったの?」
「ああ、エリス。遺跡の全体図が分かった。この遺跡自体の形状は円柱で最下層は地下九十九階になっているけど、その下にもなにかありそうだな」
「どうやってって、あ~ググったの?」
「まあ、そういうとこだな」
「で、階段は?」
「階段なら、エレベーターの横だよ。ほら、扉があるだろ」
「それで下に行けるのね」
「ああ、それで一フロアずつ見て回る」
「本気?」
「ダメか?」
「まずは魔素の過剰放出を止めるのが先だと思うんだけど」
「そうだな。まっすぐ下まで行こう。探索はあとからいくらでも出来るだろ」
「じゃ、それで行こうか」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

エレベーター横の螺旋階段を下りていくことに決まりゴルドを先頭に慎重に下りていたのだが、レイがガマン出来ないと螺旋階段の内側に据え付けられている手摺に腰掛け一気に滑り降りる。
「ひゃっほー」
「あのバカ……」
「どうするの、ソルト?」
「いいよ、放っといて。誰も着いてこないと分かったら、途中で止めるでしょ」
「レイにはいい薬にもなるだろ。なにかあれば悲鳴ぐらいは聞こえるだろうさ」
「それに俺達は滑ることが出来てもリリス達には無理だろ。だから俺達はこのままゆっくりと休みながら下りていくだけ」
一応、念の為とソルトが手摺から身を乗り出し螺旋階段の下の方を確認するがレイの悲鳴らしき声は聞こえないので問題ないと判断し、階段をゆっくりと下りていく。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「もう誰も着いてこない。ノリが悪いよね」
ソルト達と別れてから一人で手摺を滑り降りていたレイだが、長いこと滑っていた為に、さすがにお尻が痛くなり最下層ではなく途中の階で手摺から下りて休憩していた。
「ソルト達からはだいぶ離れたけど、ここは何階なんだろう?」
壁に書かれているフロア階数らしき数字から、ここが地下二十五階であることが分かる。
「まだ、二十五階か~もう、ソルト達遅すぎ~」

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