14 / 25
安心感・前編
しおりを挟む
「ルフィーナ嬢、ありがとう」
ダンスが終わるとマカールは優しげな笑みでルフィーナを見つめていた。
「いえ、こちらこそよ」
ルフィーナは胸の騒つきをなかったことにして、いつものようにおっとりと微笑んだ。
その時、聞き覚えのある声が響く。
「ルフィーナお姉様!」
明るく鈴の音が鳴るような、溌剌とした声。リュドミラだ。
「ルフィーナお姉様、飲み物を持って来ましたの。ダンスが終わった後で喉が渇いているでしょう?」
リュドミラの手には、二つのグラス。シュワシュワとした苺のソーダである。
「ありがとう、リュダ。だけどまずはマカール様にご挨拶しないと」
ルフィーナは困ったように微笑み、リュドミラからグラスを受け取った。
「いや、ルフィーナ嬢。僕はこれで失礼するよ。リュドミラ・ユーリエヴナ嬢と話すと良い」
マカールはフッと優しげに微笑み、その場を去った。
「ようやくルフィーナお姉様と話せますわ」
「もう、リュダったら」
リュドミラからキラキラとしたムーンストーンの目を向けられては、ルフィーナは何も言えなくなる。
リュドミラから受け取った苺のソーダを一口飲むルフィーナ。苺の甘酸っぱさが口の中に広がり、炭酸が喉の奥でシュワシュワと弾けた。
「それでリュダ、サーシャとの結婚準備は順調?」
「ええ、もちろんですわ」
リュドミラはルフィーナからの問いに、頬を赤く染めながら頷く。
そこへ別の声が聞こえる。
「結婚式の日程も決まったからね」
アレクサンドルである。さりげなくアレクサンドルはリュドミラの腰を抱く。
「まあサーシャ、そうなのね」
ルフィーナはまるで自分のことのように嬉しそうである。
「ラスムスキー侯爵家の方からルフィーナにも結婚式の招待状を送るよ」
「サーシャとリュダの結婚式、楽しみにしているわ」
ルフィーナは穏やかに微笑んだ。
(サーシャとリュダの二人と話している時は、少し気が晴れるわね。だけど……やっぱり視線を感じるわ)
ルフィーナはほんの少しゾクリとした。
「ルフィーナお姉様……少し顔色が悪い気がしますが、大丈夫ですか?」
リュドミラは心配そうにルフィーナを見ている。
「何か気がかりなことでもあるのかい?」
アレクサンドルも心配そうな表情である。
(視線のことを話したら、きっとサーシャとリュダは力になってくれるわよね。……でも、サーシャとリュダは結婚の準備があるわ。サーシャもリュダも、結婚するのを楽しみにしている。今この二人に相談するタイミングではないかもしれないわ。もう少し落ち着いたらにしましょう)
ルフィーナはそう決意し、いつものようにおっとりと穏やかに微笑む。
「いいえ、何でもないのよ。強いて言えば、先程タラス・フォミチ様とトラブルになりかけたことかしら。マカール様に助けていただいたからもう大丈夫だけれど」
「タラス・フォミチ様との件、私も見ましたわ。私もすぐにルフィーナお姉様を助けたかったのですが」
リュドミラはやや悔しそうな表情である。
「マカール・クラーヴィエヴィチ殿に先越されてリュダはむくれていたよ」
アレクサンドルはそんなリュドミラを愛おしげに見つめていた。
視線は感じつつも、幼馴染二人と一緒にいると少しだけ心が落ち着くルフィーナだった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
しばらくすると、アレクサンドルとリュドミラがダンスを始めた。
よってルフィーナは壁際で休憩することにした。
(サーシャとリュダ、楽しそうね)
ルフィーナは二人を見て穏やかに微笑んでいた。
アレクサンドルはヘーゼルの目を愛おしげにリュドミラに向けている。
リュドミラはムーンストーンの目をキラキラと輝かせながらふわりと元気良く舞う。
お似合いだなとルフィーナは思っていた。
「ルフィーナ嬢」
その時、隣で低く凛とした声が聞こえた。
ルフィーナはハッとし、声の方向を見る。
「エヴグラフ・アレクセーヴィチ殿下……」
そこにいたのはエヴグラフだった。
公式の場なので、父称込みでエヴグラフの名前を呼ぶルフィーナである。
「驚かせてすまない」
エヴグラフは少し申し訳なさそうな表情である。
「いえ、こちらこそ、殿下に気付かず申し訳ございません」
ルフィーナはおずおずとした様子である。
「気にすることはない。それよりも、ルフィーナ嬢に見せたいものがあるんだ。来てもらえるだろうか?」
エヴグラフのラピスラズリの目は、優しく真っ直ぐルフィーナを見ていた。
「見せたいもの……とても気になりますわ」
ルフィーナはクスッと笑った。
「じゃあ俺と一緒に来てくれ。ここから少し離れた部屋だ。もちろん、宮殿の護衛や侍女を付けるから安心して欲しい」
真面目な表情のエヴグラフに、ルフィーナは安心感を覚えた。
「承知いたしました」
ルフィーナは柔らかな笑みで頷いた。
こうしてルフィーナは、エヴグラフと共に会場から離れるのであった。
ダンスが終わるとマカールは優しげな笑みでルフィーナを見つめていた。
「いえ、こちらこそよ」
ルフィーナは胸の騒つきをなかったことにして、いつものようにおっとりと微笑んだ。
その時、聞き覚えのある声が響く。
「ルフィーナお姉様!」
明るく鈴の音が鳴るような、溌剌とした声。リュドミラだ。
「ルフィーナお姉様、飲み物を持って来ましたの。ダンスが終わった後で喉が渇いているでしょう?」
リュドミラの手には、二つのグラス。シュワシュワとした苺のソーダである。
「ありがとう、リュダ。だけどまずはマカール様にご挨拶しないと」
ルフィーナは困ったように微笑み、リュドミラからグラスを受け取った。
「いや、ルフィーナ嬢。僕はこれで失礼するよ。リュドミラ・ユーリエヴナ嬢と話すと良い」
マカールはフッと優しげに微笑み、その場を去った。
「ようやくルフィーナお姉様と話せますわ」
「もう、リュダったら」
リュドミラからキラキラとしたムーンストーンの目を向けられては、ルフィーナは何も言えなくなる。
リュドミラから受け取った苺のソーダを一口飲むルフィーナ。苺の甘酸っぱさが口の中に広がり、炭酸が喉の奥でシュワシュワと弾けた。
「それでリュダ、サーシャとの結婚準備は順調?」
「ええ、もちろんですわ」
リュドミラはルフィーナからの問いに、頬を赤く染めながら頷く。
そこへ別の声が聞こえる。
「結婚式の日程も決まったからね」
アレクサンドルである。さりげなくアレクサンドルはリュドミラの腰を抱く。
「まあサーシャ、そうなのね」
ルフィーナはまるで自分のことのように嬉しそうである。
「ラスムスキー侯爵家の方からルフィーナにも結婚式の招待状を送るよ」
「サーシャとリュダの結婚式、楽しみにしているわ」
ルフィーナは穏やかに微笑んだ。
(サーシャとリュダの二人と話している時は、少し気が晴れるわね。だけど……やっぱり視線を感じるわ)
ルフィーナはほんの少しゾクリとした。
「ルフィーナお姉様……少し顔色が悪い気がしますが、大丈夫ですか?」
リュドミラは心配そうにルフィーナを見ている。
「何か気がかりなことでもあるのかい?」
アレクサンドルも心配そうな表情である。
(視線のことを話したら、きっとサーシャとリュダは力になってくれるわよね。……でも、サーシャとリュダは結婚の準備があるわ。サーシャもリュダも、結婚するのを楽しみにしている。今この二人に相談するタイミングではないかもしれないわ。もう少し落ち着いたらにしましょう)
ルフィーナはそう決意し、いつものようにおっとりと穏やかに微笑む。
「いいえ、何でもないのよ。強いて言えば、先程タラス・フォミチ様とトラブルになりかけたことかしら。マカール様に助けていただいたからもう大丈夫だけれど」
「タラス・フォミチ様との件、私も見ましたわ。私もすぐにルフィーナお姉様を助けたかったのですが」
リュドミラはやや悔しそうな表情である。
「マカール・クラーヴィエヴィチ殿に先越されてリュダはむくれていたよ」
アレクサンドルはそんなリュドミラを愛おしげに見つめていた。
視線は感じつつも、幼馴染二人と一緒にいると少しだけ心が落ち着くルフィーナだった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
しばらくすると、アレクサンドルとリュドミラがダンスを始めた。
よってルフィーナは壁際で休憩することにした。
(サーシャとリュダ、楽しそうね)
ルフィーナは二人を見て穏やかに微笑んでいた。
アレクサンドルはヘーゼルの目を愛おしげにリュドミラに向けている。
リュドミラはムーンストーンの目をキラキラと輝かせながらふわりと元気良く舞う。
お似合いだなとルフィーナは思っていた。
「ルフィーナ嬢」
その時、隣で低く凛とした声が聞こえた。
ルフィーナはハッとし、声の方向を見る。
「エヴグラフ・アレクセーヴィチ殿下……」
そこにいたのはエヴグラフだった。
公式の場なので、父称込みでエヴグラフの名前を呼ぶルフィーナである。
「驚かせてすまない」
エヴグラフは少し申し訳なさそうな表情である。
「いえ、こちらこそ、殿下に気付かず申し訳ございません」
ルフィーナはおずおずとした様子である。
「気にすることはない。それよりも、ルフィーナ嬢に見せたいものがあるんだ。来てもらえるだろうか?」
エヴグラフのラピスラズリの目は、優しく真っ直ぐルフィーナを見ていた。
「見せたいもの……とても気になりますわ」
ルフィーナはクスッと笑った。
「じゃあ俺と一緒に来てくれ。ここから少し離れた部屋だ。もちろん、宮殿の護衛や侍女を付けるから安心して欲しい」
真面目な表情のエヴグラフに、ルフィーナは安心感を覚えた。
「承知いたしました」
ルフィーナは柔らかな笑みで頷いた。
こうしてルフィーナは、エヴグラフと共に会場から離れるのであった。
14
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる