もののけ執事の今日のお夜食

夕日(夕日凪)

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深夜、遭遇、もののけ執事6

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「人の世界との強い縁ができてしまった百合様は、天界へ戻ることを激しく拒絶しました。なので我々は百合様とお約束をしたのです」
「約束……?」
「男の命数と同じだけ、こちらの世にいても良い。しかし男の命数が尽きた時には、天界に戻り二度と人の世に下りてはならないと。そういうお約束でございます。孫姫様が心配で、百合様はさらに何年かご滞在を伸ばされましたが」

 夜音さんはそう言って、私に赤い瞳を向けた。
 祖母は祖父の寿命まで、『こちらの世界にいてもいい』という許可を得た……という理解で合ってるのかな。
 それにしても。お祖母ちゃんはそんなに私のことを心配してたんだ。
 気が弱く、押しに弱く、人の顔色ばかりを窺っている。そんな孫娘を神様だったらしい祖母は、どう思っていたのだろう。

「私が頼りないから……」
「それは理由の一つでございます」

 ぽつりと漏らす私に、夜音さんはそう言った。

「一つ?」
「姫様は人間の血が濃く出ており、ほとんど人間と変わりません。しかし、孫姫様には百合様の血が濃く受け継がれております。その血に惹かれて近づこうとする『もののけ』たちは、とても多いのです」
「もののけ……?」
「神ではなく、人でもない、私のような存在でございます。妖怪、あやかし、あやし……こちらでは、いろいろな呼び方をされておりますね。いい者も、悪い者もおります」

 澄ました顔で言うと、夜音さんは狐耳を揺らしてみせる。こういう存在が他にもいるんだ。
 電車で出会った少女も、その『もののけ』だったりするのだろうか。

 ――待って。

 人じゃない者たちがたくさん寄ってくるだなんて、想像するとホラーでしかない。
 顔からざーっと血の気が引き、体もぶるぶると震えだす。
 夜音さんにはご飯でかなり懐柔されてしまったけれど、それは彼が『常識』というものを持っているように見えるから……という部分が大きい。
 私に寄ってくる『もののけ』たちのすべてが、夜音さんのような『常識のある』存在だとは到底思えない。

「……近頃、孫姫様の周囲で悪いことが続いたりはしませんでしたか?」

 夜音さんは綺麗な赤の瞳を細めて私を見つめる。私は少しドキリとしてしまった。
 見つめられてときめいたとかじゃなくて、『悪いこと』の心当たりがあったからだ。
 彼氏との別れ、大きな仕事の喪失。その他にも、お財布をなくしたり、水道管が壊れたり……そんな細々とした悪いことが直近で続いていた。
『運が悪いなぁ』なんて思っていたけど、あれはなにかの影響だったりするのだろうか。
 私が頷いてみせると、夜音さんは「ふむ」と小さく言った。

「それは孫姫様に悪いものたちが近づこうとしている予兆でございます。今までは百合様が貴女を守っておりましたが、彼女は天に帰られた。百合様が住んでいたこの家には彼女の加護の名残りがありますので、孫姫様は本能的にこちらにやって来たのでしょう」

 背筋が、ぞくぞくと嫌な寒さを覚えた。
 ……あのまま東京にいたら、私はどうなっていたのだろう。
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