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思い出の乖離
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夏花と碧生との思い出を語る上で、少しだけ修正しておかなくてはいけないことがある。
俺は今まで、あくまでも『三人で』というような表現を使ってきたが、実際は少しだけ違っていた。
より正確な表現をするならば、『二人+α』というような関係性だったというのが正しいだろう。もちろんその二人というのは夏花と碧生のことであり、追加されるオマケは俺のことだ。
それくらい、夏花と碧生の仲は良かった。大親友と言っても過言じゃないほどに。
夏花と碧生が俺の事を好きではなくなっていたとしても理解できる。時間も年齢も重ねてきているし、今でも俺のことを想い続けることの方が不自然であることは重々承知だ。
とはいえ、最初は夏花にそれを期待していたし、彼氏がいると聞いて知ってショックを受けていたのも事実なので、今思うと少し恥ずかしくもある……。
それでも、ただ俺の幻想が壊されたという程度で、思い出に対するダメージは然程大きいものではなかった。
しかし今回ばかりは訳が違う。
俺の思い出を、根本から壊しかねない事態に直結する。
だって――二人の友情だけは、どんなことがあろうとも揺るぎないものだと信じていたから。
碧生と再会した日から一週間が経った。
「もう――――ナツカの話はしないで」
碧生に別れ際に言われた一言。この言葉が、どうしても頭の隅から消えてくれなかった。
何度も思い浮かべるのは、当たり前のようにいつも一緒だった夏花と碧生の姿。
あんなに仲の良かった二人。
それなのに――――碧生は明らかに夏花のことを拒絶していた。
もしかしたら碧生の人付き合いが苦手になった原因もそこにあるのかもしれない。
夏花の話から、碧生とは高校からは別々で、それ以来連絡は取り合っていないという。それに中学までは仲が良かったとも言っていた。だとすると、二人の仲が悪くなったのは中学を卒業する前だろうか。
少なくとも、俺が引っ越す以前の二人の間には何もなかったはずだ。登校最終日に二人一緒に別れの挨拶をされたのをよく覚えている。
だとしても、もう10年以上も前のことだろう。このくらいの時間が経てば、当時のことなど風化して笑い話に出来たりしないのだろうか。
いや、碧生の様子からしてそれは難しいだろう。きっと俺が考えているよりもずっと、溝は深いようにも思う。
だからこうやって一人で悶々と考えていないで、本当なら今すぐ二人に話を聞くべきだ。
しかし、碧生からは夏花の話を拒絶されているから、きっと聞いても何も話してくれないだろう。だったら夏花ならどうだ?
夏花の反応は、話を切り出してみないと何とも言えないが、そもそも俺は夏花とはもう会うことがないと思っていた。恋人がいる相手にわざわざ会う理由がない。
事情があれば話は別か? そもそも直接会う必要はない。電話やメールでもいい。
どんな手段でも構わないのに、俺は夏花に連絡を取ることすら躊躇っていた。
恋人がいると知っている相手に、どう接するのが正しいのかが分からなかったのだ。
そして思考はまた最初に戻る。
一週間、この堂々巡りの繰り返しだ。結局俺は、未だに何も動けずにいた。
「はあ……」
重苦しいため息が、無意識のうちに漏れてしまう。
そんな俺の様子を見ていた遊崎が肩を叩いた。
「まあ、ショックだったのは分かるが、そろそろ立ち直ってもいいんじゃねえか」
「あ、ああ……すまん」
俺はきっとこの一週間ずっとこんな感じだったのだろう。仕事にも集中しきれていなくて迷惑を掛けていたはずだ。それでも、誰も深くは追及して来なかったのは、周りの優しさだったのかも知れない。
いつまでもその優しさに甘えているわけにもいかないと思い、俺は少しだけ気を引き締める。しかし、それを維持し続けるのは難しそうだった。
「ちょーと地味な作業あるから、手伝ってくれると助かるんだけど」
遊崎は、大量の薬の箱を持ってきて言った。
「やれやれ、仕方ないな」
俺は薬の箱を半分持ち、男二人で薬の一包化をするために作業室へ入った。
「まあ、言えることはたいしてないと思うけど、話して楽になるなら全部ぶちまけちまえよ」
遊崎が少し優しい口調で言う。
きっと俺の様子を心配して、相談しやすい状況を作ってくれたんだろう。
確かに俺は今一人で抱え込み過ぎている気がする。無関係な遊崎に意見を求めるわけではないが、聞いてくれるならそれは有り難いと思った。
遊崎が知っているのは夏花に彼氏がいた、というところまでだ。碧生のことは全く話していない。
俺は新人として丸城さんに付いていた碧生と再会したこと、そしてそのまま一緒に食事をすることになったこと、夏花の話をしたら気分を悪くして先に帰ってしまったこと。
夏花と碧生の間に何か決別する要因があって、俺はその仲を取り持てないか考えていることを出来るだけ分かりやすく説明した。
俺は今まで、あくまでも『三人で』というような表現を使ってきたが、実際は少しだけ違っていた。
より正確な表現をするならば、『二人+α』というような関係性だったというのが正しいだろう。もちろんその二人というのは夏花と碧生のことであり、追加されるオマケは俺のことだ。
それくらい、夏花と碧生の仲は良かった。大親友と言っても過言じゃないほどに。
夏花と碧生が俺の事を好きではなくなっていたとしても理解できる。時間も年齢も重ねてきているし、今でも俺のことを想い続けることの方が不自然であることは重々承知だ。
とはいえ、最初は夏花にそれを期待していたし、彼氏がいると聞いて知ってショックを受けていたのも事実なので、今思うと少し恥ずかしくもある……。
それでも、ただ俺の幻想が壊されたという程度で、思い出に対するダメージは然程大きいものではなかった。
しかし今回ばかりは訳が違う。
俺の思い出を、根本から壊しかねない事態に直結する。
だって――二人の友情だけは、どんなことがあろうとも揺るぎないものだと信じていたから。
碧生と再会した日から一週間が経った。
「もう――――ナツカの話はしないで」
碧生に別れ際に言われた一言。この言葉が、どうしても頭の隅から消えてくれなかった。
何度も思い浮かべるのは、当たり前のようにいつも一緒だった夏花と碧生の姿。
あんなに仲の良かった二人。
それなのに――――碧生は明らかに夏花のことを拒絶していた。
もしかしたら碧生の人付き合いが苦手になった原因もそこにあるのかもしれない。
夏花の話から、碧生とは高校からは別々で、それ以来連絡は取り合っていないという。それに中学までは仲が良かったとも言っていた。だとすると、二人の仲が悪くなったのは中学を卒業する前だろうか。
少なくとも、俺が引っ越す以前の二人の間には何もなかったはずだ。登校最終日に二人一緒に別れの挨拶をされたのをよく覚えている。
だとしても、もう10年以上も前のことだろう。このくらいの時間が経てば、当時のことなど風化して笑い話に出来たりしないのだろうか。
いや、碧生の様子からしてそれは難しいだろう。きっと俺が考えているよりもずっと、溝は深いようにも思う。
だからこうやって一人で悶々と考えていないで、本当なら今すぐ二人に話を聞くべきだ。
しかし、碧生からは夏花の話を拒絶されているから、きっと聞いても何も話してくれないだろう。だったら夏花ならどうだ?
夏花の反応は、話を切り出してみないと何とも言えないが、そもそも俺は夏花とはもう会うことがないと思っていた。恋人がいる相手にわざわざ会う理由がない。
事情があれば話は別か? そもそも直接会う必要はない。電話やメールでもいい。
どんな手段でも構わないのに、俺は夏花に連絡を取ることすら躊躇っていた。
恋人がいると知っている相手に、どう接するのが正しいのかが分からなかったのだ。
そして思考はまた最初に戻る。
一週間、この堂々巡りの繰り返しだ。結局俺は、未だに何も動けずにいた。
「はあ……」
重苦しいため息が、無意識のうちに漏れてしまう。
そんな俺の様子を見ていた遊崎が肩を叩いた。
「まあ、ショックだったのは分かるが、そろそろ立ち直ってもいいんじゃねえか」
「あ、ああ……すまん」
俺はきっとこの一週間ずっとこんな感じだったのだろう。仕事にも集中しきれていなくて迷惑を掛けていたはずだ。それでも、誰も深くは追及して来なかったのは、周りの優しさだったのかも知れない。
いつまでもその優しさに甘えているわけにもいかないと思い、俺は少しだけ気を引き締める。しかし、それを維持し続けるのは難しそうだった。
「ちょーと地味な作業あるから、手伝ってくれると助かるんだけど」
遊崎は、大量の薬の箱を持ってきて言った。
「やれやれ、仕方ないな」
俺は薬の箱を半分持ち、男二人で薬の一包化をするために作業室へ入った。
「まあ、言えることはたいしてないと思うけど、話して楽になるなら全部ぶちまけちまえよ」
遊崎が少し優しい口調で言う。
きっと俺の様子を心配して、相談しやすい状況を作ってくれたんだろう。
確かに俺は今一人で抱え込み過ぎている気がする。無関係な遊崎に意見を求めるわけではないが、聞いてくれるならそれは有り難いと思った。
遊崎が知っているのは夏花に彼氏がいた、というところまでだ。碧生のことは全く話していない。
俺は新人として丸城さんに付いていた碧生と再会したこと、そしてそのまま一緒に食事をすることになったこと、夏花の話をしたら気分を悪くして先に帰ってしまったこと。
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