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第三章 遺跡の役目

第12話 再開予定はいつなんだ?

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「なあ、兄ちゃん。俺は? 俺の出番はまだなの?」
「コスモ。もう、終わりだよ」
「なんでだよ! この今にも爆発しそうな胸の『小宇宙コスモ』はどうするんだよ!」
「そんなの知らないって。文句なら、お前の姉ちゃんに言えよ。戦意喪失させたのはカスミなんだから」
「……」
「ん? どうした? カスミなら、まだ動き足りないって言ってたから、相手はしてくれると思うぞ?」
さっきまでうるさいくらいだったのに急に黙り込むコスモにソルトが話す。

「だめだ!」
「なにがだ?」
「とにかく、姉ちゃんの相手はダメなんだよ!」
「なら、ショコラが相手してもらうか?」
「え? カスミ姉さんの相手は僕もいいかな」

コスモだけでなくショコラまでカスミの相手を嫌がる。さっきまで、ぶうたれていたのにどういうことだとソルトが訝しむ。

ソルトがリリスならなにか知っているかと、視線を向けるとリリスもフルフルと首を横に振る。
訓練場の真ん中で、まだ物足りなさそうにメイスを持て余しているカスミにソルトが声を掛ける。
「カスミ! もう終わりだ! 引き上げるぞ!」
「え~もう終わり?」
「いいから、ほら。いつまでもそこにいないで出るんだよ」
「は~い」

カスミが訓練場から出ると、ギルマスが言う。
「やっと話が出来るな。よし、部屋に……は狭いか。なら、二階の会議室だな。そこでいいな。ゴルド、少し遅れて来てくれ」
「はいよ。じゃ、そういうことだ。ソルト、まだ帰るなよ?」
「分かりました。じゃ、食堂でメシでも食ってますね」
「ああ、分かった」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ソルト達一行がギルド二階の会議室に入ると、ギルマスとゴルドが既に座って待っていた。
「また、ゆっくりしすぎだろ」
「まあ、いいじゃないか。こうやって来たんだし」
そう言ってゴルドがギルマスに取り成す。

「ふん! それで、お前達はいつ再開するんだ?」
「ああ、それならリリス達の防具とかを揃えてからになるので……一週間後ですか。ゴルドさんはそれでいいかな?」
「分かった。一週間後だな」
「それが終われば、魔の森は今まで通りになるんだな?」
「たぶんね。俺にはそれしか言えないよ」
「だよな~ソルトが作った訳でもないしな。そっちの嬢ちゃんも単なる管理者なんだろ?」
「シーナです。私にはソルト様が名付けてくれた名前があるんですから。ちゃんと呼んで下さい!」
ギルマスから『嬢ちゃん』と呼ばれたことに対し気分を害したように訴えるシーナに対しギルマスは軽く頭を下げる。
「分かってもらえればいいです。で、話を戻しますが、確かに私は設計者や創造主ではないので、魔の森と言われる場所になぜ施設を作ったのかなどは私には分かりません。ですが、管理者としての立場から言わせて貰えるのであれば、地脈の暴走の原因さえ取り除けばほぼ元通りになると思います」
「原因か……で、その原因についての心当たりはあるのか?」
「それは現場に行ってみないと分かりません」
「それもそうか、分かった。じゃあ、ソルトよ。一週間後に出発だな」
「はい」
「分かった。よろしく頼むな」
「任せなさい!」
「レイ。あなたが言っても不安しかないわよ」
「え~そんなことないでしょ。ねえ、ショコラ」
「……」
レイから言われたショコラはそっと、視線をずらす。
「あれ? シーナはそんなこと思わないよね?」
「すみません。私は嘘をつくのが苦手なようでして……ハッキリと言わせて貰えるのであれば……」
「あ、ゴメン。もういいです。分かりました」
「まあ、ソルトよ。お前も色々と大変だとは思うが、よろしくな」
「ははは……はい」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「大分、大きくなったね。大丈夫? 辛くない?」
「大丈夫です。タイガ様。それより、訓練の方はどうですか?」
レイラのお腹をさすりながら泰雅がレイラの体調を気遣う。最初は大丈夫と言ったはずなのにと憤慨したが、こうやって日々大きくなっていくレイラのお腹を見ると、父親になるのも悪くないと思えてくるから不思議なものだと泰雅は思う。
また、そんな風にレイラとお腹の子を受け入れた泰雅を微笑ましく見ている竜也だが、一方で元の世界に帰るときのことを思うと泰雅は置いていくことになるんだなと少しだけ感傷的になる。また、その一方では麗子との仲を邪魔する者はいなくなったことを喜ぶ自分がいることも確かだ。

「おう。十分休めたのなら、訓練の続きだ。もうそろそろスキルの一つくらい生えてもいいもんだけどな?」
「そうですね。確かに『精神耐性』『苦痛耐性』とか耐える系は増えているんですけどね」
「ん~? おかしいな? 前のヤツは同じやり方で『魔法』系のスキルを発動させたけどな?」
「イヤイヤ、おかしいでしょ? なんで、ただ殴られたり蹴られたりと攻撃を受けるだけでスキルが得られるんですか!」
「……そうか、分かった!」
ゴルザがニヤリと笑い竜也を見る。
「なにを思いついたのか分かりませんが、その先は言わないで下さい。僕はもう少し頑張りますから」
「そんなこと言うなよ。さっき、思い出したんだよ。前のヤツの時には剣で切りつけていたことをな」
竜也はさっきから背中に走る悪寒が止まらない。もし竜也の頭の中に警告音が聞こえているのなら、『ビービービー!!!』と大音量で警告音が流れていることだろう。
剣を手ににじり寄ってくるゴルザを見据えながら竜也はゴルザに質問する。
「一つ質問なんですが、そのスキルを得た人は今はどちらに?」
「さあな。その辺に漂っているんじゃないのか」
「漂う? 今はいないってことですか?」
「質問は一つだろ?」
そう言って、ゴルザが剣を振りかぶり竜也に向かって振り下ろそうとした時に、咄嗟に竜也は怖さから、目を瞑りながらも左手でそれを制するように遮ると『バリヤ』と叫ぶ。
すると竜也目掛けて振り下ろされた剣は見えないなにかに弾かれ宙を舞う。
「あれ?」
咄嗟に叫んだはいいが、なんの衝撃もないことに不思議に思いながらも竜也が瞑っていた目を開けると、そこには剣を弾かれ呆然としているゴルザと自分がなにをしたのか分からない竜也もまた、呆然としていた。

「なにをした?」
「え?」
「なにをしたと聞いている!」
興奮した様子のゴルザに詰め寄られ、腰が引けてしまう竜也だが、もしかしてと思い左手をゴルザに向けると『バリヤ』と呟く。
すると、その瞬間に竜也に詰め寄ろうとしていたゴルザが見えないなにかに阻まれる。
「これだ! さっき、これに剣を弾かれたんだ……俺が……俺の剣が弾かれた……」
ゴルザはそう呟くと側にいた若い騎士に右手を向ける。
すると、その若い騎士は自分の持っていた剣をゴルザの右手に両手でそっと載せる。
「すまんな」
ゴルザはそれだけ言うと、渡された剣を両手でしっかりと持つと竜也が出したバリヤ目掛けて剣を振り下ろす。
『ガキッ』と音を発したが、見えないなにかはまだ、その場にあることは剣が折れたことで分かる。

「面白い……」
そう言って、ゴルザがまた右手を横に差し出すと、さっきとは別の若い騎士が両手でゴルザの右手に剣を載せる。
「やっぱり、必死さが足りなかったようだな」
ゴルザはニヤリと笑うと『切る』『突く』『叩く』とあらゆる技術を使って竜也のバリヤを壊そうと躍起になる。

「もう少し、耐えてくれよ」
竜也は思う。
『この国はなにかがヤバイ』と。
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