3人play。

遊虎りん

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22 ランジュ②

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あったかい布団の感触。自分の部屋のベットよりはふかふかではないけど、太陽の濃厚な匂いと微かに女の子を抱き締めたときのような甘い匂いがする。
覚醒が近づくと体のあちらこちらが痛くて低く呻いた。
ひっそりとあった何かが身動ぎする気配。
足音が聞こえてこちらに近づいてくる。
顔を覗き込まれ様子を見られている。
僕は重い瞼を開いた。

「……っ、気がついたか」

ばちり、と目が合う。驚いて目を丸くして息を飲むが直ぐに安堵の表情を浮かべて僕の髪をくしゃりと撫でた。
真っ直ぐ僕を見る瞳に数秒見惚れた。
腰まで長い髪を一本に束ね、前髪を後ろに撫で付けている。意思の強そうな顔。
生命力が強い爛々と輝く黒い瞳。
僕より3つほど年上くらいか。
僕は目の前の人物に出会った瞬間に興味を持った。

「俺はルイ。ハンターをしている。一昨日、川に身投げしたお前を勝手にそこから引き上げた。悪いな、弟を川で亡くしたから、見捨てらんなかった」

普通なら命を助けた、と言うだろうがこの人は僕に謝った。命を粗末にするな、云々の説教はしないが瞳はとても寂しそうに揺らいでいる。
ふと、違和感を覚えた。

なんで、女の子が自分の事を俺っていうのだろうか。

「…お前の名前、聞いてもいいか?」

答えたくても答えられない。
僕の名前は僕しかいない。
王族の、しかも王子と同じ名前をつけてはいけない決まりだ。
ランジュ、と名乗ったら身元が明らかになってしまう。城に戻される。まだ、心がぐちゃぐちゃのままで元の僕ではなかった。

「………」

答えられずにいるとルイは僕の頭をくしゃりと撫でた。

「お前、貴族とかいいところの息子だろ。上質な服着てたし…適当にすぐ答えられる名前があった方がいい。サイルって名乗れよ。俺の死んだ弟の名前。実際使ってたから馴染んでる音だ」

「……サイル」

ぽつり、とその名前を口に出してみる。ルイの死んだ弟の名前。
こくん、と頷くとルイは嬉しそうに笑った。

「なんか食えるか?」

お腹は空いてない。僕は首を横に振った。

「……腹減ったら言えよ。なんか食わせてやる。俺はこれから仕事。魔物退治してくる、そんなにレベル高くないし夕方までには片付けられると思う。それまで寝てろよ」

ルイは優しい。これは弟に向ける優しさだと理解した。
僕として見られてはいない。弟の身代わりだ。
でも、不思議と嫌ではなかった。

しばらく、この傷ついている女の子の、側に弟としているのも悪くない。そう思って僕は再び目を閉ざした。すーっと意識が遠退いた。
心地よい眠り。僕はぐっすりと眠った。
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