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第七章 王都にて

第11話 墓穴を掘る

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 ルーの変貌にちょっとだけ引っ掛かりを覚えるが、今は目の前のヌメッとした元司祭を倒すのが先だと剣を構える。

「じゃあ、試しに……」
『スパッ……ジュワァ……』

 ソルトが剣に付与した毒の効果を確かめる為にと軽く剣を振り、一本の触手を切り落とす。すると、その切り落とされた触手は直ぐに溶けて無くなり、切られた断面の方はジュクジュクと溶かされ本体の方へと近付くのが分かった元司祭は『ウガッ』と叫ぶとその触手を自ら他の触手を使い根元から切り落とす。

『やった! やりましたね! ソルトさん! さあ、この調子でバンバンやっちゃいましょ!』
「う、うん……ルーだよね」
『もう、今はそんなことよりアイツです!』
「そう……だよね」

 元司祭は自分の体が溶かされるのを見て、ソルトの剣を注視している。

「そんな風に剣ばかり見ていると火傷しちゃうよ。こんな風にね。『毒雨ポイズン・シャワー』」
『ガッ……』

 ソルトが魔法を唱えると、元司祭の頭上に毒の雨を降らせる。その雨を浴びた元司祭の体は『ジュッ』という音と共に小さな穴が空くとそこから、少しずつ体が溶け始める。元司祭は避けることを諦め、この毒雨からなんとか逃れようと地面に穴を開ける。

『ソルトさん! 逃がしちゃいます!』
「あ、もう諦めが悪いな」
『もう、そんなにノンビリ構えていて大丈夫なんですか? 逃げちゃいますよ!』
「大丈夫だって……ほら」
『え? あ!』

 元司祭はなんとか地面に穴を掘ってこの場から逃げようとしたみたいだが、穴を掘ったのが却って自らの墓穴を掘ることになったようで、その穴に毒雨が流れ込んでいく。

『ぎゃぁ!』
「ね。だって、縦に穴を掘れば集まってくるに決まってるじゃない。ねぇ」
『なんか敵だけど……哀れになります』
「領主の時もそうだったけど、ああなっちゃうと知性が低くなるのかもしれないね」
『それもなにかいやですね』
「そだね。じゃあ、これで方が着いたってことで「待て!」……ああ、やっぱりそうなるよね」
「話を聞かせてくれないか」
『ブランカさんはどうします?』
「もうちょっと、待ってくれるように言っといて」
『分かりました。伝えておきます』

 ソルトは衛兵達に囲まれたままの状態で尋問を受けることになった。

 さっきの戦いを見て、どう足掻いてもソルトには勝てないことを悟ったのだろう。だけど、ソルトは見世物になったようでどうもむず痒い。

「あの……もう少し人目に付かない場所はないですか」
「何をするつもりだ?」
「何もしないって。俺がしたのは見たでしょ」
「見た……」
「俺がこの街に何かするつもりなら、アイツを放っておいた方が楽でしょ。でも、俺はアイツを倒した。これで証明にはならないかな」
「……こっちだ」

 ソルトの話を全面的に信用した風には思えないが、ソルトが言うように野次馬が見聞きしている中で話されては、マズいこともあるだろうと考えたのか、漸くソルトを衛兵の詰所へと案内する気になったようだ。

 ソルトはソルトで「信用してくれなかったら、どうしようかな」と呑気に構えていた。

「座ってくれ。悪いが茶は出ないぞ」
「いいよ。それで聞きたいことは、アイツのことだよね」
「そうだ。お前……名はなんと言う」
「はい、これ」
「ん?」

 ソルトは名を聞かれたので、冒険者ギルドのギルドカードを衛兵に差し出す。

「冒険者か。ん? Cランクだと!」
「そうだ」
「ウソだろ。あの強さで……まあいい」

 衛兵がソルトにギルドカードを返すと「何が望みだ」と聞いて来た。

「別に」
「別にって、そりゃウソだ」
「なんで?」
「なんでってお前な……街を壊滅から救ったんだぞ! 普通なら金なり、女なりワガママ言うモノだろ」
『この人は何を言ってるんでしょうね。そんなの間に合ってるのに!』
「……別に金も女もいらないから」

 ソルトが衛兵からの言葉に辟易するがルーはルーで変なこと言うし。ソルトも「俺は間に合っているとは思ってないんだけどな」と口籠もる。

「じゃあ、一つだけいい」
「なんだ、言ってみろ!」
「このことを正直に皆に話して欲しい」
「正直に……か。それは司祭があんな風になったことをか」
「そう」
「それは無理な話だ」
「なんで?」
「なんでって……あのな、こういう状況だからこそ、人はより一層不安になり教会に救いを求めるだろ。それなのに、その拠り所の教会が実は悪の手先でしたって言われて『はいそうですか』って信じるか?」
「まあ、確かに」
「それに……」

 衛兵が言うにはこの街にも診療所は少なく大きな怪我や病気は大金を払ってでも教会を頼るしかないと言う。

『ソルトさん』
「うん、そうだね」
「なんだ?」
「実はね……こういう物があるんだけど」
「ん? これは!」

 ソルトはポケットから出す振りをしながら無限倉庫インベントリから指輪を取り出す。

「おい! これは最近、冒険者の間で噂になっているアレじゃないのか!」
「知っているなら話が早い」
「……いくらだ」
「ふふふ、安くはないよ」
「いい、あるだけ売ってくれ!」
「へえ、いいの。そんなこと言って」
「構わん! 金ならなんとかする。それよりも教会にこれ以上頼る訳にはいかない」
「分かったよ。じゃあ、一つ銀貨一枚で……今、手元にある「ちょ、ちょっと待て!」……え? 今さら、ナシ?」
「いや、そうじゃない! これ一つが銀貨一枚だと言うのか」
「あれ? 高かった?」
「違う! そうじゃない!」
「じゃあなに?」
「だから、安いんだよ。いや、安すぎだ!」
「安いならいいじゃない」
「教会で治療を頼めば金貨一枚を要求されることも少なくない。それなのに治癒魔法が使える指輪が銀貨一枚だと言うのか」
「だから、そう言っているでしょ。イヤな「待て!」ら……もうだから何」
「すまない。あまりの値段の安さに取り乱してしまったようだ」
「じゃあ、いいのね」
「ああ、頼む」
「じゃあ、手元にあるのが……とりあえず一〇〇個でいいか」
「は?」
「今度は何?」

 ソルトが何か言う度に衛兵から話が止められる為に一向に話が進まない状況にソルトも少しイラつき始める。そんなソルトの態度に気付いたのか衛兵もコホンと態とらしく咳払いをすると「失礼」とソルトに断ると姿勢を正す。

「本当にその値段でいいんですか?」
「いいよ。はい」

 衛兵が言い終わる前にソルトはポケットから出す振りをしながら、聖魔法を付与した指輪を雑にテーブルの上に放り出す。

「数は揃っていると思うけど、一応数えてね」
「あ、ああ、分かった。おい」
「はい、失礼します」

 衛兵の言葉に横に控えていた別の衛兵がテーブルの上に置かれた指輪をトレイの上に載せ持って行く。

「じゃあ、これで」
「うん、確かに。領収書は?」
「りょうしゅうしょ?」
『ソルトさん、前職とは違いますから』
「あ、いいのいいの。では、頂戴します」
「……」

 ソルトの態度を訝しみながらも衛兵は疑問を口にする。

「それでアレが元司祭だということは分かったのですが、何故ああいう風になったのかをご存知であるならば説明して頂きたい」
「あ~だよね」
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