3人play。

遊虎りん

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「あの騎士様が助けてくれたんだね!…お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます」

ジャンが私に気が付くと瞳を輝かせた。表情が明るい。ミーナにとっても弟のその様子は久しぶりなのだろう、嬉しそうに見つめている。
喜びと助かった、というこれからの希望に満ちている薄茶の丸い大きな幼い瞳にうつると嬉しく誇らしい気持ちになった。

「ああ、お前達を助けに来た。みんなを呼んできてくれないか。安全な場所に誘導する」

「……うん!僕、呼んでくるよ」

大きくジャンは頷くと地下室へと行き隠れていた人達を呼んできてくれた。ミーナとジャンの他に5人。助かったと笑ってくれた。有り難い。もっと早く助けに来てくれよ、という罵倒も覚悟していた。
生死を脅かさせる厳しい状況のなかで苛立ちや不満を感じる事もあっただろう、それを見せない強さに感心した。
褒美がきっかけ、でこの討伐隊に参加した自分が恥ずかしい。
騎士団はやはり、王や他国から守るものではなく、平和を守るものでないと。王のためではなくこの世界中の人間を守る。その気持ちが私の中で息づき始めた。

この街から一匹も残さず魔物を討伐するのには時間が掛かる。
生き残った街の人間を守る部隊と魔物を討伐する部隊が作られている。私はミーナ達を守る部隊へと一旦合流した。

守る部隊員がミーナ達に携帯食糧を配る。
それを美味しそうに涙を浮かべながら食べている。
早く安全な場所で休ませてやりたい。

「…ユイ、何処に行ってたの?心配したよ」

ランジュの声が聞こえた、と思ったら突然抱き締められた。瞬間的に嘘だろと思う。こいつは何もかもお見通しなのだろう。私が何処で何をしていたかは、きっと魔術を使い見ていた。こいつは魔物を使い何でもやりたい放題…とそこまで考えてふと私は思った。それを口に出してみる。

「…なあ、ランジュや」

改めてこのクソガキに話しかけるとなると不自然な口調になった。久しぶりに長年連れ添ったばあさんにじいさんが話しかける時のような。

「どうしたんだい、ユイ」

ランジュは可笑しそうに双眸を細めた。青い瞳が笑っている。

「…お前、ここの人達を城へ魔術を使い移動させることって出来るよな」

普通ならば確定した私の言葉を聞いて怒り、もしくは苦笑しながら不可能だ、と答えるだろう。
しかし、ランジュはあっさりと頷いた。

「うん、出来るよ」

「そうか、出来るか……ならば、今すぐやれ!」

「えー…出来るけどすごく疲れるんだよね。ユイがご褒美くれるんならやってもいいよ」

ご褒美とかガキか。あ、こいつはクソガキだった。
私は舌打ちした。ランジュは無償で何かをする質ではない。しかも、やってもいい、という気持ちがある。
街の人々を安全な場所に移動してくれるなら多少恥ずかしい事をしてやってもいい。

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