α上司の最善ではない恋

空気綺麗

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勝ち目しかない勝負

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 一念発起したものの、俺はすぐに挫折しかけていた。

 ――だってこの上司、一切隙がない!!!

 まず、とりあえず仕事は完璧だ。これは観察するまでもなく、分かっていた。
 自分の仕事をこなすだけでなく、新入社員の俺や、グループの人の業務も把握して、適切な指導をしてくれる。
 おかげでうちのグループは少人数ながらも成績が良く、俺自身も初めての人事評価で、同期の中で上位であった。

 見た目と言った先天的なものは、もはやどうしようもない。高身長かつ俳優のような男前。
 俺だって悪くはないと思うが、オーラから違う。

 そうなると、プライベート部分に何か弱点があるのではないか。
 だがこの男、プライベートを一切見せない。
 社内での交友関係は満遍なくあるものの、誰かと深く付き合っているという様子はない。
 結婚もしていなさそうだし、恋人とかの話も聞かない。

 探れば何か出てくるのかも知れないが、そもそも探るのが難しい。

 ――手詰まりだ。

 
「お前最近頑張ってるじゃん、どしたの?」

 この日は新山からこの前のことを謝りたいと話が入り、昼飯を奢ってもらっていた。
 松田は今大型プロジェクトが入り忙しいらしく、2人だ。

「お前に怒られた時に色々考えたんだよ。」

 そういうと、新山は罰が悪そうな顔をした。

「……本当にその時のことはごめんって。俺、どんなこと言ったの?」

「かっこいいこと言っていたから気にすんなって。水かけられたのはムカついたけど。」

 そういうと、新山はさらに苦虫を噛み潰したような顔をした。
 もう何度も謝られているので、話題を変えよう。
 
「そうだ。どうすれば司馬さんの弱点ってなんだと思う?」
 
「司馬さん?どうして急に。」

「お前に言われてさ、何か司馬さんに勝ってやろうって思ったわけ。」

 そういうと、新山はびっくりしたような、そして今の俺の頑張りの理由が分かり納得したような表情をした。

「……お前、凄いな。へぇ、αの司馬さんに勝とうと……」

 新山が嬉しそうにニヤニヤするから、恥ずかしくなってきた。

「やめろよ、そんな茶化すなって。」

「ごめん、茶化すつもりじゃなくて嬉しかったんだ。
 お前みたいな人もいるんだなって。」

 新山の言葉に少し引っかかりを覚えたものの、新山が話を進めたので深掘りすることはなかった。
 
「そうだな、聞く限り仕事は完璧だし……。
 弱点があるとすれば、もうあとはプライベートぐらいじゃない?」

「だよなぁ、と言ってもあの人、恋人の影もないんだよな。結婚してる雰囲気もないし。」

 そういうと、新山がニヤッとした表情を見せた。
「恋人の影もないことが大きな弱点なんじゃないか?知ってるか?α社会ってさ、30過ぎてパートナーいないと、“運命の番を拗らせてる”とか“性格に問題あるんじゃ”って言われがちなんだぜ。」

「マジ?なんでなの?」

「うん、ロマンチスト扱いでちょっと引かれるらしい。モテて当然って風潮があるから、浮いた話がないことが逆に“弱み”なのかも。」

 俺は驚いた。αの人間関係って、そういう圧もあるのか……。

 というか、αとΩは運命の番に出逢いたがってるものだと思っていたが、それすら歳をとると馬鹿にされるのか。
 確かに世界は広いから、運命の番に出会えるαとΩの方が珍しいらしい。

「……なんかαも生きづらそうだな。」

「そうそう。それに司馬さんって元々αの多い大手企業から転職してきたんだろ?そういったα社会の空気が合わなかったとか?」

 確かに、司馬さんが他のαとつるんでいるところを見たことがない。うちの会社にそこまでαがいないというのもあるが、基本的にαはαでつるむことが多い。
 司馬さんの能力からαらしさを感じることがあっても、交友関係からαらしさを感じたことはなかった。

 今度仕事でαの人と関わる機会があれば、司馬さんを観察してみよう。


 ――そしてその“観察のチャンス”は、俺が思っていたよりも早く、しかも“思いもよらない形”で訪れることになる。
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