ちょっとかわった恋模様。

元お嬢様と執事。

「お嬢様、パンは食べてはいけません！食べるとしたらタンパク質を取れるタマゴサンドにしなさいぃ！パンは、ここここむむむぎぎぃは…NG！」

目を血走しらせ腕を交差させて大きくバッテンを作って唾を飛ばして純弥は魂から叫んでいる。

「変態執事、黙れ。お前の存在がNGだ」

呆れた顔をして未菜はケチャップがついたフライドポテトを純弥の頬に向かって投げた。
それをぱくん、と犬のように口でキャッチした。もぐもぐと頬を動かして食べている。面の皮がどんなに整っていても行動が奇天烈なら残念な生き物になってしまう。
未菜の心を刺すような言葉を向けられても純弥は何のダメージも受けなかった。お嬢様の言葉とお嬢様に関する情報しか耳に入らない。

「パンはおいしいものよ！アンパンマンは正義だし、栄養はないかもだけど食べると幸せになれるわ！それでいいじゃない、食べるって美味しいって微笑むことよ」

都美子はきっと、きつく元自分の執事を睨み付けた。内容はパン屋さんが聞いたらもしかしたら悲しむ内容だ。

「お菓子やパンを食べたら顔が浮腫むけど、マッサージをすればいいだけの話よ。栄養を摂取するだけが食事ではないわ！」

都美子の中でダメ執事を叱咤したいお嬢様の血が熱く煮えたぎり暴れている。激しく興奮すると口調が昔のこってこてのお嬢様に戻ってしまうのだ。

「…っ、げほ！ごほ」

若いのに自分の唾を飲んで噎せる都美子。

「大丈夫ですか、お嬢様！きゅ、救急車を手配しなければ！」

都美子が咳き込む姿を見て純弥の顔は血の気を失い青ざめている。彼にとっては都美子が自分の唾で咳き込むのは一大事らしい。一人一人、何に対して焦り動揺するのか、それぞれ違う。
純弥はすっかり気が動転して、雪だるまを素手て作った後のようにガタガタと小刻みに震える手で携帯電話を取り出すと迷惑にも救急車を呼ぼうとする。

「大丈夫よ！私は自分の唾で誤嚥性肺炎になるような弱い身体をしていないわ」

手で純弥の携帯電話を取り上げて都美子は首を弛く横に振った。

「…あの、お客様…あまり大きな声を出されては他のお客様のご迷惑になるので、」

ついに店員が来てしまった、と申し訳なく思って都美子は頭を下げて謝った。

「ごめんなさい。つい、熱が入ってしまって。気を付けます」

素直に都美子が謝ると店員はほっとして笑みを浮かべありがとうございます、と一礼してその場を去った。

自分の家から一歩出たら、周囲に迷惑をかけないようマナーを守りましょう。と当たり前の言葉が都美子の頭に過った。