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第七章 王都にて

第3話 拾って来たのかよ

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 王都に来て二日経ち、ゴルドが頼みがあるとソルトの部屋に来た。

「頼みって?」
「俺とアラン様をエンディに送って欲しい」
「あ~もしかして、捕まえたアイツらのこと?」
「そうだ。ギルマスに念話でどうにかしろ! って言われてな」
「俺はいいけど、領主代行への説明は任せることになるけど、いい?」
「ああ、そのくらいはしようじゃないか。ありがとう、助かるよ」
「じゃあ、準備が出来たら言ってね」
「ああ、すぐ済ませてくるよ」

 ゴルドが部屋から出て行くと今度はこの屋敷の管理を任されている家宰のトマスさんが「少しよろしいですか」と入って来たので、ソルトはこの屋敷にお世話になっている手前、断る訳にもいかず「どうぞ」と招き入れる。

「それで、どうしました?」
「いえ、お連れのレイ様なんですが……」
「レイ? レイが何かしたんですか?」
「いえ、レイ様自体がしたというか、なんというかですね、ん~見て頂いた方が早いかと思うので一緒に来て頂けますか」
「一緒にですか? 構いませんが」
「お願いします!」

 トマスさんに頭を下げられ一度部屋を出ると、二つ隣のレイの部屋の扉をノックしようとするトマスさんの手を止める。

「トマスさん、この声って……」
「分かりますか? 実は相談したいのもこのことで……」
「……すみません!」

 俺はトマスさんに頭を下げ、レイの部屋から聞こえてくるに頭が痛くなる。

 トマスさんが言うにはレイは頻繁に屋敷から出て行くのだが、帰って来る時には不自然すぎる様子で帰って来るのだと言う。そして、帰って来ると直ぐに食事の用意を頼み、それを持って部屋に引き籠もるそうだ。まだ二日しか経っていないのに部屋からは明らかにたくさんの子供の声がする。

 ソルトはなんとなく想像が付く。「きっと路地裏にいた子供達なのだろう」と。

 ソルトはレイの部屋の前に立つとノックもせずに勢いよく部屋の扉を開けると、一斉に部屋の入口に立つソルトを見る視線に晒されるが、ハッとした後に急に部屋の隅やベッドの下、クローゼットの中に隠れる子供達とまだ呆然とこちらを見ているレイがいた。

「レイ、お前は何をしているんだ?」
「……ごめんなさい」
「そうじゃないだろ! どうして、こんなことをした!」
「……ごめんなさい。でも、私そのまま知らない振りなんて出来なかったの」

 レイは両手で顔を覆うとそのまま啜り泣く。すると、その姿を見た隠れていた子供達も恐る恐る出て来る。その数、ざっと二十人超だった。

 トマスさんは額に手を当て天井を見上げる。

 ソルトは、まずは自分が対応するのでトマスさんに約束すると、トマスさんも「お任せします」と去って行く。

 部屋にはまだ啜り泣くレイと、そのレイを守るように前に立ちはだかる子供達と三,四人の大人の女性もいた。

「レイ、泣いてばかりいないで説明して」
「……だって、バレたらこの子達は元いた場所に返されるんでしょ! そんなのイヤだもん!」
「だから、まずは話を聞かせて欲しいと言っているんだ。それにレイはこの子……この人達をずっとこのままこの部屋に閉じ込めておくつもりなのか?」
「ぐっ……それはその内考えようと思っていたもん」
「でも、どう考えても無理でしょ」
「無理じゃないし!」
「なら、どうするつもりだったの?」
「だから、それは……」

 ソルトがレイにこれだけの人数をこんな部屋で匿うつもりだったのかと言えば、その内どうにかするつもりだったと言うが、すでにこの人数では飽和状態だろうと指摘すれば何も言わなくなった。

 ソルトはふぅ~と嘆息するとレイに向かって話す。

「レイ、屋敷に連れて行く準備をして」
「屋敷? 屋敷ってどこの?」
「どこのって、俺達の家さ。そこ以外に受け入れてくれる場所はないだろ」
「いいの?」
「いいも何も犬猫じゃないんだから、元の場所に捨ててこいとも言えないでしょ。それにこの人達の治療もレイがしたんでしょ」

 ソルトの言葉にレイだけでなくその場にいた全員が一斉に頷く。中には胸の前で両手を組んでレイを拝んでいる人もいる。

「全く、我慢出来なかったのなら、騒動になる前に一言くらい相談して欲しかったよ」
「だって……」
「あのね、ああいう場所はただでさえ危険な場所だって分かってる?」
「え? そうなの?」
「あ~もう、これだよ」
『彼女のたる特性なんでしょうか』
 ソルトの頭の中でルーも呆れた様子で呟く。
「だよね~」

 そうしている内にアランに説明を終えたらしいゴルドが俺達とレイの部屋の中にいる人達を見てびっくりしている。見た目は子供が多いが、皆一様に布一枚の服だけを身に纏っている状態で健康状態も良いとは言えない状態なのだから、ゴルドもレイがしたことを理解したのだろう。
 そんなゴルドも一瞬顔を顰めてしまったが、レイのしたことだと分かると途端に表情が柔らかくなる。そして、ソルトの肩をポンポンと叩く。

「それが済んだらアラン様の部屋に来てくれ」
「ああ、分かった」

 ゴルドはソルト達に手をヒラヒラと振り領主代行の部屋へと向かう。

「じゃ、準備はいいの?」
「いいよ。ね?」
「「「はい!」」」

 ソルトはレイの部屋に入ると扉を閉める。

「じゃ、今から転移するから出来るだけ俺の周りに集まって!」
「「「え?」」」
「大丈夫、何も心配は要らないから! ほら、温かい食事と住む場所が待っているよ。ほら、早く!」
「「「……」」」

 部屋の中にいた保護された者達はソルトがと話したことで、驚いたがその後にレイにと言われたことで皆の目に力が入りソルトを中心にギュッと集まる。

「じゃ、行くよ。『転移』!」
「「「……」」」

 ソルトの合図と共に気が付けば、小さな子供が遊んでいる大きな屋敷の庭に立っていた。

「あ! ソルト兄ちゃんだ!」
「「「お帰り!」」」
「はい、ただいま。悪いけど、誰か呼んで来てくれるかな」
「「「いいよ~」」」

 ソルトの頼みに近くで遊んでいた子供達が三人で一斉に屋敷へと向かう。すると、少ししてワーグとティアの二人がソルト達の前へとやって来た。

「うわぁ~また今度は大勢ですね」
「じゃあ、またいつも通りでいいんですね」
「うん、いつも悪いね。頼むよ」
「ははは。私達も最初はそうでしたからね。気にしないで下さい。それで今回もやっぱり……」
「ごめんなさい!」

 ワーグの問い掛けにレイが直ぐに頭を下げる。するとワーグは笑いながらレイの肩に手をやり、声を掛ける。

「レイさん、責めている訳じゃありませんから、顔を上げて下さい」
「でも……」
「ふふふ、例え私達が止めて欲しいと言ってもあなたはそれじゃ止めないでしょ」
「……多分」
「ふふふ、だから、それでいいんです。それで助かる人がいるのなら私達も喜んでお手伝いさせて貰いますから」
「ワーグ……」

 レイはワーグの言葉に目尻に涙が浮かぶが、それ以上に泣きそうだったのが、大人の女性だ。

「いいんですか? 私達はここにいてもいいんですか?」
「私達には何もありませんよ。それでもここにいていいんですか?」
「ふふふ、大丈夫。別に無理する必要はないのよ。先ずは落ち着いて普通に生活していけることを目指しましょう。お仕事とかはその後の話よ。ん、先ずは皆でお風呂ね」
「「「お風呂?」」」
「おふろってな~に?」
「お風呂ってのは体をキレイに洗うところだよ。ほら、行って来な。ワーグ、ティア頼むね」
「はい、お任せ下さい」
「ふふふ、まだまだ増えるんでしょ?」
「……」

 ティアの言葉にバツが悪そうな顔になるレイだったが、そんなレイにティアが優しく声を掛ける。

「レイさん、大丈夫よ」
「ティア……」

 ソルトはそんな二人の様子を見てから、ゴルドに呼ばれていることを思い出す。

「じゃ、レイ。明日迎えに来るから、今日はお前もここにいろ。いいな」
「うん、分かった。ありがとう、ソルト」

 ソルトはレイ達に手を振って挨拶すると、王都のレイの部屋へと転移する。
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