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第八章 やるべきこと

第6話 私だけがツライ

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 場所は戻ってソルトは相変わらず女性達に囲まれ、どことなくニヤついているのを見てブランカはパンパンと手を叩き、皆の注目を自分に集めると「はい、キリがないからそこまでにして」と言えば、「え~」とブーイングが起きるがブランカは「文句言わない」とそれを無視する。

「で、ソルトの気持ちはどうなの?」
「え、俺の気持ち?」
「そうよ。大事なことでしょ」
「……俺の気持ちか」

 ブランカによってソルトから女性陣達が引き剥がされた後にソルトはブランカに言われた言葉の意味が分からずに聞き返すが、ブランカに「大事なことだから」と言われて、それもそうかと考え直す。

「そもそも、ソルトはどうしたいのかは決まったの?」
「どうしたいか……ってのは戻れたら戻るかどうかってことか」
「そうよ。一番、大事なことでしょ。で、どうなの? 決まったの、決まってないの? 残るの、残らないの? どっちなの?」
「ちょ、ちょっと落ちつけよブランカ」
「落ち着けないわよ。下手したらノアもそっち日本に行きたいって暴れるかもしれないのよ。折角、親子が揃ったのに……」
「そうか。じゃあ、改めて話すけど俺は……」
「「「ソルトは……?」」」

 ブランカに戻れるのなら、戻るのかどうか決意しているのかどうかと鬼気迫る感じでソルトに問い詰めてくるが、ソルトはそれを涼しい顔でやり過ごし自分の決意を話し出す。

「例え、戻れるとしても俺は向こう日本には帰らない」
「なんでよ!」
「レイ、まだソルトが話しているでしょ。ちゃんと最後まで聞きなさい」
「でも……」
「いいから、ノアも勝ち誇った顔をしないの!」
「……すまぬ」

 ソルトが日本に戻るつもりがないと告げたところで、レイが「なんで」と騒ぎ出すがブランカがそれをやんわりと止める。

「前にも話したと思うけど、俺はこんななりになっただろ。レイは見た目に変わりはないからいいがな。それに俺の種族は『人族?』になっている。もし、俺が日本に帰ったら、まず容姿が変わってしまったことを追求されるだろう」
「……ソンナコトナイヨ。キノセイダヨ」
「レイ、間が空いたし棒読みだし。それに俺は今の状態を悪いとは思っていない」
「でも、日本むこうにはおじさんやおばさんもいるんでしょ。ソルトがいなくなったなら心配しているんじゃないの。それはどうするの?」
「まあ、気にならないと言えば嘘になるが、こっちからじゃどうしようもないだろ。両親には悪いが、無事を知らせる手立が何もないんじゃしょうがないよ。それはお前達も同じだろ」
「そうだけど……」

 ソルトの答えにレイは俯きがちになる。ソルトはそんなレイの頭を優しくポンポンと撫でれば、「お前達だけは、どうやっても帰すから心配するな」と言えば、レイは下を向いていた顔を上げると「イヤ!」と言う。

「イヤってお前、帰りたいんじゃないのか?」
「帰りたいわよ。でも、皆一緒じゃないとイヤなの! 帰るのならソルトも一緒に帰るんだから……だから、自分はどうでもいいみたいな言い方しないでよ!」
「すまん……そんなつもりはなかったんだが、そう聞こえたのなら謝る」
「だから、謝らないで! 皆で一緒に帰る方法を探せばいいじゃない……グスッ」
「……」

 ソルトは自分の胸に顔を埋めて泣き始めたレイをどうすることも出来ず、手持ち無沙汰の両手を広げて天井を仰ぎ見る。

『レイさんには帰る術がないことを伝えないのはなぜですか?』
『そんなこと言えるかよ』
『ですが、遅かれ早かれ知られることになるのでは?』
『そうかも知れないけど、今じゃなくてもいいだろ。レイはまだ子供だぞ』
『……そう思いたいだけじゃないんですか』
『どういう意味だ?』
『いいです……』

 ソルトが帰るつもりはないと宣言したことで、こっち異世界で知り合った女性陣は安心するが、レイの気持ちが分からないでもなく単純に喜んではいけない空気にどうしていいものか逡巡する。

「はいはい、とりあえずソルトの気持ちは分かったんだから、いいでしょ。それとレイ」
「……何?」

 ブランカに名前を呼ばれ、ソルトから少しだけ体を離し涙で濡れた顔を拭いながらブランカに向き直る。

「レイ、もっと大事なことがあるでしょ」
「え?」
「分からない? それはね、あなた一人が人族であるということよ」
「……そうみたいだけど、それが何?」
「やっぱり、気付いてないのね。あのね……」

 レイはブランカに「人族は自分だけ」と言われるが、そんな当たり前のことを言われてもと聞き返せば、ブランカは嘆息しながら話をする。

「あなたは人族。これは間違いないわよね」
「だから、それは分かっているわよ。だから何って言ってるじゃない」
「……あのね、人族と言うことは長くても百年弱しか生きられないのよ。その意味が分かる?」
「そんなの当たり前じゃないの。何言ってるの? 百歳まで生きれたのなら大往生よ」
「ハァ~あのね……あなたが百歳になっても、ここにいる他の人達は殆ど容姿が変わらないままでいるのよ。もちろんソルトも含めてね」
「え?」

 レイはブランカに言われたことを反芻しゆっくりと咀嚼する様に理解しようとするが、どうしても受け入れられない。

 もし、こっちに残るのなら自分一人だけが老いていきソルト達回りの仲間の殆どはその容姿が今と殆ど変わらないだろうと言われたのだからムリもないだろう。

「ヤダ! そんなのイヤよ!」
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