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第1章
6 青い猫
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「この、女ったらし!」
怒りが露なマルっちと呼ばれた青い物体の声が空間を震わせる。
マルっちの雷がシェオンの頭に落ちたという状況だ。
翠が理解したと同時にぼす、と重い音がした。
どうやらマルっちがシェオンの頭を殴ったらしい。
マルっちと話したことがないが、正式な名前を知らないから馴れ馴れしく心の中でマルっちと呼んでごめんね。マルっち。と翠は心のなかで謝った。
「いったー!マルっちって見かけもふもふして柔らかそうだけど固いのな」
痛そうな顔をして眉をしかめるとシェオンは低く唸った。
急接近していたシェオンの顔が遠退いて翠はほっと胸を撫で下ろした。
「か、かわいい!」
そして、翠はマルっちと呼ばれている青い何かを見て発狂した。
だってそれはそれは愛らしいお猫様なのである!
美しい青い毛並みのふさふさもふもふの毛玉様。
円らな瞳で頬には長いお髭。
凛々しいお顔立ち、物凄く可愛すぎる。
元々ない翠の語彙力が鬼籍へと入る。
翠はマルっちを抱き締めて頬を擦り付けた。
この可愛い生き物を時間が許す限りもふりたい、という欲望しかない。
「かわいいーー!可愛すぎる…っ!!」
翠の目はハートマークになっている。
翠の無類の猫好きである。
家で猫が飼えないけど、毎日可愛い猫動画を眺めて妄想に浸っている。
すりすりと頬を擦り付け続けた挙げ句に猫吸いをしていた。
可愛すぎて堪らない。愛しさが溢れて止まらない。
猫とはこの世でもっとも愛らしい生き物。宝。
不意にシェオンが翠からマルっちを取り上げてしまった。
「ミドッち、壊れすぎっしょ。落ち着いて」
「はい、申し訳ありません……マルっちさん、え、とごめんなさい」
翠に好き勝手されて黙りこんだマルっちに謝る。
ホッカイロみたいにマルっちの身体が熱帯びている。
ごほん、とマルっちは咳払いした。
「………大丈夫、こうなるのは予想済みだったしね。それより自分の身に何が起こっているか知りたくないの?」
可愛い声なのに冷静な言葉。
そうだ。何だかまったりした空気に溶け込んでしまっていた。
初対面なのに初めまして、の緊張感がまるでない。
激しい人見知りが視力と一緒になおったのだろうか。
「あ、そうだ!何が分からないか分からない状態なんですけど。私は一体どうなっているんですか?胸から変なのが飛び出たり、命狙われているっぽいし。そして、マルっちさんは何者ですか」
「はいはーい!マルっちの正体は俺っちが説明したーい!マルっちはマルチヴァルノってのが本当の名前、長いからマルっちって俺っちが呼んでるっち。こう見えてつおい。とてもつおい」
形のよいシェオンの唇がつ、お、いと動くのを見て翠もつられて同じように唇を動かした。
「……つおい」
もしかして、シェオンは真面目に話すのが飽きたのではないだろうか。恐らくずっと神様をやってきたんだし。固い口調で重々しい空気が苦痛で我慢していたけどある日突然爆発して、このようなチャラい感じになった、とか。翠は一人想像して哀れみを感じた。
「ミドッちの魂はぶっちゃけ、邪心竜の魂を封じ込めるのにちょーど良くてミドッちの世界的に言うならタッパみたいなもんなのね。取り合えず保存みたいな感じ。あの真面目ちゃんはミドッちの魂の中で浄化される、って言ってたけど俺っち的にそんな事無理ゲーじゃね?って思ってたんだけど」
ここで一旦言葉を止めてシェオンはにやり、と口元を歪めた。
「意外と出来ちゃう系じゃね、っておもっちった。すげぇ平凡でつまんねぇって思ってたけど実際あれを手で掴んで自分の中に詰め込むとか、マジ笑えたし!」
思い出し笑いをしてシェオンはバシバシと何度も手を叩いた。
形がよい青い瞳に涙さえ浮かべている。
「んで、その浄化の方法が邪心竜を人間の赤ちゃんに転生させるつまり、ミドリに恋愛して結婚して出産して欲しいわけね。そーしないと何れ邪心竜の負の感情がたまって爆発する。バーーーン!すっごいエネルギーだから全て破壊されちゃうバットエンディングパターン」
どうしよう、なんか人類存続規模の話だ。
翠は自分の胸を押さえた。
心臓が今にも飛び出しそう。
「……え、恋愛とか無理です。むりむり!私はぼっち極めて最終的には孤独死の予定」
「予定は未定!恋せよ乙女!ミドッちをラブに目覚めさせっから大丈夫、大丈夫。恋愛なんて誰でもできっから何歳からでもオッケーそれが恋」
「えー?いや、でも男子なんてよく分かんないし」
説明を聞いても実感がわかない。
(私が誰かに恋をするなんて。私を子供としか認識していない先生でさえ話すのに緊張するし、隣の席の須藤くんにけしゴム貸す一瞬の事でも手に汗握るのに!)
アウトオブガンチュウと分かっていても異性であるというだけで意識をしてしまい、苦手である。
(こんなこと瞳にも話したことないのに。私にとって恋愛なんて一番遠い。まして、結婚とか赤ちゃんとか想像できない。親の介護とか、そっちの方が身近だし!)
翠は大混乱している。
「この、女ったらし!」
怒りが露なマルっちと呼ばれた青い物体の声が空間を震わせる。
マルっちの雷がシェオンの頭に落ちたという状況だ。
翠が理解したと同時にぼす、と重い音がした。
どうやらマルっちがシェオンの頭を殴ったらしい。
マルっちと話したことがないが、正式な名前を知らないから馴れ馴れしく心の中でマルっちと呼んでごめんね。マルっち。と翠は心のなかで謝った。
「いったー!マルっちって見かけもふもふして柔らかそうだけど固いのな」
痛そうな顔をして眉をしかめるとシェオンは低く唸った。
急接近していたシェオンの顔が遠退いて翠はほっと胸を撫で下ろした。
「か、かわいい!」
そして、翠はマルっちと呼ばれている青い何かを見て発狂した。
だってそれはそれは愛らしいお猫様なのである!
美しい青い毛並みのふさふさもふもふの毛玉様。
円らな瞳で頬には長いお髭。
凛々しいお顔立ち、物凄く可愛すぎる。
元々ない翠の語彙力が鬼籍へと入る。
翠はマルっちを抱き締めて頬を擦り付けた。
この可愛い生き物を時間が許す限りもふりたい、という欲望しかない。
「かわいいーー!可愛すぎる…っ!!」
翠の目はハートマークになっている。
翠の無類の猫好きである。
家で猫が飼えないけど、毎日可愛い猫動画を眺めて妄想に浸っている。
すりすりと頬を擦り付け続けた挙げ句に猫吸いをしていた。
可愛すぎて堪らない。愛しさが溢れて止まらない。
猫とはこの世でもっとも愛らしい生き物。宝。
不意にシェオンが翠からマルっちを取り上げてしまった。
「ミドッち、壊れすぎっしょ。落ち着いて」
「はい、申し訳ありません……マルっちさん、え、とごめんなさい」
翠に好き勝手されて黙りこんだマルっちに謝る。
ホッカイロみたいにマルっちの身体が熱帯びている。
ごほん、とマルっちは咳払いした。
「………大丈夫、こうなるのは予想済みだったしね。それより自分の身に何が起こっているか知りたくないの?」
可愛い声なのに冷静な言葉。
そうだ。何だかまったりした空気に溶け込んでしまっていた。
初対面なのに初めまして、の緊張感がまるでない。
激しい人見知りが視力と一緒になおったのだろうか。
「あ、そうだ!何が分からないか分からない状態なんですけど。私は一体どうなっているんですか?胸から変なのが飛び出たり、命狙われているっぽいし。そして、マルっちさんは何者ですか」
「はいはーい!マルっちの正体は俺っちが説明したーい!マルっちはマルチヴァルノってのが本当の名前、長いからマルっちって俺っちが呼んでるっち。こう見えてつおい。とてもつおい」
形のよいシェオンの唇がつ、お、いと動くのを見て翠もつられて同じように唇を動かした。
「……つおい」
もしかして、シェオンは真面目に話すのが飽きたのではないだろうか。恐らくずっと神様をやってきたんだし。固い口調で重々しい空気が苦痛で我慢していたけどある日突然爆発して、このようなチャラい感じになった、とか。翠は一人想像して哀れみを感じた。
「ミドッちの魂はぶっちゃけ、邪心竜の魂を封じ込めるのにちょーど良くてミドッちの世界的に言うならタッパみたいなもんなのね。取り合えず保存みたいな感じ。あの真面目ちゃんはミドッちの魂の中で浄化される、って言ってたけど俺っち的にそんな事無理ゲーじゃね?って思ってたんだけど」
ここで一旦言葉を止めてシェオンはにやり、と口元を歪めた。
「意外と出来ちゃう系じゃね、っておもっちった。すげぇ平凡でつまんねぇって思ってたけど実際あれを手で掴んで自分の中に詰め込むとか、マジ笑えたし!」
思い出し笑いをしてシェオンはバシバシと何度も手を叩いた。
形がよい青い瞳に涙さえ浮かべている。
「んで、その浄化の方法が邪心竜を人間の赤ちゃんに転生させるつまり、ミドリに恋愛して結婚して出産して欲しいわけね。そーしないと何れ邪心竜の負の感情がたまって爆発する。バーーーン!すっごいエネルギーだから全て破壊されちゃうバットエンディングパターン」
どうしよう、なんか人類存続規模の話だ。
翠は自分の胸を押さえた。
心臓が今にも飛び出しそう。
「……え、恋愛とか無理です。むりむり!私はぼっち極めて最終的には孤独死の予定」
「予定は未定!恋せよ乙女!ミドッちをラブに目覚めさせっから大丈夫、大丈夫。恋愛なんて誰でもできっから何歳からでもオッケーそれが恋」
「えー?いや、でも男子なんてよく分かんないし」
説明を聞いても実感がわかない。
(私が誰かに恋をするなんて。私を子供としか認識していない先生でさえ話すのに緊張するし、隣の席の須藤くんにけしゴム貸す一瞬の事でも手に汗握るのに!)
アウトオブガンチュウと分かっていても異性であるというだけで意識をしてしまい、苦手である。
(こんなこと瞳にも話したことないのに。私にとって恋愛なんて一番遠い。まして、結婚とか赤ちゃんとか想像できない。親の介護とか、そっちの方が身近だし!)
翠は大混乱している。
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