3人play。

遊虎りん

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33 ジュラン⑤

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***

母親の腹から一番目に出たときから周囲の期待の視線を一身に受けることになった。
王の資質たる剣の才能は俺に宿っていた。
それがなかったら、俺は愚かな王として怠惰な生活を送るつもりだった。
才能があるのにそれを伸ばさない、というのは俺という存在の1部を否定することになる。

何となくやってみたら、親や友達にすごいって褒められた。じゃあ、それをもっと上手くやったらもっと褒めてくれるんじゃないか、と。
単純な理由。他の国の王子様は色々と大変なんだろうけど、俺は複雑な人間じゃない。
俺の父上は俺もランジュを見分ける事が出来ないが、見分ける仕方を無理矢理編み出した。
それは剣を寸前で止めて反応を見る、というものだ。

「……貴方はジュランですね」

「はい、父上」

父上の剣をまばたき一つせず視線で受け止める俺を見て名前を呼ぶ。
寸前で止めるから避ける必要もない。これがランジュの場合、どっきりをするから父上にはランジュ本体は近付かないで幻影を使う。剣を降り下ろされた途端に幻影が掻き消えて近くで隠れているランジュを引っ張り出す。
見た目や雰囲気は女性的な柔らかさを持つが、かなり中身は豪胆である。
息子に剣を向ける無茶な父親である王は、嫌いじゃなかったし面白い、と思う。
剣聖を名乗るのを神から許されている。俺はまだ、その粋まで達していない。何よりも強い父上を尊敬している。
これが何の役にも立たない私欲に肥えたクソブタだったらそっこう首を跳ねて、この国を民に返すところだ。

「……っ、…ジュランお兄様をいじめないで!」

ユイの声が聞こえたと思ったら木上から父上へと飛び降りる。父上はユイを腕で受け止めて、両脇に手を差し込んで幼児をたかいたかいするようにあげて顔を見つめた。

「私にこんな可愛い娘がいたとは」

恐ろしいくらいの順応力。さすが、ランジュの父。俺の父親でもあるが、ランジュの方が父上の食えない性格を色濃く受け継いでいると思う。

「……?」

攻撃をしようと手をあげるユイの動きが止まる。

「ジュランは私の息子です。ジュランが貴女のお兄様なら、貴女は私の愛しい娘ということになるでしょう」

「……お父様?」

父上と俺は父と子であり似ている。まだ、父上は10代の頃に俺達双子の父親になったから年若い。
ユイが困惑したような顔になる。

「ああ、ユイの父上だ」

俺が仕方なく認める。いや、認めるというかなんというか。

「……お父様!」

ユイは嬉しそうに微笑むと父上に抱き付いた。
娘が欲しい、と長年の願いを持っていた父上はユイにお父様と呼ばれ胸きゅんしているようだ。頬を擦り寄せて抱き締め返す。

「ああ、天使のようだ。お父様の部屋でお医者さんごっこをして遊びましょうね。ちゃんとユイが大きくなったか診察させて下さい」

特殊な性癖は父上譲りのようだ。

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