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思い出との再会
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送別会から帰り、アパートの入口に突っ込まれた郵便物を確認する。
電気代の請求書、新築マンションのチラシ、良く分からない何かの勧誘のチラシ、さらにその中に一通、洒落た封筒があった。どうやら結婚式の招待状のようだった。
「……またか。今度は誰だよ……」
軽くため息を吐きながら、送り主の名前を確認する。
「マジかよ!? 正臣が結婚とかウソだろ……」
送り主は大学時代、特に仲が良かった友人の一人だった。男女分け隔てなく接し学部内でも中心的な存在。しかし特定の彼女を作ることはなく恋愛には無関心。
「女なんか作らなくても、お前らとつるんでる方がよっぽど楽だわ。きっと俺、一生結婚なんかしねーし」
なんて言っていたあの頃のアイツはどこに行ってしまったのか。封筒の封を開けると、返信用のハガキと招待状、そして一枚の写真が同封されていた。とても可愛らしい女性との仲睦まじい2ショット姿に、沸々と感情が昂ってくる。
正臣め……ついにアイツも裏切ったか!! お前だけは俺の味方だと思っていたのに!!
正臣の結婚も信じられないし、正臣自身も信じられねえ!!!
……なんて軽く悪態をついたところで自分を冷静に見つめなおす。
「まあ……もう子供じゃないんだしな……」
今日の送別会でも感じていたことだ。仲の良かった友人たちも一人、また一人と家庭を築いていく。子供がいる奴だっている。ずっと目をそらしていたものが、急に現実味を帯びて襲い掛かってくるような感覚だった。
そんな重みから逃げるように、勢いよくベッドに体重を預けた。
「結婚……結婚ねえ……」
どこか他人事のように思っていた。自分には一生縁がないものなんだと。
学生の頃は良かった。ただバカみたいにふざけてるだけで楽しかったし、自分の将来について悩むような時間もなかったくらいだ。
しかし社会にでて、歳を重ねてそうも言っていられなくなった。
自分は変わらなくても、周りはどんどん変わっていく。
結婚に対する焦燥感はやっぱり生まれてこない。
しかし、さすがに今回ばかりは完全に取り残されたような気分になり孤独感が俺を襲う。
違うんだ……恋愛に興味がないわけではない。
俺には二人の幼馴染がいた。おてんばだった夏花と大人しかった単碧生。
対極のような性格の二人は、とても仲のいい親友同士でいつも一緒だった。その二人と幼稚園の頃から一緒だった俺も含めて、小学生の頃は三人で良く遊んでいたものだ。
しかし、俺たちの関係はそれだけでは終わらない。
あれは中学二年生になったある日のことだった。
「私、ずっとコータのことが好きだった」
「私もこーちゃんのことがずっと好きなの」
「「だから付き合って欲しい」」
夏花と碧生。二人からの同時の告白。
中学になってからは少し距離が離れていたものの、それでも仲のいい幼馴染。ずっとそう思っていた俺は驚きの色を隠せなかった。
どちらも選ぶことはできない。どちらかを選ばなくてはいけない。そんな選択を迫られる。
しかし当時の俺は――――どちらも選ぶことは出来なかった。
なぜ、答えを出せなかったのかはよく覚えていない。
ただその告白以降、俺たちの関係は気まずい雰囲気になってしまったことだけは覚えている。
そして、中学三年生になるのを待たずして、俺は別の地方へ引っ越すことになった。
それ以来、二人とは連絡もとっていないし一度も会っていない。
この別れは俺のモテ期の終焉を意味し、夏花と碧生のように言い寄ってくる女性は一人も居なかった。そんなモテない日々を過ごし、二人の思い出が俺の後悔を加速させる。
もし、俺が引っ越しをしていなかったらどうなっていたんだろうか?
どちらかと付き合っていれば、今でもその関係が続いていた可能性もあるのではないか?
あの時、ちゃんとどちらかを選んでいれば、今の自分は違うものになっていたのではないだろうか?
なんて飽き足りないほど繰り返し思い描いた。
こんなんだから、自分から女性に踏み込むことができないんだろう。
実際に恋愛について考えても、思い浮かぶのは二人の顔ばかり。
今だって、やっぱり二人のことを思い出している。
今頃あの二人は――元気にしているのだろうか……。
ベッドに寝転がりながらスマホの画面を開く。何気なく、インターネットでそのうちの一人の名前を検索してみた。フェイスブックにでも引っかかれば近況くらいは分かるだろう。そんな軽い気持ちだった。
そして【遊馬夏花】の検索結果で最初に表示されたのは数枚の画像だった。どれにも大きな丸い瞳に明るい色のロングボブの女性が映っている。
「これが……夏花なのか……?」
一番新しい中学二年の時の記憶と照らし合わせても、すぐに同一人物だとは思えなかった。昔は腰に届くほどのストレートロングヘアだったし、輪郭も少し丸みを帯びている気がする。しかし、よく観察してみると、少しだけ昔の面影を感じた。
あれから干支が一周するほど時間が経っている。だとすれば、見た目も大きく変わっていても仕方がないだろう。
画像の出どこはどこなのか、少しスクロールするとブログが表示されていた。ブログをクリックし、その先をいくつか見てみる。
結論から述べると、このページはとある劇団のブログだった。団員がそれぞれ持ち回りで更新しているらしく、この遊馬夏花という人物が担当した部分がヒットしたらしい。
遊馬夏花はこの劇団の団員だった。
ブログには劇団の風景を映したものがあった。その中に遊馬夏花だと思われる姿もある。
しかしどの写真を見ても、どのブログを読んでも、この遊馬夏花が俺の知る夏花と同一人物だという確信が持てなかった。
少し珍しいこの名前に、同姓同名が他にいるとは思えないんだが……。
そう言えばブログではそろそろ公演が近く、みんな気合入れて稽古しています! みたいなことが書かれていた気がする。公演情報を見ると、公演日も公演場所も意外と近いようだった。
俺は無意識のうちに、チケット購入のボタンを押してしまっていた。
電気代の請求書、新築マンションのチラシ、良く分からない何かの勧誘のチラシ、さらにその中に一通、洒落た封筒があった。どうやら結婚式の招待状のようだった。
「……またか。今度は誰だよ……」
軽くため息を吐きながら、送り主の名前を確認する。
「マジかよ!? 正臣が結婚とかウソだろ……」
送り主は大学時代、特に仲が良かった友人の一人だった。男女分け隔てなく接し学部内でも中心的な存在。しかし特定の彼女を作ることはなく恋愛には無関心。
「女なんか作らなくても、お前らとつるんでる方がよっぽど楽だわ。きっと俺、一生結婚なんかしねーし」
なんて言っていたあの頃のアイツはどこに行ってしまったのか。封筒の封を開けると、返信用のハガキと招待状、そして一枚の写真が同封されていた。とても可愛らしい女性との仲睦まじい2ショット姿に、沸々と感情が昂ってくる。
正臣め……ついにアイツも裏切ったか!! お前だけは俺の味方だと思っていたのに!!
正臣の結婚も信じられないし、正臣自身も信じられねえ!!!
……なんて軽く悪態をついたところで自分を冷静に見つめなおす。
「まあ……もう子供じゃないんだしな……」
今日の送別会でも感じていたことだ。仲の良かった友人たちも一人、また一人と家庭を築いていく。子供がいる奴だっている。ずっと目をそらしていたものが、急に現実味を帯びて襲い掛かってくるような感覚だった。
そんな重みから逃げるように、勢いよくベッドに体重を預けた。
「結婚……結婚ねえ……」
どこか他人事のように思っていた。自分には一生縁がないものなんだと。
学生の頃は良かった。ただバカみたいにふざけてるだけで楽しかったし、自分の将来について悩むような時間もなかったくらいだ。
しかし社会にでて、歳を重ねてそうも言っていられなくなった。
自分は変わらなくても、周りはどんどん変わっていく。
結婚に対する焦燥感はやっぱり生まれてこない。
しかし、さすがに今回ばかりは完全に取り残されたような気分になり孤独感が俺を襲う。
違うんだ……恋愛に興味がないわけではない。
俺には二人の幼馴染がいた。おてんばだった夏花と大人しかった単碧生。
対極のような性格の二人は、とても仲のいい親友同士でいつも一緒だった。その二人と幼稚園の頃から一緒だった俺も含めて、小学生の頃は三人で良く遊んでいたものだ。
しかし、俺たちの関係はそれだけでは終わらない。
あれは中学二年生になったある日のことだった。
「私、ずっとコータのことが好きだった」
「私もこーちゃんのことがずっと好きなの」
「「だから付き合って欲しい」」
夏花と碧生。二人からの同時の告白。
中学になってからは少し距離が離れていたものの、それでも仲のいい幼馴染。ずっとそう思っていた俺は驚きの色を隠せなかった。
どちらも選ぶことはできない。どちらかを選ばなくてはいけない。そんな選択を迫られる。
しかし当時の俺は――――どちらも選ぶことは出来なかった。
なぜ、答えを出せなかったのかはよく覚えていない。
ただその告白以降、俺たちの関係は気まずい雰囲気になってしまったことだけは覚えている。
そして、中学三年生になるのを待たずして、俺は別の地方へ引っ越すことになった。
それ以来、二人とは連絡もとっていないし一度も会っていない。
この別れは俺のモテ期の終焉を意味し、夏花と碧生のように言い寄ってくる女性は一人も居なかった。そんなモテない日々を過ごし、二人の思い出が俺の後悔を加速させる。
もし、俺が引っ越しをしていなかったらどうなっていたんだろうか?
どちらかと付き合っていれば、今でもその関係が続いていた可能性もあるのではないか?
あの時、ちゃんとどちらかを選んでいれば、今の自分は違うものになっていたのではないだろうか?
なんて飽き足りないほど繰り返し思い描いた。
こんなんだから、自分から女性に踏み込むことができないんだろう。
実際に恋愛について考えても、思い浮かぶのは二人の顔ばかり。
今だって、やっぱり二人のことを思い出している。
今頃あの二人は――元気にしているのだろうか……。
ベッドに寝転がりながらスマホの画面を開く。何気なく、インターネットでそのうちの一人の名前を検索してみた。フェイスブックにでも引っかかれば近況くらいは分かるだろう。そんな軽い気持ちだった。
そして【遊馬夏花】の検索結果で最初に表示されたのは数枚の画像だった。どれにも大きな丸い瞳に明るい色のロングボブの女性が映っている。
「これが……夏花なのか……?」
一番新しい中学二年の時の記憶と照らし合わせても、すぐに同一人物だとは思えなかった。昔は腰に届くほどのストレートロングヘアだったし、輪郭も少し丸みを帯びている気がする。しかし、よく観察してみると、少しだけ昔の面影を感じた。
あれから干支が一周するほど時間が経っている。だとすれば、見た目も大きく変わっていても仕方がないだろう。
画像の出どこはどこなのか、少しスクロールするとブログが表示されていた。ブログをクリックし、その先をいくつか見てみる。
結論から述べると、このページはとある劇団のブログだった。団員がそれぞれ持ち回りで更新しているらしく、この遊馬夏花という人物が担当した部分がヒットしたらしい。
遊馬夏花はこの劇団の団員だった。
ブログには劇団の風景を映したものがあった。その中に遊馬夏花だと思われる姿もある。
しかしどの写真を見ても、どのブログを読んでも、この遊馬夏花が俺の知る夏花と同一人物だという確信が持てなかった。
少し珍しいこの名前に、同姓同名が他にいるとは思えないんだが……。
そう言えばブログではそろそろ公演が近く、みんな気合入れて稽古しています! みたいなことが書かれていた気がする。公演情報を見ると、公演日も公演場所も意外と近いようだった。
俺は無意識のうちに、チケット購入のボタンを押してしまっていた。
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