あの頃の思い出は、いつまでも呪いのように。

gresil

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思い出の終わり

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 中学に入学して、俺はソフトテニス部へ入部した。男女混合ではないけれど、コートが隣同士なので、女子とはほとんど合同のような感じで練習していた。

 女子ソフトテニス部員でひと際目立っていたのが二年生の白石薺(なずな)先輩。長い髪をポニーテールでまとめ、小麦色に焼けた肌が眩しく映る。しかし、健康的なスポーツ女子、というイメージは薄く、部活以外での髪を下ろしている姿はと可愛い、とういよりは綺麗だったと思う。

 同学年の男子部員は練習そっちのけでなずな先輩に目を奪われた。そんな中、俺だけが関心を示さない体を装っていた。いや、本当に関心がなかったと思う。

 そんな俺に、なずな先輩は隣のコートのちょっかいを出してくることが多かった。

「はい、アウトー。ヘタっぴだねー」
「お! 空振り三振! いいスイングだったよ!」
「ボールがネットとお友達ー」

 内容としてはミスをけなされているだけのもいるだけのものだったけど、特に嫌な気分にはならなかった。むしろ、それを聞きたいがためにわざとミスをしたことだってあるくらいだ。

「ねえ、キミ。もしかして私に無関心な人?」

 ある日、唐突にそんなことを言われた。

「ないですね」

 即答で返すとなずな先輩はとても嬉しそうな表情をする。

「うん、いいね! キミとってもいいよ! というわけで今日ちょっとウチ寄っていかない?」

 周りから身を切り裂かれそうな視線を突き付けられながら俺はなずな先輩に強制連行された。

 そして家に着くと、一人の女の子を紹介される。

「妹のすずなっていうの。ちょっと男嫌いみたいだから男慣れさせるために協力してよ」

 初対面のすずなちゃんはまるでゴミを見るような冷たい視線で俺を睨みつけていた。

「すずなもそんな目で見てあげないの! この人は女に全く関心を抱かない人畜無害だから安心していいよ!」
「そんな理由で俺を連れてきたんですか!?」
「そうだけど?」

 こんな感じで俺は白石姉妹と交流を持つことになっていた。

 中学になったばかりの俺は、今まで夏花と碧生という女子の幼馴染二人と仲良くしていたせいで、女子との距離感が多少バグっていたんだと思う。
 だからなずな先輩に関心がなかったというよりは、そういう感情がよく分からなかったというのが正しいだろう。

 しかし、この姉妹と接するうちにそのバグもすぐに修正された。
 俺がなずな先輩のことを好きになるまで――――そんなに時間はかからなかった。

 しかし、この気持ちを伝える機会がなかなか訪れない。

 それは妹のすずなちゃんの存在だった。

「昴太くん、ちょっと宿題で分からないところあるんだけど……」
「いや、お姉さんに聞けばいいんじゃないのかな……?」
「やだ。昴太くんがいい」

 そう言ってすずなちゃんは俺に肩をくっつけてくる。

 俺がなずな先輩のことを好きになるのと同じような時期に、妹のすずなちゃんがデレた。
 さすがの俺でもその好意を感じ取れるくらいにはデレていた。

「いやー、すずなもすっかり男嫌いも治ったみたいだし私もこれで一安心だ」

 なんてなずな先輩は俺たちの様子を全く気にしない素振りで温かく見守っている。

 もともと姉妹の仲が良かったので、俺はこの二人と一緒に行動することが多かった。どちらかと二人きりになることはない。
 俺はなずな先輩が好きで、その妹のすずなちゃんは俺に好意を持ってくれている。この少し複雑な三角関係は何も変わらぬ膠着状態のまま一年以上の月日が過ぎた。

 なずな先輩は三年生、俺は二年生、すずなちゃんは一年生になっていた。
 俺は変わらないこの関係に満足していたかもしれないし、変えることを恐れていたのかもしれない。だからこの時はまだ、なずな先輩に想いを伝えなくてもいいと思っていた。

 その考えが変わったのはある日、夏花と碧生に告白されてからだ。
 やっぱり俺はなずな先輩のことが好きだ。そう再確認することが出来た。

 なずな先輩へ気持ちを伝えよう。そう決意するもなかなか二人になる機会が訪れない。
 すずなちゃんが邪魔しているようでもあったし、なずな先輩自身がそれを避けているような雰囲気もあった。

 あれは、夏休みが終わった九月の初頭。まだ蒸し暑さが残る金曜日の夜のことだった。

「いやー、私としたことが、コレを忘れるとはねー」

 夏の思い出の終わりとして、俺たちは人気の少ない公園で大量に買い込んだ手持ち花火を楽しんでいた。両手に何本も持ちながら、走りながらはしゃぐ二人。盛大に手持ち花火を消費した俺たちは、最後はのんびりと線香花火を楽しんだ。
 この夏休み、白石姉妹と遊びに行く機会は度々あったが、なずな先輩と二人で遊ぶのはこれが初めてだった。

「すずなも来られれば良かったんだけど、アイスの食べ過ぎでお腹壊すなんてバカみたいだよねー」
「体調不良ならしょうがないですよ」

 いつものすずなちゃんなら自分が参加できない遊びは中止していたはずだが、この日は珍しく二人で遊ぶことを許可していたようだった。

 一本ずつに火をつけ、互いに無言で火花を見つめる。薄ら明かりに映るなずな先輩の横顔を眺める。今日が終わったら、なずな先輩は受験のために本腰を入れると言っていたし、こうやって二人きりで遊ぶことはなくなってしまうだろう。

 なんか夏の終わりが、少し寂しく思えた。

 そして――――最後の線香花火の火種が落ちる。

「ねえ、昴太はすずなのことをどう思ってる?」

 沈黙を破るように、唐突な質問が来た。

 俺はこの日、最後になずな先輩に告白すると決めている。だからここですずなちゃんの話題が出るのはあまりよろしくなかった。

「すずなちゃんはいい子ですよ。とても可愛いし俺のことを慕ってくれています。でも、俺が本当に好きな――――」
「だったらいいじゃん! すずなと付き合っちゃいなよ!」

 俺の言葉を遮るようになずな先輩が言う。

「いや、だから――――」
「私は最初からそのつもりですずなに昴太を紹介したんだ。そうしてもらわなきゃ……私が困る」

 語尾を強めてなずな先輩は言う。

「俺からは……言わせてくれないんですね」
「…………だいぶ遅くなっちゃったね。今日はもう帰ろう」


 否定も肯定もせず、なずな先輩は俺の言葉を拒んでいた。
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