35 / 36
もののけ執事とお座敷少女18
しおりを挟む
「いただきます!」
「足りなければ、おかわりもありますから」
かぶのスープに箸を付ける私に、にこにことしながら佐助君が言う。
根津ちゃんも無表情だけれど、どこかそわそわしながら食卓に着いている。きっと、お腹が空いているのだろう。
フーフーと息を吹きかけ少し冷ましてからスープを口に含むと、ほっと肩の力が抜けるような、優しい味を舌に感じた。
さっぱりとした塩味、豚肉から滲み出るコク。アクセントのために生姜が入っているらしく、爽やかな香りが鼻腔を抜ける。かぶはよく煮えていて、噛む力を加えるまでもなくほろりと口中で解けていく。葉はシャキシャキとした食感を残しており、茎の柔らかさとのコントラストが楽しめた。人参もちょうど火が通っている。
「はー……美味しい」
思わずそんなつぶやきを漏らすと、佐助君が「それはよかったです!」と言って嬉しそうに笑った。
根津ちゃんは表情を動かさないままで、夢中でスープとご飯をかき込んでいる。食べ物で頬を膨らませているその様子は、お食事中のハムスターみたいだ。
「佐助君も夜音さんもすごいなぁ。美味しいものを、ちゃちゃっと作れて」
自分の美味しくもまずくもない料理の味を思い出し、私は少し遠い目になる。東京に住んでいた頃は外食することも多かったから、なかなか上達しなかったんだよね……
毎日こんなに美味しいものばかり食べていたら、自炊をした時しょんぼりとした気持ちになるんだろうな。
「芽衣様、料理は経験です。今度一緒にお料理をしましょう!」
「わぁ、本当? 嬉しいな!」
「ふふ。僕も嬉しいです!」
口の端に米粒をつけてくふふと笑う佐助君と見ていると、心がじわりと温かくなる。
その時、根津ちゃんが佐助君の側に行くと彼の着物をちょいちょいと引っ張った。
「佐助」
「なんです、根津」
「ん……」
ずいとお茶碗を差し出され、佐助君は目を丸くする。そして「ああ、おかわりですか」とつぶやき、お米をよそうべく台所へと向かった。兄と妹のやり取りみたいで、なんだか見ていて微笑ましい。
その時――
「……!」
根津ちゃんが、座敷ちゃんが寝ている部屋に目をやった。私もつられて目をやると……
襖が数センチ開いていて、そこから覗くなんだか申し訳なさげな顔が一つ。座敷ちゃんが……起きたのだ。
「座敷ちゃん、体調はどう?」
声をかけつつ襖を開けると、座敷ちゃんは潤む瞳でこちらを見つめた。
「――ごめんなさい!」
そして謝罪とともに畳に額を擦りつけるようにして、勢いよく頭を下げる。突然土下座を披露されてしまった私は、どうしていいのかわからずに目を瞠ったまま固まってしまった。
「足りなければ、おかわりもありますから」
かぶのスープに箸を付ける私に、にこにことしながら佐助君が言う。
根津ちゃんも無表情だけれど、どこかそわそわしながら食卓に着いている。きっと、お腹が空いているのだろう。
フーフーと息を吹きかけ少し冷ましてからスープを口に含むと、ほっと肩の力が抜けるような、優しい味を舌に感じた。
さっぱりとした塩味、豚肉から滲み出るコク。アクセントのために生姜が入っているらしく、爽やかな香りが鼻腔を抜ける。かぶはよく煮えていて、噛む力を加えるまでもなくほろりと口中で解けていく。葉はシャキシャキとした食感を残しており、茎の柔らかさとのコントラストが楽しめた。人参もちょうど火が通っている。
「はー……美味しい」
思わずそんなつぶやきを漏らすと、佐助君が「それはよかったです!」と言って嬉しそうに笑った。
根津ちゃんは表情を動かさないままで、夢中でスープとご飯をかき込んでいる。食べ物で頬を膨らませているその様子は、お食事中のハムスターみたいだ。
「佐助君も夜音さんもすごいなぁ。美味しいものを、ちゃちゃっと作れて」
自分の美味しくもまずくもない料理の味を思い出し、私は少し遠い目になる。東京に住んでいた頃は外食することも多かったから、なかなか上達しなかったんだよね……
毎日こんなに美味しいものばかり食べていたら、自炊をした時しょんぼりとした気持ちになるんだろうな。
「芽衣様、料理は経験です。今度一緒にお料理をしましょう!」
「わぁ、本当? 嬉しいな!」
「ふふ。僕も嬉しいです!」
口の端に米粒をつけてくふふと笑う佐助君と見ていると、心がじわりと温かくなる。
その時、根津ちゃんが佐助君の側に行くと彼の着物をちょいちょいと引っ張った。
「佐助」
「なんです、根津」
「ん……」
ずいとお茶碗を差し出され、佐助君は目を丸くする。そして「ああ、おかわりですか」とつぶやき、お米をよそうべく台所へと向かった。兄と妹のやり取りみたいで、なんだか見ていて微笑ましい。
その時――
「……!」
根津ちゃんが、座敷ちゃんが寝ている部屋に目をやった。私もつられて目をやると……
襖が数センチ開いていて、そこから覗くなんだか申し訳なさげな顔が一つ。座敷ちゃんが……起きたのだ。
「座敷ちゃん、体調はどう?」
声をかけつつ襖を開けると、座敷ちゃんは潤む瞳でこちらを見つめた。
「――ごめんなさい!」
そして謝罪とともに畳に額を擦りつけるようにして、勢いよく頭を下げる。突然土下座を披露されてしまった私は、どうしていいのかわからずに目を瞠ったまま固まってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる