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令嬢13歳・皆とわたくしの学園祭・中

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 せっかくお会いしたのでミーニャ王子もお誘いして、わたくし達は中庭へと向かった。
 ベルリナ様から刺さる視線がなんだか痛い……。
 わたくし本当に、はしたないことはしてないの!! と言えないのが痛いところだ。
 13歳の侯爵家のご令嬢が執事とお部屋で獣のお耳や尻尾を触りっこ、はどう考えてもはしたない行為の範疇である。
 彼とは恋人同士ではあるのだけど、今はまだ公の関係ではない。
 ……マクシミリアンとの公にしたいわ……。
 彼はパラディスコの侯爵位を得るわけだから、執事とのお付き合いでも貴賤結婚にはならず世間からの批判は起きないわけだし。
 公衆の面前でも気にせず彼と一緒にいられるようになるし、婚約者レースからも抜けられる。
 彼との関係の公表はそう考えるといいこと尽くしに思える。
 だけどそれをすると……フィリップ王子がわたくしを捕まえるためだけに王族から籍を抜きかねないのだ。
 わたくしのせいで一国の王太子が身分を捨てるなんて、重い。重すぎる。
 というかフィリップ王子、どうしてそんなに好いてくださるの?!
 そんなことを冷や汗をかきながら考えているとフィリップ王子から流し目で見られ、またそっと手を繋がれた。

「……フィリップ様! ダメですわよ!」
「なぜだ? マクシミリアンとは……」
「フィリップ様!」

 とんでもないことを言おうとするフィリップ王子を睨みつけると、彼はその絢爛たる美貌にとろけるような笑顔を浮かべた。
 ベルリナ様とゾフィー様がフィリップ王子のその笑顔に打たれ、奇麗にシンクロした動きで激しい動悸を抑えるように胸を押さえる。
 わたくしも至近距離でそんなお顔を向けられ、思わず動悸が激しくなってしまう。
 人外じみた美貌に完全に慣れてしまうことは難しい。
 というかわたくし、睨んでいるのにどうしてそんなに嬉しそうなんですか。手を離して! 恋人繋ぎに繋ぎなおさないで!
 背後からマクシミリアンの怒りに満ちた気配が漂ってくるけれど、浮気じゃないのよマクシミリアン。
 マクシミリアンの不穏な内心を表すかのようにわたくしの足元の影が脈動していて、内心冷や汗をかく。
 マクシミリアン、ハウス! ハウスよ!
 恋人と王子の殺害の罪を背負って逃亡生活という人生のハードモードはわたくし、望んでない。
 そんな混沌とした雰囲気の中、ハウンドがそっと集団を離れて行った。
 恐らく中庭での食事に必要だと思われる食器やらを準備しに行ったんだろう。
 チャラパリピ執事なのに……いや、えっと、他国の公爵家のご令息にいつまでもそれを言うのは失礼ね……本当に彼は細やかに気が利く。
 うちのマクシミリアンもとっても気は利くのだけど、状況によってはわたくしの側を離れようとしない時があるからなぁ……。
 ――今が正にそうね。
 マクシミリアンの気配もだけれど、ベルリナ様からのじりじりと焼けつくような視線も辛い。
 ――どうしてわたくしが、こんな目に。
 げっそりしているわたくしの様子をミーニャ王子は金色の目を細めてなんだか楽しそうな表情で見ている。
 この方、傲岸不遜気味なだけじゃなくSも入っていたりするのかしら……なんて始末に負えないの。

「フィリップ様。結婚前の淑女を困らせないでくださいませ? お手をお離しになって」
「……いやだ。離す理由がない」

 フィリップ王子の返答にわたくしが困り果て、マクシミリアンからの怒りの気配が濃くなった時。

「ちぇい!」

 沈黙を守っていたミルカ王女が、わたくしとフィリップ王子の繋がれた手を鋭い手刀で切り離した。
 ……痛い。でもすごく助かった。
 フィリップ王子もはたかれた手を押さえて痛そうに顔を顰めている。
 マクシミリアンからの黒い気配も奇麗に霧散し、わたくしは心底ほっとした。

「はーい、そこまで。女の子に無理やりなことをする男はモテませんよーフィリップ様」

 そう言いながらミルカ王女はわたくしの腕に腕を絡め、無表情でフィリップ王子に鋭い視線を飛ばした。
 その視線にさすがのフィリップ王子も少したじろぐ。ミルカ王女、お強いわ。
 ベルリナ様はそんなミルカ王女の挙動を茫然として見つめていた。

「……ビアンカにはマックスとパラディスコに来てもらうの。邪魔はさせないんだから」

 わたくしにしか届かない小声で、ミルカ王女はそう呟いた。
 うう……ノーモア国際問題! だけどなんて心強い味方なの。

「分かったよ。今はビアンカを貴女に譲ろう」

 フィリップ王子は仕方なさそうにそう言って軽く肩をすくめた。

「えへへ、中庭までビアンカを私がエスコートするね」
「ありがとうございます、ミルカ様」

 わたくしは色々な思いを『ありがとう』に込めながら、ミルカ王女にお礼を言った。
 ミルカ王女は先ほどまでの表情はどこへやら、ニコニコとしながら嬉しそうにわたくしにしな垂れかかった。

「……どうしてこのぼんやりが、モテるのかしら……」

 ベルリナ様がぼそりと呟く。ぼ、ぼんやりって言われた!
 でも、情けないけれどわたくしは前世も今世も粗忽者なのでベルリナ様の評価は正解だ。
 そしてこうやって正当な評価を下してくれる方の存在は貴重である。
 未だにわたくしを怖がっているのか一線を引いている生徒の方々は多いしなぁ……どうしてだろう。

 ミルカ王女に腕を引かれながら中庭にたどり着くと、ハウンドとジョアンナが先に居て緑が映える中庭に白いテーブルを用意して待っていた。
 ミルカ王女が買い込んだ食べ物も綺麗にテーブルに並べられ、ハウンドが慣れた手つきで紅茶を淹れている。

「さ、皆様。準備はできてるんで座って下さい。早くしないと紅茶が冷めちゃうッス」

 ハウンドがそう言いながら椅子を引くとミルカ王女がぴょいっと勢いよく座った。

「随分、馴れ馴れしい口調の執事ね……。それにあのピアスの数、品が無いわ」

 ベルリナ様がハウンドを見ながら呆れたような口調で呟く。

「彼、ああ見えてパラディスコ王国の公爵家の次男だそうですわ……」

 わたくしがそう耳打ちすると、ベルリナ様は驚いた顔をした後に小さな白い手で額を押さえ頭痛を堪えるような顔をした。

「ねぇビアンカ。貴女も含めて、貴女の周囲には変わった方ばかりなのかしら?」

 ベルリナ様のごもっともな言葉に、わたくしは反論できなかった。
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