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中学編。
きっかけ 2
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(面白い雲がある。あれは、きっと人々から忘れられた楽園を乗せている)
ぽっかりと空に大きな雲が浮かんでいる。
面白い空想を掻き立てるような見事な形であった。10分程の休憩時間を持て余しこの雲を空想のおかずに時間を潰す事に決めた。
「数学の宿題やって来てるでしょ?見せて」
突然の傲慢な表情と声。人に命令するのに慣れている強気な視線と口調。正直、話し掛けられたくない気分だったので鬱陶しいな、という視線を向けた。
湊斗が抱いたハリスの第一印象は、『周囲に甘やかされて育っている馬鹿坊ちゃん』だった。
「やってるけど、…見てどうする気?」
「写すのに決まってるだろ。ノート出して早く見せてよ。授業始まっちゃう」
数学の先生は厳しい。宿題をやってないと校庭30周走らされる。小学校、中学校、高校、とエスカレーター制の学校で勉強よりも柔道優先に取り組んでいたが大学受験の勉強をする内に数式の美しさに囚われた。自衛隊に入団したが、どうしても子供達に数学の素晴らしさを教えたい情熱を押さえきれなくなり教員へと方向転換した。
元脳味噌筋肉の数式マニアの筋肉数学教師だ。小野寺正、通称マーシ軍曹。迷彩柄のジャージ姿で数学を教える男。
マーシ軍曹の宿題を忘れたというペナルティを与えられるのを恐れてハリスはノートを出せと急かした。
中学の入学式で湊斗が新入生代表で挨拶をした。大抵、その役割を任せられるのは成績が優秀な優等生である。宿題を必ずやってきている、間違った答えを書いてない、と踏んだのだろう。
そして、何より湊斗は大人しそうな優等生という感じでいいなりになるとハリスは思っているのだろうと容易に考えられる。そんなハリスの心を感じて湊斗は目を怒らせた。
「……見せない。ノートを開いて数式を解いてみようと努力したけど、考えても考えてもどうしても分からなくて、教えてってなら力を貸すけど…最初からノートを丸写ししようとする狡い奴になんか見せたくない」
きっぱりとした口調で湊斗が断るのを見てハリスは形のよい目を目一杯に見開いて口をぽかん、と開ける。
生まれてから初めて人から拒絶されてハリスの思考が停止した。
ハリスの容姿は美しく、家族はもちろん他人をめろめろにさせる。甘えた声や仕種、表情を作らなくてもハリスがお願いすると誰もが言うことを聞いてくれた。断られるとは思っても見なかった。
「丸写しする時間があるなら、一問でも頭を使って考えてみろよ。宿題を忘れたのに、校庭を走りたくないとか今から逃げてどうするの?その腐った根性叩き直す為に、小野寺先生に正直に宿題忘れました!って潔く謝って校庭走れば?20周辺りで悟りを開いて少しはマシな自分になれるんじゃないか」
辛辣な言葉を淡々と、淀みなく話す湊斗。ショックが大きすぎて負け犬の遠吠え、のような言葉すら頭に思い浮かばない。先程からずっとハリスは思考停止状態だ。
遠巻きで二人のやり取りを見ていたクラスメイト達も大人しい奴ほど怒らすと怖い、と湊斗を一目を置くようになった。
「ハリス君、わたしのノート見てもいいよ?」
媚を含んだ甘い声を出してハリスの腕を掴む女子生徒が現れた。ノートを見せて恩を売り、芸能人のハリスと仲良くなろうという魂胆が見え見えだった。どうでもいい、と馬鹿臭くなり、湊斗はハリスから視線を外し窓から空を眺めた。
(最初から僕に声をかけるな、バーカ)
もう、あの面白い形の雲は遠くに風邪で流れて見えなくなっていた。
「……っ、…ねえ、君の名前を教えて!」
クラスメイトの女子生徒にナンパかよ、と呆れるがその言葉は湊斗に向けられたものだった。肩を掴まれ気がつく。
ハリスの真剣な表情で、馬鹿坊ちゃんのイメージが少し変わった。
「塩尾湊斗」
「湊ちゃん、ありがとう!俺、今アッパーカット喰らった気分。俺ってすごく卑怯な奴だって、分かった。今分かって良かった!」
名前を教えて貰うとハリスの瞳がキラキラと輝いている。映画の撮影とか仕事で、忙しい時はハリスは1限のみの出席とか多々ある。クラス全員の名前をまだハリスは覚えてない。あれだけクラスメイトがいる中散々言われて、感謝の言葉を言えるハリスは素直な心の持ち主だった。
授業開始のベルが鳴る。一秒の遅れもなくマーシ軍曹はいつもの迷彩柄のジャージで現れた。
「俺が出した宿題をやってない、美しい数式を泣かせる不届きものはいるか?」
小野寺の言動には鬼コーチに練習の時絞られていたという過去が見える。
「はい!すみません、俺宿題をやってません!」
普通ならここで挙手する生徒はいない。小野寺先生はヤバイとまだ知らなかった2回目の授業で何人かヘラヘラ笑いながら手を挙げる生徒がいた。しかし、雷を落とされ校庭を走らされると知ってからは宿題をやってこない生徒はいなくなった。
「…手を下げていい。放課後、校庭に集合せよ。七原」
「イエッサー!」
(……ここだけ見たら、僕はギャグ漫画の脇役B男だ。母親を母ちゃんと呼んで八百屋のとうちゃんがいて、…小遣いは500円だ)
湊斗は個性的な教師と生徒のやり取りをぼんやりと見つめて空想を膨らませた。
敬礼して元気よく返事をしてハリスは椅子に座った。その返事が正しいのか定かではないが、小野寺は特に突っ込みをせず授業を始めた。
ハリスの背筋がピン、と伸ばして始まった授業を真剣な表情で聞いていた。
(面白い雲がある。あれは、きっと人々から忘れられた楽園を乗せている)
ぽっかりと空に大きな雲が浮かんでいる。
面白い空想を掻き立てるような見事な形であった。10分程の休憩時間を持て余しこの雲を空想のおかずに時間を潰す事に決めた。
「数学の宿題やって来てるでしょ?見せて」
突然の傲慢な表情と声。人に命令するのに慣れている強気な視線と口調。正直、話し掛けられたくない気分だったので鬱陶しいな、という視線を向けた。
湊斗が抱いたハリスの第一印象は、『周囲に甘やかされて育っている馬鹿坊ちゃん』だった。
「やってるけど、…見てどうする気?」
「写すのに決まってるだろ。ノート出して早く見せてよ。授業始まっちゃう」
数学の先生は厳しい。宿題をやってないと校庭30周走らされる。小学校、中学校、高校、とエスカレーター制の学校で勉強よりも柔道優先に取り組んでいたが大学受験の勉強をする内に数式の美しさに囚われた。自衛隊に入団したが、どうしても子供達に数学の素晴らしさを教えたい情熱を押さえきれなくなり教員へと方向転換した。
元脳味噌筋肉の数式マニアの筋肉数学教師だ。小野寺正、通称マーシ軍曹。迷彩柄のジャージ姿で数学を教える男。
マーシ軍曹の宿題を忘れたというペナルティを与えられるのを恐れてハリスはノートを出せと急かした。
中学の入学式で湊斗が新入生代表で挨拶をした。大抵、その役割を任せられるのは成績が優秀な優等生である。宿題を必ずやってきている、間違った答えを書いてない、と踏んだのだろう。
そして、何より湊斗は大人しそうな優等生という感じでいいなりになるとハリスは思っているのだろうと容易に考えられる。そんなハリスの心を感じて湊斗は目を怒らせた。
「……見せない。ノートを開いて数式を解いてみようと努力したけど、考えても考えてもどうしても分からなくて、教えてってなら力を貸すけど…最初からノートを丸写ししようとする狡い奴になんか見せたくない」
きっぱりとした口調で湊斗が断るのを見てハリスは形のよい目を目一杯に見開いて口をぽかん、と開ける。
生まれてから初めて人から拒絶されてハリスの思考が停止した。
ハリスの容姿は美しく、家族はもちろん他人をめろめろにさせる。甘えた声や仕種、表情を作らなくてもハリスがお願いすると誰もが言うことを聞いてくれた。断られるとは思っても見なかった。
「丸写しする時間があるなら、一問でも頭を使って考えてみろよ。宿題を忘れたのに、校庭を走りたくないとか今から逃げてどうするの?その腐った根性叩き直す為に、小野寺先生に正直に宿題忘れました!って潔く謝って校庭走れば?20周辺りで悟りを開いて少しはマシな自分になれるんじゃないか」
辛辣な言葉を淡々と、淀みなく話す湊斗。ショックが大きすぎて負け犬の遠吠え、のような言葉すら頭に思い浮かばない。先程からずっとハリスは思考停止状態だ。
遠巻きで二人のやり取りを見ていたクラスメイト達も大人しい奴ほど怒らすと怖い、と湊斗を一目を置くようになった。
「ハリス君、わたしのノート見てもいいよ?」
媚を含んだ甘い声を出してハリスの腕を掴む女子生徒が現れた。ノートを見せて恩を売り、芸能人のハリスと仲良くなろうという魂胆が見え見えだった。どうでもいい、と馬鹿臭くなり、湊斗はハリスから視線を外し窓から空を眺めた。
(最初から僕に声をかけるな、バーカ)
もう、あの面白い形の雲は遠くに風邪で流れて見えなくなっていた。
「……っ、…ねえ、君の名前を教えて!」
クラスメイトの女子生徒にナンパかよ、と呆れるがその言葉は湊斗に向けられたものだった。肩を掴まれ気がつく。
ハリスの真剣な表情で、馬鹿坊ちゃんのイメージが少し変わった。
「塩尾湊斗」
「湊ちゃん、ありがとう!俺、今アッパーカット喰らった気分。俺ってすごく卑怯な奴だって、分かった。今分かって良かった!」
名前を教えて貰うとハリスの瞳がキラキラと輝いている。映画の撮影とか仕事で、忙しい時はハリスは1限のみの出席とか多々ある。クラス全員の名前をまだハリスは覚えてない。あれだけクラスメイトがいる中散々言われて、感謝の言葉を言えるハリスは素直な心の持ち主だった。
授業開始のベルが鳴る。一秒の遅れもなくマーシ軍曹はいつもの迷彩柄のジャージで現れた。
「俺が出した宿題をやってない、美しい数式を泣かせる不届きものはいるか?」
小野寺の言動には鬼コーチに練習の時絞られていたという過去が見える。
「はい!すみません、俺宿題をやってません!」
普通ならここで挙手する生徒はいない。小野寺先生はヤバイとまだ知らなかった2回目の授業で何人かヘラヘラ笑いながら手を挙げる生徒がいた。しかし、雷を落とされ校庭を走らされると知ってからは宿題をやってこない生徒はいなくなった。
「…手を下げていい。放課後、校庭に集合せよ。七原」
「イエッサー!」
(……ここだけ見たら、僕はギャグ漫画の脇役B男だ。母親を母ちゃんと呼んで八百屋のとうちゃんがいて、…小遣いは500円だ)
湊斗は個性的な教師と生徒のやり取りをぼんやりと見つめて空想を膨らませた。
敬礼して元気よく返事をしてハリスは椅子に座った。その返事が正しいのか定かではないが、小野寺は特に突っ込みをせず授業を始めた。
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