蔦葛物語

DENNY喜多川

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第十六夜 前立腺 前編

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 肛門は、本来ペニスを受け入れる場所ではない。
 日本には、少なくとも平安時代から、肛門性交を含む男色が存在したが、その技法の中には、スムーズにペニスを挿入するために、肛門を拡張する技術も存在した。禁書「稚児草紙」から、その一端がうかがえる。
 稚児と師僧の純愛を描いた、「稚児草紙」には、老いて勃起力の衰えた師僧のため、肛門の拡張に励む稚児の姿も描かれる。それによると、
「尻の穴に丁子油を塗り、炭火で温めて柔らかくし、張形を使って拡張する」
 とある。
 江戸時代の陰間のためのマニュアルには、
「まず小指で柔らかくし、次に人差し指、薬指、中指、親指と差し入れて、拡張していく」
 と、さらに詳細な解説が施されている。また、その頃には、海藻から作った、「いちぶのり」と呼ばれる、粉末状の物を水に溶いて使うローションも存在した。


「道長さまに侍女がいたずらされ、傷を負ったので退出したい」
 と申し上げると、定子さまはたいそう心配され、退出の許可はもちろん、傷薬までくだされた。
 帰り道、牛車の中で、震える拾を、私はぎゅっと抱き締め続けた。
 自宅に帰り、拾を脱がせると、下袴(したばかま)は、うっすらと血に染まっていた。かなりの出血があるようだ。
 医師でもない私には、見ただけでは傷の深さはわからない。
「痛いかもしれないけど、我慢して……」
 私は、指にたっぷりと膏薬(こうやく)を塗り、拾の肛門を撫でさすった。
「あっ……」
「痛いの?」
「いいえ。続けてください」
 どうやら、すでに出血は止まっているようだ。血と膏薬をぬぐうと、痛々しい裂傷が四方に走っているのが見えた。
「尻の中も裂けているかもしれない……」
 私は、中指に膏薬をたっぷり塗りつけ、拾の尻穴に押し当てた。
「痛くても我慢するのよ」
「はい……」
 入り口で少し抵抗があったが、膏薬のおかげか、指は、ちゅるん、と入っていった。
 拾が切なげなうめき声をあげた。
 
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