α上司の最善ではない恋

空気綺麗

文字の大きさ
10 / 28
勝ち目しかない勝負

しおりを挟む
 口に出した言葉は嘘じゃない。
 俺は司馬さんが凄いということを分かっている。
 なのにこの人は勝手に自分を卑下してステージから降りようとするから、だから俺は悔しいのだ。
 
 しばらく、司馬さんと見つめ合い続けた。
 恥ずかしさがじわじわこみ上げてくるけど、ここで目を逸らしたら負けだと思って、必死に踏みとどまる。
 すると司馬さんが、ふっと顔を赤らめて視線を逸らした。

「……そんなふうに言ってもらえるような人間じゃないよ、僕は。本当に……駄目なんだ、ずっと。」

 その声音は、普段の“仕事ができる上司”とはまるで別人だった。
 しかも、今日の司馬さんは“私”じゃなく“僕”で話している。それだけで、本音が滲み出ている気がした。

「我儘で、陰気で、臆病で……どうしようもなくて。誰にも好かれるはずのない人間なんだ。」

 "好かれるはずのない"
 その言葉を聞いて、胸の奥がチクリと痛んだ。
 "誰かに好かれたい"というのが、きっとこの人の本心だ。
 
 ただ客観的に見る限り、司馬さんは限りなくモテそうなのだが、なぜか自分のことを"好かれるはずのない"と思い込んでいる。
 ――きっと、この人の過去に、こう思わされるだけの経験があったのだろう。

 俺は少し司馬さんと自分を重ねて見ていた。
 "αには勝てない"と劣等感を覚えた自分の経験。
 ただ、新山に叱られたことや、昨日今日と司馬さんと交流する中で、俺の劣等感は消えた訳ではないが、αに対する拒絶反応は無くなっている気がする。
 おそらくそれは、自分だけで凝り固まっていたところに、人が介入したからだろう。
 ――1人だけで考えていると、極端になりやすい。俺や、……きっと司馬さんのように。

「……司馬さん。どうしてそんなに自分を卑下するんですか?」

 気づけば自然と声が出ていた。

「司馬さんは、凄く優秀で、努力家で、才能もあって……好かれてる人間ですよ。」
 
 少しプライベートを知ったくらいの他人の言葉じゃ、そう簡単に響かないだろう。
 それでも、この人の思考に俺の意見を書き加えたくなったのだ。

「……何を、言って……」

「信じろとは言いません。俺も、司馬さんのこと、まだ全部知ってるわけじゃないし」

 でも、と言葉を繋ぐ。

「それでも俺は、貴方に下を向かないで欲しいんです。
 ――俺を信じてください。
 司馬さんは凄い人だって、何度も言いますから。」

 ぐっと息を吸い込み、真っ直ぐな視線をぶつける。

「な、何を言ってるんだ君は……突然そんなこと言われても……」

 司馬さんの声が震えた。視線が揺れている。
 あともうひと推しだ。

「だったら、こうしましょう。俺と勝負してください」

「勝負……?」

「司馬さんがありのままで人に好かれるって証明できたら俺の勝ち。できなかったら、司馬さんの勝ち。どうです?」

 我ながら、いい提案だと思った。
 “勝ちたい”という当初の目的も、司馬さんを前向きにさせた上で達成できる。

 思い返すとあまりにも突飛な提案だったが、きっと俺は酔いが覚めきってなかったのだろう。
 この時はただハイになって言葉を続けていた。

「は?何を突然……、そんなのするわけが無いだろう。」

 司馬さんは困惑したように返事した。
 まあ、こんな突飛な勝負、そう簡単に受け入れては貰えないだろう。なので俺は狡い手段に出た。

「じゃあ、勝負せずに俺の勝ちって認めてくれます?」

「それは……」

「それでもいいですけどね?まあそれでも俺は、絶対に納得してもらえるまで証明し続けますから」

 胸を張って、まっすぐに言い切った。
 司馬さんはぽかんと口を開け、目を見開いて、放心状態。

 そして――諦めたように溜息をつく。

「……わかったよ。君が飽きるまで、勝手にすればいい」

 視線を逸らしながらそう言った。

 ――よし、これで勝負は成立だ。

「ありがとうございます!」

 俺は勝ち誇った笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

サークル合宿に飛び入り参加した犬系年下イケメン(実は高校生)になぜか執着されてる話【※更新お休み中/再開未定】

日向汐
BL
「来ちゃった」 「いやお前誰だよ」 一途な犬系イケメン高校生(+やたらイケメンなサークルメンバー)×無愛想平凡大学生のピュアなラブストーリー♡(に、なる予定) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ♡やお気に入り登録、しおり挟んで追ってくださるのも、全部全部ありがとうございます…!すごく励みになります!! ( ߹ᯅ߹ )✨ おかげさまで、なんとか合宿編は終わりそうです。 次の目標は、教育実習・文化祭編までたどり着くこと…、、 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 総愛され書くのは初めてですが、全員キスまではする…予定です。 皆さんがどのキャラを気に入ってくださるか、ワクワクしながら書いてます😊 (教えてもらえたらテンション上がります) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ⚠︎書きながら展開を考えていくので、途中で何度も加筆修正が入ると思います。 タイトルも仮ですし、不定期更新です。 下書きみたいなお話ですみません💦 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

ステッドファスト ー恋に一途な僕らの再会ー

ブンダバー
BL
中学の頃から、橋本はずっと鏑木だけを想い続けてきた。 一方の鏑木も、橋本に特別な感情を抱いていながら、モデルとして生きる彼の未来を思い、その一歩を踏み出せずにいた。 時が経ち、広告代理店に勤める社会人となった鏑木と、人気モデルとして芸能界で活躍する橋本は、仕事をきっかけに偶然の再会を果たす。 ――あの頃、言えなかった気持ち。 ――守りたかった距離。 大人になった今だからこそ、再び動き出す両片想い。 恋も、仕事も、簡単じゃない。それでも不器用に前へ進もうとする 青年たちの、芸能界を舞台にした再会ラブストーリー。 果たして、二人が想いを伝え合える日は来るのか――。 そんな2人を見守る幼馴染サブカップルにも注目!

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...