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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

104.悪役令嬢の父親は王城へ向かう

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「夕食の時に戻れるか分からないけど、一度、王城へ戻るよ」

 と、私がそう言うと妻は優しく微笑む。いつ見ても少女の頃から変わらない彼女の雰囲気に後ろ髪を引かれる思いを振り払って私は急いで王城へ戻った。

 本来は自ら王城へ上がる場合、事前に触れを出し許可を取っての場合が多いのだが今回は一時的に邸宅へ戻ると言って急ぎ出たのもあって、どうしても戻らねばならなかった。一応は触れは出しているので問題は無い……と、いうか出していなくても城に入ることは出来るのだが、一応、事前連絡というのは大事なのだ。

 馬車が王城に入り、裏口に止められる。基本的に私が正門から入る場合は家族を連れての事がある行事ごとの時くらいだ。城に入るとランパードと出くわす。

「おやおや、ウィングレー。今日は帰ったのでは無かったのか?」
「分かっていて言うではないよ。ランパード」

 普段は王配として気を張っているランパードとは、かなーり古い付き合いでどちらも数少ない友と言える存在である。

「家族の為に仕事をほっぽり出して家に戻ったが、今日中に決済したいと言ったのは貴殿だろう?」
「いやぁ、本当に戻ってくるとは思っておらんかったからなぁ。正直、明日でもよいかと思っていたのだが……」
「ったく、ゆるいな。君はいつもそうだ」
「そういう君はいつも口煩い。まぁ、その口煩い君がいなけば、色々と面倒が多いのもアレなのだがね」

 ランパードは昔からゆるく、どちらかと言えば怠惰な人間だが、責任感と自身の妻への愛は天を貫くほどに高い。色々と適当なところは問題だが、私は彼とのこういう会話が好きなのだ。

「そういえば、最近はクリフト殿下の鍛錬によく付き合っているようだが、どうなんだい?」
「このような場で話す事では無いな……執務室の奥でアレを開けてから話そう」
「確かに。アレかぁ……あまり遅くなると問題なのだが。今日は良しとしよう」
「では、行こうではないか」

 ミストリアの国政は大まかにわけて三大公爵家と宰相、法務官、騎士団長、宮廷魔術師長、女王陛下の8名で行う議会と、三大公爵を除く上位貴族による評定、役割を持って選ばれている下位貴族による評定の三つの議場がある。

 しかし、これは内政的な部分ではそうであるが、外交面では少し違い女王陛下、ランパード、宰相を中心とした少数の面子が担っている。外交官として前に出るのは多くの場合はランパードか宰相であるリブロス家のいけ好かないヤツが行っている。

 そして、私はというと、ランパードや女王陛下が対応しないといけばい場合の事前準備や調査など多岐に渡る。ただでさえ、近年は派閥間の政争も激しいなか、外交など国外に対しての活動と本当に忙しい事この上ない。愛する妻や可愛い娘との時間をもっと取れるようにして欲しいところだ。

 まぁ、私の場合は息子達も優秀であるので領地運営の方は家令と共に上手くやっている。産業に関しては妻と娘の商会を任せているダリルの奴が上手い事やってくれているので、大分私は楽をさせて貰っていると言えるだろう。

 ランパードの執務室は女王キャロラインの執務室の側にあり、王城の位置で言えば謁見室の裏側になっている。

 執務室には隠し部屋があり、魔力登録者のみが入れる小部屋がある。ランパードの言う執務室の奥というのは、この隠し部屋の事をいう。大帝国内の有名どころの酒が置かれている彼の癒しの空間だそうだ。

「そういえば、ウィングレーは米酒を呑んだか?」
「ああ、西国では米の焼酎もあるそうだが、麦の酒に比べて甘味があって舌の上でピリリと辛みがくる刺激が中々によい酒だと」
「レシアス侯爵から、とっておきを分捕ったのだがどうだ?」

 最近、上流貴族の間で流行っている遊びで賭けでもしたのか、ランパードは少年時代と変わらない子供っぽい表情でそう言った。

「悪ふざけや賭け事は大概にしておけよ。陛下に殺されるぞ?」
「……まぁ、確かに……しかし、あのトランプという遊びは中々に面白くてな。フェストゥールなどに比べて場所を取らないのも良いし、様々なルールで遊べるのも良い」

 フェストゥールとは昔から大帝国内にある盤上で各32の駒を使って戦う模擬兵戦だ。確かにトランプと呼ばれる板で様々な遊びが出来、人数がある程度いても遊べるとあって、男性の社交では最近流行り出している。

 ちなみにこれは我が家の商売でもある。素材はとある魔物の皮を特殊な処理をして固めたモノに数字と印を描いたものだ。全部で54種類の板を使って遊ぶ事も出来るし、一部の数字札と賢者の札だけで遊ぶことも出来る優れものだ。

「で、その酒は?」
「コイツ――銘を鍛冶乃神だそうな。辛口のどっしりとした吞み口の酒だそうだぞ」
「ほう? そいつは楽しみだ」

 そうして、私とランパードの秘密の酒盛りが始まった。
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