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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る
129.悪役令嬢は魔導洞窟で罠に掛かる
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暗く、何とも言えない何かが這うような音が遠くに聞こえて来る。
私は小さく息を吐く。そして、考える――しくじったと。
ただ、独りじゃないのだけが救いだと思いながら、自身の隣にいる人物に視線を向かわせる。
「……どうしました?」
彼は冷静を装ってはいるけれど、その表情からは焦りや後悔の色が見て取れた。私はとりあえず安心させる為に小さく微笑んだ。
「どうもしないわ。『黒狼』様の傷も回復させましたし、私達であれば何も問題はないと……思いたいところです」
「問題は色々と山積ですがね……まぁ、貴女がそういうのなら、大丈夫なのかもしれませんね」
「本来の口調になっていますわよ?」
「こちらの方が楽なので、それに貴女は私の正体も分かっているでしょう?」
「まぁ、それはそうですけど」
と、彼は少し楽しそうな雰囲気で言った。
「――閣下は此処がどの辺りか分かりますか?」
私の質問に彼は小さく息を吐く。そして、周囲を一応確認してから小さく咳払いをする。
「ええ、多分ですがね。まさか、あのような悪辣な罠があるとは思いもよりませんでした――と、いうかお説教をせざるを得ない事も理解されているでしょう?」
彼の視線は真剣だ。私は少し誤魔化せるかな……とか思っていたけど、そうはいかないようだ。ハッキリ言って私のミスなのだ。皆と逸れてしまったのも、罠に掛かってしまったのも、クーベルト辺境伯に迷惑を掛けているのも。
「ここは多分ですが、下層のどこか――です。落とし穴に掛かったのは、仕方ないと思いますよ。アレを回避していれば、他の誰かが犠牲になっていたかもしれない。でも、よりにもよって、助けに入った私を庇って共に罠に落ちたのはいただけない」
「ですが、目の前に――手を差し伸べれば助けれる可能性があるなら、手を出さずにはいられない……と、思うのですが」
「確かに助けて貰っておいて、私が言うのは筋違いかもしれない。しかし、私を助けるよりも御身をもっと大事にしないといけない事くらい理解していますよね?」
本当に心配してくれているのは分かるけど、御身……ね。彼からすれば私は王位継承権を持った公爵家の娘で第一王子の婚約者――ですものね。特に彼は北の国境を守るクーベルト辺境伯領の若き当主でミストリアの忠実な臣下としても有名ですもの。
でも、自分の推しが危険な目にあっているというのに、放置して自分だけ助かる? んなバカな話は無いわ。私は助けれるなら、多少危険でも飛び込むに決まってるじゃない。それに私はお母様に随分と鍛えられているのですからね! 特に回復魔法は得意なのだから!!!
「――クーベルト辺境伯閣下は回復魔法はお得意でしたか?」
私がそう言うと彼は口を噤んだ。私は知っている、彼が攻撃系や身体強化の魔法が得意だという事も、そして、回復魔法だけは苦手だという事もね。
この世界には魔法や魔術において得手不得手というのが存在する。それは属性だったり、系統だったりと様々だけど、どれだけ理論的に分かっていても制御出来ない――と、いう現象があるのだ。魔術においては、発動制御に苦労する程度なのだけど、これが魔法で会った場合は全く制御出来ない。または非常に制御するのが難しい。と、いった具合だ。
その中でも、回復魔法というのは制御において非常に難易度の高い魔法と分類される。適性のある人でもかなりの訓練を積まないと上手く制御出来ないくらいの難易度だ。なお、回復魔法を得意とする人間というのは非常に希少な存在で、1000人にひとりくらいの割合で扱える人間がいるくらいだ。――意外と多い気もするけど、ちょっと使えるから凄く使えるまでの幅があるから、実際に戦場や冒険で活躍できるレベルでの使用者というのは本当に希少だ。
しかも、上位の回復魔法が使えれば、即死でなければ大概のケガや病気を治せるのだ。だから、この世界の戦争は結構エグイ。痛覚を抑える技術が色々と出るくらい戦場は酷いモノだ。戦術としてゾンビアッタックが成り立つのだから、一定の回復魔法を使える術者と多数の騎士で強引に突貫する作戦というのが定石なのだから。
「知り合いが危険な目に合おうというのに、回復魔法が得意な私が助けに入った方がお互いの生存確率はあがるでしょう?」
「――確かにそうだが、ここは周辺国内でも最も難度の高いとも言われる魔導洞窟であること、私が【白金】の『黒狼』だということ、貴女がまだ10歳で【鋼】の冒険者であるということも考慮にいれて欲しい」
多分、単純な戦闘能力でいえばクーベルト辺境伯の方が上だとは思う。国内上位トップ10に入る強さなのは間違いない――でも、私だって上位に食い込めるくらいの実力は持っていると思う。
「――はぁ、しかし、こうなってから文句を言っても仕方ないか。とりあえずキチンと場所を把握して、上の階層に戻る努力はしよう」
「ええ、閣下となら大丈夫だと信じてますから」
私がそう言うとクーベルト辺境伯は少し困った顔をしつつ、微笑んだ。うん、やっぱりカッコいいわ、この人。
「その前に、何があったのか詳しく教えて貰えないだろうか?」
「まぁ……ですよね。分かる範囲でしかありませんが、お話しますわ」
そう言って私は何があったか、クーベルト辺境伯に説明するのだった。
私は小さく息を吐く。そして、考える――しくじったと。
ただ、独りじゃないのだけが救いだと思いながら、自身の隣にいる人物に視線を向かわせる。
「……どうしました?」
彼は冷静を装ってはいるけれど、その表情からは焦りや後悔の色が見て取れた。私はとりあえず安心させる為に小さく微笑んだ。
「どうもしないわ。『黒狼』様の傷も回復させましたし、私達であれば何も問題はないと……思いたいところです」
「問題は色々と山積ですがね……まぁ、貴女がそういうのなら、大丈夫なのかもしれませんね」
「本来の口調になっていますわよ?」
「こちらの方が楽なので、それに貴女は私の正体も分かっているでしょう?」
「まぁ、それはそうですけど」
と、彼は少し楽しそうな雰囲気で言った。
「――閣下は此処がどの辺りか分かりますか?」
私の質問に彼は小さく息を吐く。そして、周囲を一応確認してから小さく咳払いをする。
「ええ、多分ですがね。まさか、あのような悪辣な罠があるとは思いもよりませんでした――と、いうかお説教をせざるを得ない事も理解されているでしょう?」
彼の視線は真剣だ。私は少し誤魔化せるかな……とか思っていたけど、そうはいかないようだ。ハッキリ言って私のミスなのだ。皆と逸れてしまったのも、罠に掛かってしまったのも、クーベルト辺境伯に迷惑を掛けているのも。
「ここは多分ですが、下層のどこか――です。落とし穴に掛かったのは、仕方ないと思いますよ。アレを回避していれば、他の誰かが犠牲になっていたかもしれない。でも、よりにもよって、助けに入った私を庇って共に罠に落ちたのはいただけない」
「ですが、目の前に――手を差し伸べれば助けれる可能性があるなら、手を出さずにはいられない……と、思うのですが」
「確かに助けて貰っておいて、私が言うのは筋違いかもしれない。しかし、私を助けるよりも御身をもっと大事にしないといけない事くらい理解していますよね?」
本当に心配してくれているのは分かるけど、御身……ね。彼からすれば私は王位継承権を持った公爵家の娘で第一王子の婚約者――ですものね。特に彼は北の国境を守るクーベルト辺境伯領の若き当主でミストリアの忠実な臣下としても有名ですもの。
でも、自分の推しが危険な目にあっているというのに、放置して自分だけ助かる? んなバカな話は無いわ。私は助けれるなら、多少危険でも飛び込むに決まってるじゃない。それに私はお母様に随分と鍛えられているのですからね! 特に回復魔法は得意なのだから!!!
「――クーベルト辺境伯閣下は回復魔法はお得意でしたか?」
私がそう言うと彼は口を噤んだ。私は知っている、彼が攻撃系や身体強化の魔法が得意だという事も、そして、回復魔法だけは苦手だという事もね。
この世界には魔法や魔術において得手不得手というのが存在する。それは属性だったり、系統だったりと様々だけど、どれだけ理論的に分かっていても制御出来ない――と、いう現象があるのだ。魔術においては、発動制御に苦労する程度なのだけど、これが魔法で会った場合は全く制御出来ない。または非常に制御するのが難しい。と、いった具合だ。
その中でも、回復魔法というのは制御において非常に難易度の高い魔法と分類される。適性のある人でもかなりの訓練を積まないと上手く制御出来ないくらいの難易度だ。なお、回復魔法を得意とする人間というのは非常に希少な存在で、1000人にひとりくらいの割合で扱える人間がいるくらいだ。――意外と多い気もするけど、ちょっと使えるから凄く使えるまでの幅があるから、実際に戦場や冒険で活躍できるレベルでの使用者というのは本当に希少だ。
しかも、上位の回復魔法が使えれば、即死でなければ大概のケガや病気を治せるのだ。だから、この世界の戦争は結構エグイ。痛覚を抑える技術が色々と出るくらい戦場は酷いモノだ。戦術としてゾンビアッタックが成り立つのだから、一定の回復魔法を使える術者と多数の騎士で強引に突貫する作戦というのが定石なのだから。
「知り合いが危険な目に合おうというのに、回復魔法が得意な私が助けに入った方がお互いの生存確率はあがるでしょう?」
「――確かにそうだが、ここは周辺国内でも最も難度の高いとも言われる魔導洞窟であること、私が【白金】の『黒狼』だということ、貴女がまだ10歳で【鋼】の冒険者であるということも考慮にいれて欲しい」
多分、単純な戦闘能力でいえばクーベルト辺境伯の方が上だとは思う。国内上位トップ10に入る強さなのは間違いない――でも、私だって上位に食い込めるくらいの実力は持っていると思う。
「――はぁ、しかし、こうなってから文句を言っても仕方ないか。とりあえずキチンと場所を把握して、上の階層に戻る努力はしよう」
「ええ、閣下となら大丈夫だと信じてますから」
私がそう言うとクーベルト辺境伯は少し困った顔をしつつ、微笑んだ。うん、やっぱりカッコいいわ、この人。
「その前に、何があったのか詳しく教えて貰えないだろうか?」
「まぁ……ですよね。分かる範囲でしかありませんが、お話しますわ」
そう言って私は何があったか、クーベルト辺境伯に説明するのだった。
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