α上司の最善ではない恋

空気綺麗

文字の大きさ
5 / 28
はじまりは偏見から

しおりを挟む
「うわ、そんな超人αの部下とか、お前よくやれてんな。やる気削がれない?」

 定期的に開かれる同期の飲み会で、俺は基本的に司馬さんの話題を愚痴っぽく語るのが恒例になっていた。
 聞き役は、新山と松田。気楽に話せる、貴重な同期だ。

「ほんと、そうなんだよ……。あの人見て、何をどう覚えればいいんだよ……」

 ビールをちびちび飲みながら、今日もいつもの調子で愚痴っていた――その時。


 ガンッ!!!

 突然、乾いた音が響いた。

 見ると、新山が真っ赤な顔でジョッキをテーブルに叩きつけていた。
 ……コイツ、酔ってるな?

 

「ゴタゴタうるせぇんだよ、お前らは!」

 いきなり怒鳴り声。店内の空気がピンと張りつめる。

「αだからって、αだからって――!
 お前ら、司馬さんに勝てるように何かしたっつーのかよ!?
 努力もしてねぇくせに、“どうせ無理”って決めつけて、
 そんなんでよく偉そうに愚痴れるなあ!?」
 

 周囲の客がこっちを見る。まずい、完全に目立ってる。

「に、新山……いったん落ち着こう、な?ほら、お水……」

「うるせぇ!!!」

 松田が差し出したコップを、新山は乱暴に払った。

 ――ビシャッ。

 水が、俺と松田の顔面にかかる。
 ……冷てぇ。

 

「同じだけ努力もせず、ましてや経験も違うのに、
 勝手に“理解できない”って決めつけて、思考停止するなんて……くだらねぇよ!」

「本当はさ――司馬さんみたいになりてぇんだろ!?
 でも、“大変そう”“無理そう”って理由つけて、自分は楽してたいだけじゃねぇの!?」

 

 一気に叫んだかと思うと、新山はふっと俯き、静かな声で続けた。

 

「……そうだよな、
 “分かんない”で済ませる方が楽だもんな。
 “どうせαだから”って決めつけてれば、自分が努力しなくても済むし、
 相手のことをちゃんと考えなくて済むもんな……」

「でもさ、"αだから"っていうだけで、相手を見なくていい理由にしちゃダメだろ……」

 

 気づけば、彼の肩が震えていた。

「……新山?泣いてんのか?」

「うるせぇ……バカ松田……アホ相川……」

 俺らの心配も無視して、新山はそのまま座り込んで、子どもみたいに泣き出した。
 声を上げて、ぐしゃぐしゃに。

 

 ――仕方なく、松田と俺で店の人に頭を下げ、
 新山をタクシーに乗せて帰らせた。

 幸い、水がかかったのは俺たちだけで、騒ぎもそれほど広がらずに済んだ。

 

 その後、自然解散となり、俺は濡れた上着を乾かすために、夜の街をひとり歩いた。

 妙なイライラが収まらなかった。  
 水をかけられたこともだが、それ以上に、新山の話が気にかかっていた。

 確かに、新山の言う通りだ。

 俺は司馬さんの努力を「αだからできるんだ」と、勝手に決めつけていた。  
 何がモチベーションで、どんなふうに知識を増やしているのか――何ひとつ、ちゃんと知ろうとしてこなかった。


 でも、それでもなお、“αだから”という要素が一切関係ないとも思えなかった。  
 だって、これまでずっとそうだった。  
 αとβでは、そもそもスタートラインが違う。

 どれだけ努力したところで、同じ土俵には立てない。  
 ――負けたとしても、悔しがることすらできない。

 それが、αという存在だった。


 ……そう、わかっているはずなのに。妙なイライラがおさまらない。どうすればいいんだよ。

 そう考えていた瞬間、ふと思いついてしまった。


 ――そうだ、本気であのα上司に戦ってみよう。
 負けてもそれはそれで"βじゃαに勝てない"という考えが正しいと証明できる。
 それに、あの人に何かしらで勝つことができたら。
 自分の考えが間違っていたと、素直に認められるだろう。
 
 ふと、昔のことを思い出した。

 まだ第二性とか何も分からなかった子供の頃は、そんなこと気にせず、対等だった。  
 でも、中学に入って、第二性が判明して。  
 “大人”や“社会”が、俺にこう言った。

 「お前とは違うんだよ」と。

 ……俺はそんな社会の言葉を否定できなかった。

 
「……ははは。どれだけ身の程知らずなんだよ、俺は。」

 自嘲の笑みがこぼれる。

 でももう駄目だ。  
 一度言葉にしてしまったこの感情は、もう抑えられない。

 

 ――“あのお手本みたいなαの上司に、勝ってみたい。”

 

 無謀で、無茶で、身の程知らずな野望。  
 それでも今、確かに俺の中に芽生えてしまった。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サークル合宿に飛び入り参加した犬系年下イケメン(実は高校生)になぜか執着されてる話【※更新お休み中/再開未定】

日向汐
BL
「来ちゃった」 「いやお前誰だよ」 一途な犬系イケメン高校生(+やたらイケメンなサークルメンバー)×無愛想平凡大学生のピュアなラブストーリー♡(に、なる予定) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ♡やお気に入り登録、しおり挟んで追ってくださるのも、全部全部ありがとうございます…!すごく励みになります!! ( ߹ᯅ߹ )✨ おかげさまで、なんとか合宿編は終わりそうです。 次の目標は、教育実習・文化祭編までたどり着くこと…、、 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 総愛され書くのは初めてですが、全員キスまではする…予定です。 皆さんがどのキャラを気に入ってくださるか、ワクワクしながら書いてます😊 (教えてもらえたらテンション上がります) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ⚠︎書きながら展開を考えていくので、途中で何度も加筆修正が入ると思います。 タイトルも仮ですし、不定期更新です。 下書きみたいなお話ですみません💦 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

ステッドファスト ー恋に一途な僕らの再会ー

ブンダバー
BL
中学の頃から、橋本はずっと鏑木だけを想い続けてきた。 一方の鏑木も、橋本に特別な感情を抱いていながら、モデルとして生きる彼の未来を思い、その一歩を踏み出せずにいた。 時が経ち、広告代理店に勤める社会人となった鏑木と、人気モデルとして芸能界で活躍する橋本は、仕事をきっかけに偶然の再会を果たす。 ――あの頃、言えなかった気持ち。 ――守りたかった距離。 大人になった今だからこそ、再び動き出す両片想い。 恋も、仕事も、簡単じゃない。それでも不器用に前へ進もうとする 青年たちの、芸能界を舞台にした再会ラブストーリー。 果たして、二人が想いを伝え合える日は来るのか――。 そんな2人を見守る幼馴染サブカップルにも注目!

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...