5 / 10
第一章 突然の出来事
第五話 元はイヤだな
しおりを挟む
『今日中に屋敷から出るように』と、遺伝子上の父であるビル宰相に言われている。この指示を守らない場合はどんな強硬手段に出られるのか分からないので、大人しく言うことを聞くしかないのだが、既に日は落ちているほぼ真っ暗な町に出なければいけないのかと少し不安になる。
館の玄関から一歩外に出ると、やはりほぼ暗闇だ。ここは日本とは違うのだから当たり前だけど、ここから更に一歩踏み出すには勇気がいるなとか思っていると、さっき別れの挨拶を交わしたハズのフィリーが俺の服の袖を摘まんでいた。
「これで『今日中に館を出る』とビル様との約束は果たしたことになりませんか?」
「え? フィリーどういうこと?」
「ですから、館を一歩でも出たのですから、ビル様から言われたことは遵守したと私は思いますが?」
「いや、それは『屁理屈』というものでは?」
「屁理屈も理屈の内です。さ、今日はもう遅いのでこちらへ」
「いや、こちらへってどこに?」
「……私の部屋です。もう、言わせないで下さい!」
いや、言わせないでと言われても分からないよね。それで何を当然の様に俺の手を引いて先を歩くのかな。色々と聞きたいことはあるが、部屋に泊めてくれるのであれば正直有り難いので、今は文句は言わないでおこう。
「こちらです。お入りください」
「ああ……」
フィリーの部屋に入る。男の部屋と違った匂いに包まれている。思わず鼻腔が広がっている気がする。
「あの……あまり匂いを嗅がれると恥ずかしいので」
「あ、ごめん」
いきなり異性の部屋に連れ込まれ、どうしていいか分からずにいると、フィリーにベッドに座らせられ、その隣にはフィリーが座ってくる。
『あ、この展開はヤバい』と頭の中で警報が鳴ると同時に『ここまでした女子に恥を掻かせるのか』とも頭の中から俺に語りかけてくる。
『理性』が『リビドー』に勝てるのか、いや勝てるはずだと思っていた自分を笑ってやりたい。はい、負けてしまいました。
朝になり、気が付けば横にはシーツ一枚を上に掛けただけのフィリーがすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている。
今なら朝も早い時間帯なのでほとんど人目に着かずに出て行けるだろう。だが、このまま部屋をあとにするのは、あまりにも薄情に思えたのでベッド脇のテーブルにフィリーに対する今までの感謝とこれからのフィリーの幸せを願うと一筆添えたメモを残して部屋を出る。
フィリーを起こさないように部屋を出てから、誰にも会うことないように注意しながら館の裏口から出る。
館を出てから、どこに行こうかと思案するが、生まれ故郷に帰っても母から疎まれるのは分かっているので選択肢からは外す。だが、『生まれ故郷』という選択肢がなくなると俺はどこに行けばいいのだろうかと考えていると、一人の男がソソソッと近付いて来た。
「元グレイス様ですよね?」
「なんのことだか。人違いだよ」
「いえ、ユミル様よりお伺いしています。どうか、私に着いてきていただけないでしょうか」
「ユミル? ああ……」
不審な男から『ユミル』と言う名を聞かされた。俺の記憶通りなら、ユミルはシュガッテル帝国からの留学生で第二皇女だ。
「俺が知っているユミルだという証拠はあるのか?」
「はい。『私が見たことは誰にも言ってない』のが証拠だと窺っております」
「あ~もういい。確かに俺が知っているユミルのようだ。分かった。案内してくれ」
「はい、承知しました。それでは、後ろから着いてきている方はお仲間ですか」
男は懐から光る物を俺に分かる様に見せながら聞いてくる。
「いい。構わなくても大丈夫だろう。帝国が相手となればおいそれとは手も出せないだろう」
「承知しました。では、このまま一緒に参りましょう」
「ああ、お願いする」
男の案内に従い、着いた先はシュガッテル帝国外交官の屋敷で、確かユミルが滞在している屋敷だ。
男は門衛に二言、三言告げると、一人が屋敷に走り出す。
「では、参りましょうか」
「ああ」
屋敷の正面に着く前に中から豪快に正面玄関が開け放たれる。
「お待ちしておりましたわ。元グレイス様!」
「ユミル様……どうして?」
「あら? どうしてとは、どういうことでしょうか。私はただビル宰相から捨てられ不要となった元グレイス様を拾っただけですが?」
「拾ったって……」
「ふふふ、元グレイス様。今は語彙力について論争する気はありませんわよ」
「なら、聞かせてくれないか。俺を拉致した理由について」
「あら、理由は先程話した通りですよ」
「え?」
「はい?」
俺の目の前でユミル嬢は首を傾げ、『何がわからないのかしら?』とでも言いたげだ。
「理由はなく俺を保護したと?」
「はい。分かってもらえましたか?」
「いや。だから、それが分からないんだけど?」
「困りましたね。元グレイス様に分かって貰うためにはどうすればよいのでしょうか」
「その前に」
「はい?」
「その『元グレイス』と言うのは止めて貰えないか」
「承知しました。では、なんとお呼びすれば?」
「あ……そういや名前がないや」
館の玄関から一歩外に出ると、やはりほぼ暗闇だ。ここは日本とは違うのだから当たり前だけど、ここから更に一歩踏み出すには勇気がいるなとか思っていると、さっき別れの挨拶を交わしたハズのフィリーが俺の服の袖を摘まんでいた。
「これで『今日中に館を出る』とビル様との約束は果たしたことになりませんか?」
「え? フィリーどういうこと?」
「ですから、館を一歩でも出たのですから、ビル様から言われたことは遵守したと私は思いますが?」
「いや、それは『屁理屈』というものでは?」
「屁理屈も理屈の内です。さ、今日はもう遅いのでこちらへ」
「いや、こちらへってどこに?」
「……私の部屋です。もう、言わせないで下さい!」
いや、言わせないでと言われても分からないよね。それで何を当然の様に俺の手を引いて先を歩くのかな。色々と聞きたいことはあるが、部屋に泊めてくれるのであれば正直有り難いので、今は文句は言わないでおこう。
「こちらです。お入りください」
「ああ……」
フィリーの部屋に入る。男の部屋と違った匂いに包まれている。思わず鼻腔が広がっている気がする。
「あの……あまり匂いを嗅がれると恥ずかしいので」
「あ、ごめん」
いきなり異性の部屋に連れ込まれ、どうしていいか分からずにいると、フィリーにベッドに座らせられ、その隣にはフィリーが座ってくる。
『あ、この展開はヤバい』と頭の中で警報が鳴ると同時に『ここまでした女子に恥を掻かせるのか』とも頭の中から俺に語りかけてくる。
『理性』が『リビドー』に勝てるのか、いや勝てるはずだと思っていた自分を笑ってやりたい。はい、負けてしまいました。
朝になり、気が付けば横にはシーツ一枚を上に掛けただけのフィリーがすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている。
今なら朝も早い時間帯なのでほとんど人目に着かずに出て行けるだろう。だが、このまま部屋をあとにするのは、あまりにも薄情に思えたのでベッド脇のテーブルにフィリーに対する今までの感謝とこれからのフィリーの幸せを願うと一筆添えたメモを残して部屋を出る。
フィリーを起こさないように部屋を出てから、誰にも会うことないように注意しながら館の裏口から出る。
館を出てから、どこに行こうかと思案するが、生まれ故郷に帰っても母から疎まれるのは分かっているので選択肢からは外す。だが、『生まれ故郷』という選択肢がなくなると俺はどこに行けばいいのだろうかと考えていると、一人の男がソソソッと近付いて来た。
「元グレイス様ですよね?」
「なんのことだか。人違いだよ」
「いえ、ユミル様よりお伺いしています。どうか、私に着いてきていただけないでしょうか」
「ユミル? ああ……」
不審な男から『ユミル』と言う名を聞かされた。俺の記憶通りなら、ユミルはシュガッテル帝国からの留学生で第二皇女だ。
「俺が知っているユミルだという証拠はあるのか?」
「はい。『私が見たことは誰にも言ってない』のが証拠だと窺っております」
「あ~もういい。確かに俺が知っているユミルのようだ。分かった。案内してくれ」
「はい、承知しました。それでは、後ろから着いてきている方はお仲間ですか」
男は懐から光る物を俺に分かる様に見せながら聞いてくる。
「いい。構わなくても大丈夫だろう。帝国が相手となればおいそれとは手も出せないだろう」
「承知しました。では、このまま一緒に参りましょう」
「ああ、お願いする」
男の案内に従い、着いた先はシュガッテル帝国外交官の屋敷で、確かユミルが滞在している屋敷だ。
男は門衛に二言、三言告げると、一人が屋敷に走り出す。
「では、参りましょうか」
「ああ」
屋敷の正面に着く前に中から豪快に正面玄関が開け放たれる。
「お待ちしておりましたわ。元グレイス様!」
「ユミル様……どうして?」
「あら? どうしてとは、どういうことでしょうか。私はただビル宰相から捨てられ不要となった元グレイス様を拾っただけですが?」
「拾ったって……」
「ふふふ、元グレイス様。今は語彙力について論争する気はありませんわよ」
「なら、聞かせてくれないか。俺を拉致した理由について」
「あら、理由は先程話した通りですよ」
「え?」
「はい?」
俺の目の前でユミル嬢は首を傾げ、『何がわからないのかしら?』とでも言いたげだ。
「理由はなく俺を保護したと?」
「はい。分かってもらえましたか?」
「いや。だから、それが分からないんだけど?」
「困りましたね。元グレイス様に分かって貰うためにはどうすればよいのでしょうか」
「その前に」
「はい?」
「その『元グレイス』と言うのは止めて貰えないか」
「承知しました。では、なんとお呼びすれば?」
「あ……そういや名前がないや」
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる