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思い出の乖離
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俺たちは裏手の路地にひっそり佇むダーツバーへ入った。
店内の雰囲気は洒落たクラブテイストなバーで、カウンター席がメインで並び、テーブル席も三つほどあった。壁際にはダーツマシンが三台置いてある。
繁華街の駅じゃないし、隠れ家的な場所に位置しているため、他の客は俺たちの他に三組ほどしかいなかった。
二人用のテーブル席に座り、ビールとつまみをいくつか注文する。俺は腹が減っていたので、ひと際メニューで目を引いたカレーうどんを注文した。なんでメニューにあるんだよ、カレーうどん。アヒージョの流れであるのはおかしいだろ。
食事中は何故か白石さんの話題になった。
「さっきの白石さんって子、なんでコータと牛丼食べることになってたの?」
「なんでって……帰りを待ち伏せされて、一緒に帰ってたら飯行こうって言われたから、じゃあ牛丼ねって流れかな」
「はあ……不憫だわ……」
夏花は額に手をやる。きっと夕飯をたかられた俺に対する反応だろう。
「白石さんとはずっと一緒に働いてるの?」
「いや、去年に中途で地方から来たみたい。だからまだ一年そこそこってとこかな」
「ふーん。あんなに可愛いのに、なんでコータなんかのこと待ってたんだろーねー」
ニヤニヤしながらからかう様に夏花は言う。
「なんかって言うな。それこそ俺が聞きたいよ。言い寄る連中も少なくないのに、彼氏も作らないで俺にばっかりちょっかい出してくるし意味わからん」
「…………私には今のコータの発言のほうが意味わからん」
それからしばらく夏花は黙ったまま目の前のつまみを摘まんでいた。
軽く腹ごしらえを済ませると、夏花は追加で頼んでいたジーマを持って勢いよく立ち上がった。
「さて、投げますか!」
俺も同じようにジーマを手に立ち上がる。
「夏花はダーツやったことあるの?」
「うーん……2、3回くらい?」
「じゃあ投げ方とかは教えなくていいか。ルールは?」
「点数増やすやつと持ち点減らすやつならやったことあるよ」
「じゃあとりあえずゼロワンやるか」
「なにそれ?」
「持ち点減らすやつ」
「オッケー」
そして俺たちはダーツマシンの方へ移動し、カウンターテーブルにジーマを二本並べる。ダーツやビリヤードをやるときは何故か決まっていつもジーマなんだよな。
「持ち点501ね。お先にどうぞ」
ゲームをスタンバイさせ、夏花にダーツを手渡す。
ゼロワンとは交互に三投ずつなげ、最初に持ち点を0にした方の勝ちになるゲームだ。最後の0にするときは点数をピッタリの場所に当てる必要があり、運だけでは勝てないのがこのゲームの特徴である。
結果として、夏花は結構上手かった。俺も大学時代に仲間と投げ込んだから少しは自身があったんだが、戦績は3勝3敗のイーブンに終わった。
「どう? 私なかなかやるでしょ?」
「20トリプル2連発から18ダブルで終わるとかマグレ当たりだろ……」
「へへ、それでもまあ、勝ちは勝ちだしね!」
夏花は屈託のない笑顔で笑って言う。
楽しんでもらえたようだし、これで少しは気分が晴れただろうか。
2本目のジーマを飲み干し、一旦席へ戻って休憩することにする。追加のアルコールとつまみを注文したところで俺は切り出した。
「ところでさ、夏花最近なんかあった?」
「なんかって? 別になにもないよ」
なんてことのない表情で夏花は言う。
「本当にそうか? 今日はなんか表情に影があるように見えたんだよな。それに、聞きたがりの夏花が、未だに俺が電話する予定だった内容を聞いてこない。こういう時は大抵気分が沈んでいる時だったりするから、なんかあったのかなって」
「大抵って……前もそんなことあったっけ?」
「親に怒られた次の日とかいつもそんな感じだった」
「あー……言われてみればそうだったかも」
夏花は、はは……と苦笑いを浮かべる。
「それでどうなんだよ? わざわざあんなところで待ち伏せしてまで俺のことを待ってたんだから、何か聞いてほしい話があるんだと思ってたんだけど?」
「へえ、待ち伏せしてたことは気付いてたんだ?」
「行動がワンパターンなんだよ。そうやって落ち込んで話を聞いてもらいたいとき、通学路が真逆のクセに俺の通る河川敷で待ち伏せしてたじゃん」
「確かに! まったく進歩してないね!」
夏花は楽しそうに笑った。
「最初は話を聞いてもらうっていうつもりはなかったかな。ただなんとなく、コータと楽しくお酒飲みながら遊びたいなって思っただけ」
「そうか。少しは気晴らしになったか?」
「うん、ありがと。実は昨日、彼氏と別れたんだ」
「は???」
あまりのノリの軽さに一瞬耳を疑った。
「いやー、っていっても元々うまくいってなかったんだけどね。ここ一か月以上会ってなかったし、最初から本当にコレ付き合ってんのか? って感じでさ。だから、特別落ち込んでるとかそういうことはないかなー」
本当になんてことのないように、夏花は明るい調子でいう。こういうところが夏花の強さであり、弱さだと俺は常々思っていた。
周りに落ち込んでいる様子を悟られないように明るく振る舞うも、一人で抱え込んでしまって誰にも相談することが出来ない。だから俺はいつも夏花の弱さの捌け口役になっていた。
「うん、むしろスッキリしてるくらいだよ」
まるで自分に言い聞かせるように口調を強める。
「まあ、私の話はそんなとこだよ。それで? コータは私に何か聞きたいことがあったんじゃないの?」
話題を振られて少し考える。特別相談を持ち掛けられなかったことから、今回の俺の役目は本当に酒を飲みながら遊ぶことで果たしているのだろう。
聞きたいことは当然ある。でもそれは今、聞いてもいいようなことなのだろうか。
俺には誰かと付き合って別れた経験がないから、今の夏花の心情を理解してあげることが出来ない。恋人と別れることが、どれほど心に衝撃を与えるのかが分からない。
だからこそ躊躇う。
俺が聞きたいのは碧生との過去。二人の間に何かがあったのは明白で、俺はそこからさらに踏み込んだ部分にまで立ち入ろうとしている。
今の夏花に対して、この話題は適切か? そんなことを思ってしまっていた。
店内の雰囲気は洒落たクラブテイストなバーで、カウンター席がメインで並び、テーブル席も三つほどあった。壁際にはダーツマシンが三台置いてある。
繁華街の駅じゃないし、隠れ家的な場所に位置しているため、他の客は俺たちの他に三組ほどしかいなかった。
二人用のテーブル席に座り、ビールとつまみをいくつか注文する。俺は腹が減っていたので、ひと際メニューで目を引いたカレーうどんを注文した。なんでメニューにあるんだよ、カレーうどん。アヒージョの流れであるのはおかしいだろ。
食事中は何故か白石さんの話題になった。
「さっきの白石さんって子、なんでコータと牛丼食べることになってたの?」
「なんでって……帰りを待ち伏せされて、一緒に帰ってたら飯行こうって言われたから、じゃあ牛丼ねって流れかな」
「はあ……不憫だわ……」
夏花は額に手をやる。きっと夕飯をたかられた俺に対する反応だろう。
「白石さんとはずっと一緒に働いてるの?」
「いや、去年に中途で地方から来たみたい。だからまだ一年そこそこってとこかな」
「ふーん。あんなに可愛いのに、なんでコータなんかのこと待ってたんだろーねー」
ニヤニヤしながらからかう様に夏花は言う。
「なんかって言うな。それこそ俺が聞きたいよ。言い寄る連中も少なくないのに、彼氏も作らないで俺にばっかりちょっかい出してくるし意味わからん」
「…………私には今のコータの発言のほうが意味わからん」
それからしばらく夏花は黙ったまま目の前のつまみを摘まんでいた。
軽く腹ごしらえを済ませると、夏花は追加で頼んでいたジーマを持って勢いよく立ち上がった。
「さて、投げますか!」
俺も同じようにジーマを手に立ち上がる。
「夏花はダーツやったことあるの?」
「うーん……2、3回くらい?」
「じゃあ投げ方とかは教えなくていいか。ルールは?」
「点数増やすやつと持ち点減らすやつならやったことあるよ」
「じゃあとりあえずゼロワンやるか」
「なにそれ?」
「持ち点減らすやつ」
「オッケー」
そして俺たちはダーツマシンの方へ移動し、カウンターテーブルにジーマを二本並べる。ダーツやビリヤードをやるときは何故か決まっていつもジーマなんだよな。
「持ち点501ね。お先にどうぞ」
ゲームをスタンバイさせ、夏花にダーツを手渡す。
ゼロワンとは交互に三投ずつなげ、最初に持ち点を0にした方の勝ちになるゲームだ。最後の0にするときは点数をピッタリの場所に当てる必要があり、運だけでは勝てないのがこのゲームの特徴である。
結果として、夏花は結構上手かった。俺も大学時代に仲間と投げ込んだから少しは自身があったんだが、戦績は3勝3敗のイーブンに終わった。
「どう? 私なかなかやるでしょ?」
「20トリプル2連発から18ダブルで終わるとかマグレ当たりだろ……」
「へへ、それでもまあ、勝ちは勝ちだしね!」
夏花は屈託のない笑顔で笑って言う。
楽しんでもらえたようだし、これで少しは気分が晴れただろうか。
2本目のジーマを飲み干し、一旦席へ戻って休憩することにする。追加のアルコールとつまみを注文したところで俺は切り出した。
「ところでさ、夏花最近なんかあった?」
「なんかって? 別になにもないよ」
なんてことのない表情で夏花は言う。
「本当にそうか? 今日はなんか表情に影があるように見えたんだよな。それに、聞きたがりの夏花が、未だに俺が電話する予定だった内容を聞いてこない。こういう時は大抵気分が沈んでいる時だったりするから、なんかあったのかなって」
「大抵って……前もそんなことあったっけ?」
「親に怒られた次の日とかいつもそんな感じだった」
「あー……言われてみればそうだったかも」
夏花は、はは……と苦笑いを浮かべる。
「それでどうなんだよ? わざわざあんなところで待ち伏せしてまで俺のことを待ってたんだから、何か聞いてほしい話があるんだと思ってたんだけど?」
「へえ、待ち伏せしてたことは気付いてたんだ?」
「行動がワンパターンなんだよ。そうやって落ち込んで話を聞いてもらいたいとき、通学路が真逆のクセに俺の通る河川敷で待ち伏せしてたじゃん」
「確かに! まったく進歩してないね!」
夏花は楽しそうに笑った。
「最初は話を聞いてもらうっていうつもりはなかったかな。ただなんとなく、コータと楽しくお酒飲みながら遊びたいなって思っただけ」
「そうか。少しは気晴らしになったか?」
「うん、ありがと。実は昨日、彼氏と別れたんだ」
「は???」
あまりのノリの軽さに一瞬耳を疑った。
「いやー、っていっても元々うまくいってなかったんだけどね。ここ一か月以上会ってなかったし、最初から本当にコレ付き合ってんのか? って感じでさ。だから、特別落ち込んでるとかそういうことはないかなー」
本当になんてことのないように、夏花は明るい調子でいう。こういうところが夏花の強さであり、弱さだと俺は常々思っていた。
周りに落ち込んでいる様子を悟られないように明るく振る舞うも、一人で抱え込んでしまって誰にも相談することが出来ない。だから俺はいつも夏花の弱さの捌け口役になっていた。
「うん、むしろスッキリしてるくらいだよ」
まるで自分に言い聞かせるように口調を強める。
「まあ、私の話はそんなとこだよ。それで? コータは私に何か聞きたいことがあったんじゃないの?」
話題を振られて少し考える。特別相談を持ち掛けられなかったことから、今回の俺の役目は本当に酒を飲みながら遊ぶことで果たしているのだろう。
聞きたいことは当然ある。でもそれは今、聞いてもいいようなことなのだろうか。
俺には誰かと付き合って別れた経験がないから、今の夏花の心情を理解してあげることが出来ない。恋人と別れることが、どれほど心に衝撃を与えるのかが分からない。
だからこそ躊躇う。
俺が聞きたいのは碧生との過去。二人の間に何かがあったのは明白で、俺はそこからさらに踏み込んだ部分にまで立ち入ろうとしている。
今の夏花に対して、この話題は適切か? そんなことを思ってしまっていた。
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