運命のつがい。

遊虎りん

文字の大きさ
21 / 28
第4話

☆3

しおりを挟む
「……ゼオさん、そんなに慌ててまた悪さでもしたんですか?」

兄の本気の殺気を目の当たりにして顔を蒼白くさせたゼオはロイの身体とぶつかる寸前で抱き止められる。細い腰にロイの腕が絡まり、ゼオの心臓がどきりと一瞬大きく跳ねあがり気持ちが高ぶる。

「……眠っていたかわいこちゃんをちょっと味見しただけ」

ゼオはさっとロイから離れて距離を置く。心の中を見透かされそうで怖かった。
いつもの呆れた表情を浮かべるロイに安堵する。

「……また、貴女はお転婆が過ぎます」

「お転婆って、僕を女扱いしないでよ…身体だけなんだし」

心底うんざりとした顔をしてゼオは肩をすくめた。ゼオの心は男だ。175㎝ありしなやかな筋肉に包まれている身体は細身の男性とよく間違えられるが、戸籍上女と記されていた。

「どーせ、兄貴に慰められるんだろ。可愛いって特だよねぇ」

もう口を開きたくないけど苛立ちと嫉妬の感情が混じった言葉が止まらなくなる。ゼオは舌打ちして視線を外した。

「……帰ってきたのが間違いだった」

掠れた低い声で呟く。

サリス、と呼ばれている少年を見てもうここに居場所がないとゼオは思った。

サリスは、本当は自分の名前だった。ゼオロンヌという訳がわからないダサイ女の名前なんていらない。

男の魂を持って、偽りの肉体を纏っている自分が酷く惨めになった。

俯いて肩を震わせているゼオをロイは静かに見つめている。彼、の苦しみは計り知れない。生物として未完成である自分がいう言葉はない。
中途半端な言葉は彼を傷付けるだけだ。

ゼオは傷ついた心のまま自室へ戻ろうとするが、腕を掴まれた。

「……私が欲しくて戻ってきたんでしょう?ここをサリスにしたように、弄ってとろとろにして欲しくて」

ゼオの尻をゆっくりと揉んで耳元で囁いた。切なく身体の奥が疼いてきゅんとなる。忌まわしい膣が潤んで下着が濡れる。

「勘違いするなよ。僕が欲しいのはお前じゃない…卑しい僕の中の雌を解放したいだけ」

ゼオはジェスの唇に食らい付いて唇を深く合わせた。愛なんていらない。ここにあるのは肉欲だけ。心なんて麻痺していればいい。今はただ痛みも感じず、ただ快楽を貪りたい。


***

「……サリス、大丈夫か?」

「まま……っ、まま」

震えるサリスが痛々しい。サリスを膝の上に座らせた。胸元に顔を埋め母親を恋しがり泣いている。頭や背中をゆっくりと撫でた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

処理中です...