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令嬢と断罪
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「トイニ・ケスキナルカウスだな」
その声に呼び止められた時に感じた印象は『人に命令し慣れている声だな』だった。
授業が終わって放課後になり、私はスキップしそうな勢いで寮へと戻ろうとしていた。
どんなパターンを想像してもエディが好きだ。
エディをすべて受け入れよう。そんな浮かれたことを考えながら。
そんなところを偉そうに呼び止められ、やや不機嫌になりながら振り向くと……
そこには不機嫌そうなアルバン王子と、目を潤ませたバラボー男爵家のアンジェリーヌ嬢、そして正義感に満ちた表情……の演技をしたエミリー様とお取り巻きたちがいた。
――断罪だ。今から断罪されるんだ。
エディとの結婚が目前に迫った今断罪上等ではあるのだけれど、できれば手短に済ませて欲しい。私はデートに遅刻したくないのだ。
私の後ろにはエイナルが控えている。その表情は前髪で見えないけれど、アルバン王子たちの登場にも彼は落ち着いているように見えた。
「ごきげんよう皆様。なにか私めに御用でしょうか?」
私はカーテシーの後に、なにも知りませんよという仕草で首を傾げてみせる。
するとエミリー様が一歩前へと踏み出した。
「トイニ、自分の胸に手を当てて考えてみなさい。思い当たることがあるのではなくて?」
「はぁ……」
私が自分の胸に手を当てても、大きくも小さくもない胸に手が触れるだけである。
「アンジェリーヌ嬢を害しました! すみません!」と謝ったら高速で断罪劇が終わるかな。そうしたらデートに余裕で間に合う……なんて思案をしていた時。
「エミリーの協力で数々の証拠が挙がっている。君がアンジェリーヌ傷害の主犯なのだな?」
アルバン王子が正義の炎で瞳を揺らめかせながらこちらへと詰め寄ってきた。
……学生時代から婚約者と側室候補に争いを起こさせるような、女癖の悪い男に正義面をされてもなぁ……という気持ちは胸の奥底に沈めて入念に踏みつけておこう。
こういう時は一応抵抗を見せた方がいいのかなぁ。
周囲の生徒たちも興味津々という様子で見ているし。私は案外、サービス精神が旺盛なのだ。
「えっと、なんのことでしょう?」
きょとんとしながら、私は首を傾げてみせた。我ながらいい演技力だなー。
「貴女が私を階段から突き落としたのだと言う、証人がいるのです。他にもいろいろな証拠が……」
アンジェリーヌ嬢も瞳を潤ませながら、こちらに詰め寄ってくる。
……この子、エミリー様が主犯だって気づいてるんじゃないかなぁ。
アンジェリーヌ嬢とエミリー様は毎日のように鍔迫り合いをしていたのだから、エミリー様を主犯と考える方が自然だし。私はエミリー様のお取り巻きではあるけれど、アンジェリーヌ嬢のいじめには加担しないようにしていたし。
これは公爵家と揉め事を起こさずに殿下の保護欲をそそるため……だったりするのかな。
それくらい計算高くないと王子の側室候補なんかやってられないのかもしれないけど、こっちとしてはたまったものではない。事前にエミリー様の計画を知ったから、こうやって焦らずに済んでいるけれど。
……なんだか、腹が立ってくるなぁ。
「えーっと、階段。ですか?」
私がまた首を傾げてみせると、王子が軽く舌打ちをした。
そして懐から数枚の紙片を取り出す。どうやらそれに『証拠』が書かれているらしい。
エミリー様は沈痛な面持ちでこちらを見つめている。そのお姿はまるで『罪を犯した友人を、大きな葛藤と悲しみに包まれながら断罪する貴婦人』のようだ。
「五週間前の午後のことだ。校舎の西塔で……」
「殿下、発言しても宜しいでしょうか?」
――静かな声が、王子の声を遮った。
私は思わず勢いよく背後を振り返る。
言葉を発したのが……エイナルだったから。
「……お前は?」
王子が怪訝そうにエイナルに問う。
「マロニエ子爵家の三男、エイナルと申します。殿下」
エイナルはそう言うと優雅に一礼をした。
……エイナル、貴方貴族だったんだ。
その声に呼び止められた時に感じた印象は『人に命令し慣れている声だな』だった。
授業が終わって放課後になり、私はスキップしそうな勢いで寮へと戻ろうとしていた。
どんなパターンを想像してもエディが好きだ。
エディをすべて受け入れよう。そんな浮かれたことを考えながら。
そんなところを偉そうに呼び止められ、やや不機嫌になりながら振り向くと……
そこには不機嫌そうなアルバン王子と、目を潤ませたバラボー男爵家のアンジェリーヌ嬢、そして正義感に満ちた表情……の演技をしたエミリー様とお取り巻きたちがいた。
――断罪だ。今から断罪されるんだ。
エディとの結婚が目前に迫った今断罪上等ではあるのだけれど、できれば手短に済ませて欲しい。私はデートに遅刻したくないのだ。
私の後ろにはエイナルが控えている。その表情は前髪で見えないけれど、アルバン王子たちの登場にも彼は落ち着いているように見えた。
「ごきげんよう皆様。なにか私めに御用でしょうか?」
私はカーテシーの後に、なにも知りませんよという仕草で首を傾げてみせる。
するとエミリー様が一歩前へと踏み出した。
「トイニ、自分の胸に手を当てて考えてみなさい。思い当たることがあるのではなくて?」
「はぁ……」
私が自分の胸に手を当てても、大きくも小さくもない胸に手が触れるだけである。
「アンジェリーヌ嬢を害しました! すみません!」と謝ったら高速で断罪劇が終わるかな。そうしたらデートに余裕で間に合う……なんて思案をしていた時。
「エミリーの協力で数々の証拠が挙がっている。君がアンジェリーヌ傷害の主犯なのだな?」
アルバン王子が正義の炎で瞳を揺らめかせながらこちらへと詰め寄ってきた。
……学生時代から婚約者と側室候補に争いを起こさせるような、女癖の悪い男に正義面をされてもなぁ……という気持ちは胸の奥底に沈めて入念に踏みつけておこう。
こういう時は一応抵抗を見せた方がいいのかなぁ。
周囲の生徒たちも興味津々という様子で見ているし。私は案外、サービス精神が旺盛なのだ。
「えっと、なんのことでしょう?」
きょとんとしながら、私は首を傾げてみせた。我ながらいい演技力だなー。
「貴女が私を階段から突き落としたのだと言う、証人がいるのです。他にもいろいろな証拠が……」
アンジェリーヌ嬢も瞳を潤ませながら、こちらに詰め寄ってくる。
……この子、エミリー様が主犯だって気づいてるんじゃないかなぁ。
アンジェリーヌ嬢とエミリー様は毎日のように鍔迫り合いをしていたのだから、エミリー様を主犯と考える方が自然だし。私はエミリー様のお取り巻きではあるけれど、アンジェリーヌ嬢のいじめには加担しないようにしていたし。
これは公爵家と揉め事を起こさずに殿下の保護欲をそそるため……だったりするのかな。
それくらい計算高くないと王子の側室候補なんかやってられないのかもしれないけど、こっちとしてはたまったものではない。事前にエミリー様の計画を知ったから、こうやって焦らずに済んでいるけれど。
……なんだか、腹が立ってくるなぁ。
「えーっと、階段。ですか?」
私がまた首を傾げてみせると、王子が軽く舌打ちをした。
そして懐から数枚の紙片を取り出す。どうやらそれに『証拠』が書かれているらしい。
エミリー様は沈痛な面持ちでこちらを見つめている。そのお姿はまるで『罪を犯した友人を、大きな葛藤と悲しみに包まれながら断罪する貴婦人』のようだ。
「五週間前の午後のことだ。校舎の西塔で……」
「殿下、発言しても宜しいでしょうか?」
――静かな声が、王子の声を遮った。
私は思わず勢いよく背後を振り返る。
言葉を発したのが……エイナルだったから。
「……お前は?」
王子が怪訝そうにエイナルに問う。
「マロニエ子爵家の三男、エイナルと申します。殿下」
エイナルはそう言うと優雅に一礼をした。
……エイナル、貴方貴族だったんだ。
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