3人play。

遊虎りん

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どんなに急いでも3日は掛かる。魔物と戦う体力を温存しつつ目的地にたどり着かねばならない。
太陽が沈む少し前に身体を休めるテントを作りに掛かる。手馴れたものでそんなに時間はかけず、完全に辺りが闇夜に包まれる前に完成した。

私は王子専用のテントの入り口の前に腰を下ろした。一応護衛をしないと、給料が貰えない。
しかし、物凄く強い魔物が襲ってきたら道を開けるかもしれない。自分の手を汚さずクソガキをなきものにする。

いや、…そんな卑怯な事は出来ない。殺すときは私の手で息の根を止めてやる。

つらつらと考えていたら目が冴えてきた。
闇夜が目に馴染み、眠たげな若い騎士達の顔がよく見える。若い、と言っても私と同年代くらいだ。
自分より他の奴らが年下に見えてしまう。
年上からも姐御と呼ばれてしまうのは、きっと兄弟を牛耳って来た癖が出ているのだろう。

「…ユイ、寒いでしょ。中に入りなよ…って、叩かないでよ」

ひょっこりとランジュが顔を出す。反射的に持ってかじっていた干し肉で頭をぽか、と叩いた。
呆気なく頭を叩かれるとランジュが顔をしかめる。

「……叩けるとは思っていなかった。てっきり避けるかと、…いい感触だ」

「僕は物理的な攻撃に弱いんだよね。剣を持つと湿疹が出てしまうし、…その代わり精神攻撃が得意。獲物だと狙いを定めたらとことん追い詰めて、なぶって、泣いてすがらせて…死ぬまで遊ぶ」

ランジュの頭を叩いてスッとしたが、長々と語られる非道な性格だと暴露する言葉に私は嫌な予感がした。今、頭をぽかっと叩いた。これは、その行いを悔い改め仕置きをする暇潰しの獲物にされはしないか、とヒヤリとする。

「……干し肉食うか?」

食い物をあげて、意識をそちらに向けさせようと食い掛けの干し肉をランジュに差し出した。
子供は食い物を貰うと、物をくれた人間をいいやつだと思う。私がそうだったから間違いない。
ありがとう、とランジュは受け取る。心のなかで勝利を確信した。腹が膨れたランジュはテントの中に戻り寝るだろう。
目の前でかじりついて食べる。なかなか男らしいたべっぷりだ。

「ごちそうさま。さて、前菜的な肉を食べたし今度はメインの肉を料理して食べようかな」

「……ランジュ、今、食べたのがメインの肉だ」

「へえ、…じゃあデザートのプリンを食べる。ユイ、二つ持ってるでしょ?甘くて美味しいとろとろプリン」

胡散臭い笑みを崩さずランジュは苦しがっている私の会話を繋げてくる。これがやつがいう精神攻撃か。私とランジュの会話を周囲の連中が聞いている。見られている、干し肉で頭を叩いたのも。非常に不味い。何か言ってきたら取り合えず殴ろう。話はそれからだ。

「……何やってんだよ。ユイ、入ってこい。俺の剣の手入れをしろ」

テントの中からジュランの声が聞こえた。
剣の手入れなら別にしてもいいか、と私は腰を上げた。促されるままテントの中へと入る。
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