3人play。

遊虎りん

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「…ランジュ」

顔色が見るからに青く大丈夫じゃない様子のランジュにどう声をかけていいか、と言葉を頭のなかで考えて声をかけるのを躊躇う。
お前、具合が悪そうだけど大丈夫か?と見るからに大丈夫じゃない人間に声をかけるのは変ではないか。下手をしたら大丈夫じゃない!見れば分かるだろって怒鳴られそうだ。怒鳴る気力はないだろうが。
お前、具合が悪そうで大丈夫じゃないな、と決めつけるのも変だろうし。
困った。
心配で微かに震えた声が出た。
私が名前を呼ぶと顔をあげる。眉に皺を寄せて辛そうな表情のランジュと視線が合った。

「すごい魔法を使ったから力が抜けてしまったよ。動けない」

眉を下げてランジュは苦しそうに肩を上下に揺らして息を吐き出した。

「……手を貸す。立てるか?」

「ありがとう。何とか立てる」

私は手を差し出した。ランジュは私の手を掴むと立ち上がるとよろり、と危うげに揺れて私の身体にもたれ掛かった。
いつもは槍で心臓を何度も突いても死なない不死身な悪魔のような余裕をもて余しているような感じだが、今はとても弱っているひよこのようだ。
ランジュの髪は金髪だし先程のひよこ口が忘れられない。

哀れなひよこ、だぴよ。

ランジュがひよこに見えてしまう。
何だか憎らしいが、小憎らしいに変化してしまう。
バカな子ほど可愛い。ダメな子を教える教師のような。この感情はなんだろう。

「ユイ、ランジュをテントに連れていって看病してくれ。すごい魔法を使ってかなり力を消耗している」

ジュランの声に私は我に返った。

「…しかし、私は魔物を討伐する任務がある」

「俺が本気を出せば一瞬で終わらせる。それに、お前も魔物を倒して身体が休息をほっしているはずだ。少し休むといい」

いつになく、ジュランが真剣な顔と口調でまるで芝居をしているようだ。一度、村祭りで芝居を見たことがある、というか演じたことがある。
大根役者ばかりで私の大根っぷりが目立つことがなくて良かった。ちなみにその時私が演じたのは木だ。張り巡らせた根を暴れさせて村を壊滅させようとする悪い木。通りかかった正義のみかたの剣士に伐採されるはずが条件反射で剣をかわしてしまった。我に気づいて慌てて自ら切られに行ったのはいい思い出だ。


「ああ、分かった。ランジュが落ち着いたら私もすぐ討伐に向かう」

「…ユイが僕を落ち着かせてくれるんだね」

「看病は苦手だが、膨大な魔力を使わせてしまったからな」

ランジュに肩を貸してテントへと向かった。
すりすり、とランジュは私の顔に頬を擦り付けてくる。
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