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勝ち目しかない勝負
⑤
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口に出した言葉は嘘じゃない。
俺は司馬さんが凄いということを分かっている。
なのにこの人は勝手に自分を卑下してステージから降りようとするから、だから俺は悔しいのだ。
しばらく、司馬さんと見つめ合い続けた。
恥ずかしさがじわじわこみ上げてくるけど、ここで目を逸らしたら負けだと思って、必死に踏みとどまる。
すると司馬さんが、ふっと顔を赤らめて視線を逸らした。
「……そんなふうに言ってもらえるような人間じゃないよ、僕は。本当に……駄目なんだ、ずっと。」
その声音は、普段の“仕事ができる上司”とはまるで別人だった。
しかも、今日の司馬さんは“私”じゃなく“僕”で話している。それだけで、本音が滲み出ている気がした。
「我儘で、陰気で、臆病で……どうしようもなくて。誰にも好かれるはずのない人間なんだ。」
"好かれるはずのない"
その言葉を聞いて、胸の奥がチクリと痛んだ。
"誰かに好かれたい"というのが、きっとこの人の本心だ。
ただ客観的に見る限り、司馬さんは限りなくモテそうなのだが、なぜか自分のことを"好かれるはずのない"と思い込んでいる。
――きっと、この人の過去に、こう思わされるだけの経験があったのだろう。
俺は少し司馬さんと自分を重ねて見ていた。
"αには勝てない"と劣等感を覚えた自分の経験。
ただ、新山に叱られたことや、昨日今日と司馬さんと交流する中で、俺の劣等感は消えた訳ではないが、αに対する拒絶反応は無くなっている気がする。
おそらくそれは、自分だけで凝り固まっていたところに、人が介入したからだろう。
――1人だけで考えていると、極端になりやすい。俺や、……きっと司馬さんのように。
「……司馬さん。どうしてそんなに自分を卑下するんですか?」
気づけば自然と声が出ていた。
「司馬さんは、凄く優秀で、努力家で、才能もあって……好かれてる人間ですよ。」
少しプライベートを知ったくらいの他人の言葉じゃ、そう簡単に響かないだろう。
それでも、この人の思考に俺の意見を書き加えたくなったのだ。
「……何を、言って……」
「信じろとは言いません。俺も、司馬さんのこと、まだ全部知ってるわけじゃないし」
でも、と言葉を繋ぐ。
「それでも俺は、貴方に下を向かないで欲しいんです。
――俺を信じてください。
司馬さんは凄い人だって、何度も言いますから。」
ぐっと息を吸い込み、真っ直ぐな視線をぶつける。
「な、何を言ってるんだ君は……突然そんなこと言われても……」
司馬さんの声が震えた。視線が揺れている。
あともうひと推しだ。
「だったら、こうしましょう。俺と勝負してください」
「勝負……?」
「司馬さんがありのままで人に好かれるって証明できたら俺の勝ち。できなかったら、司馬さんの勝ち。どうです?」
我ながら、いい提案だと思った。
“勝ちたい”という当初の目的も、司馬さんを前向きにさせた上で達成できる。
思い返すとあまりにも突飛な提案だったが、きっと俺は酔いが覚めきってなかったのだろう。
この時はただハイになって言葉を続けていた。
「は?何を突然……、そんなのするわけが無いだろう。」
司馬さんは困惑したように返事した。
まあ、こんな突飛な勝負、そう簡単に受け入れては貰えないだろう。なので俺は狡い手段に出た。
「じゃあ、勝負せずに俺の勝ちって認めてくれます?」
「それは……」
「それでもいいですけどね?まあそれでも俺は、絶対に納得してもらえるまで証明し続けますから」
胸を張って、まっすぐに言い切った。
司馬さんはぽかんと口を開け、目を見開いて、放心状態。
そして――諦めたように溜息をつく。
「……わかったよ。君が飽きるまで、勝手にすればいい」
視線を逸らしながらそう言った。
――よし、これで勝負は成立だ。
「ありがとうございます!」
俺は勝ち誇った笑みを浮かべた。
俺は司馬さんが凄いということを分かっている。
なのにこの人は勝手に自分を卑下してステージから降りようとするから、だから俺は悔しいのだ。
しばらく、司馬さんと見つめ合い続けた。
恥ずかしさがじわじわこみ上げてくるけど、ここで目を逸らしたら負けだと思って、必死に踏みとどまる。
すると司馬さんが、ふっと顔を赤らめて視線を逸らした。
「……そんなふうに言ってもらえるような人間じゃないよ、僕は。本当に……駄目なんだ、ずっと。」
その声音は、普段の“仕事ができる上司”とはまるで別人だった。
しかも、今日の司馬さんは“私”じゃなく“僕”で話している。それだけで、本音が滲み出ている気がした。
「我儘で、陰気で、臆病で……どうしようもなくて。誰にも好かれるはずのない人間なんだ。」
"好かれるはずのない"
その言葉を聞いて、胸の奥がチクリと痛んだ。
"誰かに好かれたい"というのが、きっとこの人の本心だ。
ただ客観的に見る限り、司馬さんは限りなくモテそうなのだが、なぜか自分のことを"好かれるはずのない"と思い込んでいる。
――きっと、この人の過去に、こう思わされるだけの経験があったのだろう。
俺は少し司馬さんと自分を重ねて見ていた。
"αには勝てない"と劣等感を覚えた自分の経験。
ただ、新山に叱られたことや、昨日今日と司馬さんと交流する中で、俺の劣等感は消えた訳ではないが、αに対する拒絶反応は無くなっている気がする。
おそらくそれは、自分だけで凝り固まっていたところに、人が介入したからだろう。
――1人だけで考えていると、極端になりやすい。俺や、……きっと司馬さんのように。
「……司馬さん。どうしてそんなに自分を卑下するんですか?」
気づけば自然と声が出ていた。
「司馬さんは、凄く優秀で、努力家で、才能もあって……好かれてる人間ですよ。」
少しプライベートを知ったくらいの他人の言葉じゃ、そう簡単に響かないだろう。
それでも、この人の思考に俺の意見を書き加えたくなったのだ。
「……何を、言って……」
「信じろとは言いません。俺も、司馬さんのこと、まだ全部知ってるわけじゃないし」
でも、と言葉を繋ぐ。
「それでも俺は、貴方に下を向かないで欲しいんです。
――俺を信じてください。
司馬さんは凄い人だって、何度も言いますから。」
ぐっと息を吸い込み、真っ直ぐな視線をぶつける。
「な、何を言ってるんだ君は……突然そんなこと言われても……」
司馬さんの声が震えた。視線が揺れている。
あともうひと推しだ。
「だったら、こうしましょう。俺と勝負してください」
「勝負……?」
「司馬さんがありのままで人に好かれるって証明できたら俺の勝ち。できなかったら、司馬さんの勝ち。どうです?」
我ながら、いい提案だと思った。
“勝ちたい”という当初の目的も、司馬さんを前向きにさせた上で達成できる。
思い返すとあまりにも突飛な提案だったが、きっと俺は酔いが覚めきってなかったのだろう。
この時はただハイになって言葉を続けていた。
「は?何を突然……、そんなのするわけが無いだろう。」
司馬さんは困惑したように返事した。
まあ、こんな突飛な勝負、そう簡単に受け入れては貰えないだろう。なので俺は狡い手段に出た。
「じゃあ、勝負せずに俺の勝ちって認めてくれます?」
「それは……」
「それでもいいですけどね?まあそれでも俺は、絶対に納得してもらえるまで証明し続けますから」
胸を張って、まっすぐに言い切った。
司馬さんはぽかんと口を開け、目を見開いて、放心状態。
そして――諦めたように溜息をつく。
「……わかったよ。君が飽きるまで、勝手にすればいい」
視線を逸らしながらそう言った。
――よし、これで勝負は成立だ。
「ありがとうございます!」
俺は勝ち誇った笑みを浮かべた。
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