上 下
32 / 154
第一章 悪役令嬢は動き出す

32.悪役令嬢は冒険者ギルドについて考える

しおりを挟む
 まず冒険者ギルドがいかに特殊かということだ。

 周辺国のある程度の規模に達する都市全てに冒険者ギルドは存在しる。各国の王侯貴族であっても、冒険者ギルドには簡単に触れれないのは神殿勢力と似ており、様々な権益を持っている。

 この世界には魔物や魔獣が存在していて、各国の正規軍も討伐などの対応を取る場合も多くある。けれど、平時は一々対応していられないので冒険者が依頼として討伐する。そして、魔物や魔獣の牙や角、毛皮や肉、様々な部位が素材として冒険者ギルドが買い取って冒険者ギルドが売る形になっている。

 各国にある冒険者ギルドだけど、その本部は聖イーフレイ帝国にあって、冒険者ギルドというのは帝国の下部組織であり、傘下商会の多くは帝国の御用商会なのだけど、流通という面でみると非常に分かりやすいように商会名を見るだけで分かるようになっている。

 その名も『ギルド商会』で、全国のどこでも同じ名前だから。売買の認可を受けている商会であっても、『ギルド御用』という名が入っている為に見ればわかるのだけど。

「モイラ商会って、モグリで魔物素材扱ってるってこと?」

 そう言って、エルーサに資料を提示する。彼女はそれを手に取ってパラパラと見てから「そういうことでしょうね」と短く答えた。

「大問題にならない? この資料からみたらパルプスト公爵も絡んでるわよね」
「誰かが訴えれば問題になるとは思いますが、近年ではよくある話だと聞いたことがあります」
「そうなの?」
「はい、特に東の国々では冒険者ギルド自体が帝国では無く、国の政治に絡んでいる場合もあるとか無いとか――ですから、大きな問題にはならないかと」
「近年は神殿も随分と力を失ってるって話だけど、帝国の力が弱まってるってこと?」
「そこまでは分かりませんが、現在は他国でも戦が起こっているそうですし」
「なんだか、嫌な世の中ね」

 そう言いながら私はこの件に関してはさらなる調査が必要なのか、深入りするべきではないのか考えたけれど、面倒臭そうなので保留とすることにした。

 でも、一度リンガロイ伯爵令嬢と会った方がよさそうな気がした。結局のところ、悪役令嬢の子達全員と会う必要があるって考えて間違いないかな。

「とりあえず、お母様に相談してお茶会を開く。これが一番手っ取り早いかしら?」

 私の言葉にエルーサは「早速」と、言って部屋を出て行く。察しが良くて助かるけど、察しが良すぎても少し怖いわ。そんな事を考えていると彼女が部屋に戻ってくる。

「本日の夕刻か明日の午後であれば、大丈夫だと仰っていました」
「そう、ありがとう。では夕刻に――」

 と、悪役令嬢の集うお茶会が開かれるまでに色々と考えておかないとね。



 ◇ ◇ ◇


 夕食前の時間に開くお母様とのお茶会はお母様の執務室で行われる場合が多い。色々と興味深い資料や本が転がっているので気を付けないと話が脱線しちゃう危険な場所である。

「で、相談って何かしら?」
「はい、子供だけのお茶会を開きたいのです」
「いいんじゃないかしら?」

 即答である。そして楽しそうなのはいいんだけど、お母様はそういう時の方が少し怖い。

「ただ、一度も会った事のない子を誘いたいのです……けど、問題ないでしょうか?」
「それは問題ですね」

 うん、やっぱり問題だった。

「それに、アリエル王女殿下も呼ぶつもりなのでしょう?」
「はい。問題ですか?」
「まぁ、親戚でもあるので問題はないとは思います。ただ貴女が主催として知らない人を呼ぶのは色々と問題があります。子供同士であれば気にしないという人もいるでしょう。でも、その家族や家に属する者達がそう思うかは別です。家格が同等であれば『無礼』だと思われ、家格が下であれば『命令』と思われ、どちらにしても礼に欠ける行為となります」

 今回家格で言えば――侯爵か伯爵だから、私の子分になれって言われているようなものなのか。

「アーマリア侯爵令嬢とリンガロイ伯爵令嬢のお二人とお知り合い……いいえ、お友達になれればいいなぁ。と、思っているのです」
「ああ、例の資料で調べていた件なのね……で、あれば問題解決する良い方法がありますよ」
「本当ですか?」

 と、いうとお母様はとっても良い笑顔でニッコリ笑いました。
しおりを挟む

処理中です...