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宝石のような初恋
約束
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気温の変化に体がついていけなかったせいか、シンシアは再び風邪を引いてしまった。更には重度の喘息発作まで起こしている。
(シンシア……大丈夫かな? 寂しい思いしてるよね……)
ティモシーは他の子供達と昼食を取りながら、シンシアがいる医務室の方に目を向けた。
他の子供達に風邪が移るといけない。よっていつものように、シンシアへのお見舞いに医務室へ訪れることは先生達から禁止されている。
しかし、ティモシーは今回も先生達の目を掻い潜り、医務室に向かうつもりだ。
昼食を終え、自由時間になった。
ティモシーは他の子供達や先生達の目を欺き、シンシアがいる医務室へ向かおうとした。
その時だ。
「ティモシー、君に来客だ」
ターラント孤児院の院長のスコット・ターラントに呼び止められた。いつになく真剣な声のスコットである。
「スコット院長……僕に……ですか?」
いきなりのことで怪訝そうな表情になるティモシー。
「ああ。応接室でお待ちだ。私も立ち会うが……くれぐれも失礼のないように頼む」
重々しい口調のスコット。
「……分かりました」
普通の来客でないこと、そして嫌な予感がしたが、ティモシーは頷くことしか出来なかった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
応接室にいたのは、やたらと身なりの良い、アッシュブロンドの髪にエメラルドのような緑の目の男。誰が見ても一目でこの男が上流階級だと分かる。
「お待たせして申し訳ございません。ティモシーを連れて参りました」
緊張した面持ちのスコット。
ティモシーは目の前にいる上流階級の男を恐る恐るといった様子で見る。
男はエメラルドの目をスッと細め、冷たくティモシーを見下ろす。
「君がティモシーか」
値踏みをするような目でティモシーを見る男。
「……はい」
ティモシーは訝しむように頷く。
男は冷たいエメラルドの目で、ティモシーの顔をじっと観察する。
「……あの時見た通りだ。目の色は私と同じ。髪の色と顔のパーツは私が手を付けたあの女と似ているな」
満足げに口角を上げる男。しかし、エメラルドの目は冷たかった。
以前遊んでいたティモシー達を見ていたのはこの男だったのだ。
「私はドノヴァン・パーシヴァル・ションバーグ。ティモシー、君の父親だ。急遽君をションバーグ公爵家で引き取ることになった」
まるで決定事項のように言うドノヴァンと名乗った男。
ティモシーの頭の中は真っ白になった。
(僕の父親? 公爵家で引き取る?)
「何だ? 折角公爵家で引き取ってやると言っているのに、感謝の一つもないのか?」
ティモシーの反応に、眉を顰めるドノヴァン。
「申し訳ございません閣下! きっとティモシーは突然のことに驚いているだけでございますから!」
慌てて謝るのは院長であるスコット。
そこからはティモシーの意思とは関係なしに、ションバーグ公爵家に引き取られる手続きが始まった。
ティモシーはドノヴァンとションバーグ公爵家でメイドとして働いていた女性の間に出来た子供であった。ティモシーの実母は一応上流階級ではあるが、没落したジェントリの家の娘であった。彼女は家の為にションバーグ公爵家のメイドになった。その際ドノヴァンのお手付きになり、ティモシーを身籠ったのだ。しかし妊娠が発覚するとションバーグ公爵家を解雇され、劣悪な環境でお針子として働くしかなくなった。その後ティモシーを生んで育てていたが、彼が四歳になる年に流行病で亡くなってしまうのである。
そして今ドノヴァンがティモシーを引き取りに来た理由は、ションバーグ公爵家の次男が病気で亡くなったから。次男は長男にもしものことが起こった際のスペアである。現在次男を失ったションバーグ公爵家は、新たなスペアが必要になった。そこでドノヴァンは自分が手を出したメイドの女性とティモシーのことを思い出したのである。
(そんな……僕がションバーグ公爵家に引き取られるなんて……。シンシアと離れ離れになるだなんて……)
有無を言わさずドノヴァンの身勝手な理由でションバーグ公爵家に引き取られることになったティモシー。すなわちそれはシンシアとの別れを意味する。
ティモシーのエメラルドの目は絶望に染まった。
しかし、ティモシーに拒否権などない。
身支度の時間が与えられたティモシー。先生達の目を盗み、迷わずシンシアのいる医務室へ向かった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
医務室では、シンシアが苦しそうにうなされていた。
(寒い……苦しい……助けて……)
熱でぼんやりするなか、シンシアは心細かった。
その時、気配を感じたのでゆっくりとその方向を見る。
エメラルドの目が切なげにシンシアを見つめていた。
「ティム……!」
そこにいたのはティモシー。
シンシアはティモシーの姿を見ると、少しだけ体が楽になったように感じた。
熱と喘息で苦しい中、ほんのり表情を綻ばせるシンシア。
「シンシア……」
切なげな声を出すティモシー。
「今回も来てくれて嬉しいわ」
シンシアはゆっくりとティモシーに手を伸ばす。
ティモシーはシンシアの細く小さな青白い手を優しく握る。
「私ね……ティムの声を聞くと……落ち着くの。ティムは優しい話し方をするから、安心するわ」
浅くゼエゼエと苦しそうだが、シンシアのアメジストの目は嬉しそうである。
その言葉を聞き、ティモシーは昔の記憶が蘇る。
それはティモシーが五歳になり、シンシアがターラント孤児院にきたばかりの頃。
ターラント孤児院には労働者階級や下位中産階級の子供達がほとんどであり、上流階級に近い発音で話すティモシーは子供達の中でも浮いていた。
そのことで当時ガキ大将だったカイルに揶揄われたりするなど、やや孤立していたティモシー。そんな中、シンシアはこう言ったのだ。
『私、ティムの優しい話し方、好きよ。何だか聞いていて安心するの。だから、ティムは変わらなくて良いわ』
シンシアはその時、とびきりの笑顔であった。
(そうだ……。きっと僕はあの時からシンシアのことが……)
ティモシーのエメラルドの目は、真っ直ぐシンシアのアメジストの目を見つめる。
「シンシア……僕はお貴族様の家に引き取られることになったんだ」
「え……?」
それを聞いたシンシアは不安そうな表情になる。
「じゃあ……ティムはここからいなくなっちゃうの?」
弱々しい声のシンシア。
「うん。行かないといけないんだ。本当はずっとここに……シンシアの側にいたかったけれど……」
ティモシーはシンシアの手を握る力を強めた。
「そんな……」
不安げで泣きそうな表情になるシンシア。
「シンシア……僕は君が好きだ。大好きだ」
エメラルドの目はどこまでも強く真っ直ぐである。
「ティム……! 私も、ティムが好き。大好きよ」
シンシアはアメジストの目を潤ませる。
「シンシア、僕はここから出ないといけない。だけど……大きくなったら必ず君を迎えに行く。だから、待っていてくれる?」
ティモシーのエメラルドの目は真剣である。
「うん。……私、ティムのことをずっと待っているわ」
シンシアは泣きそうになりながら微笑んだ。アメジストの目から涙が零れ落ちる。
ティモシーはシンシアの涙を優しく手で拭った。
「ありがとう。必ず迎えに行く。約束だ」
ティモシーはシンシアの額にキスをした。
「ティム……約束……よ」
シンシアは嬉しそうにアメジストの目を細め、そのまま眠りについた。
(絶対にシンシアを迎えに行く。このまま離れ離れになってたまるか)
ティモシーは強く決意した。
エメラルドの目は、どこまでも強く真っ直ぐであった。
(シンシア……大丈夫かな? 寂しい思いしてるよね……)
ティモシーは他の子供達と昼食を取りながら、シンシアがいる医務室の方に目を向けた。
他の子供達に風邪が移るといけない。よっていつものように、シンシアへのお見舞いに医務室へ訪れることは先生達から禁止されている。
しかし、ティモシーは今回も先生達の目を掻い潜り、医務室に向かうつもりだ。
昼食を終え、自由時間になった。
ティモシーは他の子供達や先生達の目を欺き、シンシアがいる医務室へ向かおうとした。
その時だ。
「ティモシー、君に来客だ」
ターラント孤児院の院長のスコット・ターラントに呼び止められた。いつになく真剣な声のスコットである。
「スコット院長……僕に……ですか?」
いきなりのことで怪訝そうな表情になるティモシー。
「ああ。応接室でお待ちだ。私も立ち会うが……くれぐれも失礼のないように頼む」
重々しい口調のスコット。
「……分かりました」
普通の来客でないこと、そして嫌な予感がしたが、ティモシーは頷くことしか出来なかった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
応接室にいたのは、やたらと身なりの良い、アッシュブロンドの髪にエメラルドのような緑の目の男。誰が見ても一目でこの男が上流階級だと分かる。
「お待たせして申し訳ございません。ティモシーを連れて参りました」
緊張した面持ちのスコット。
ティモシーは目の前にいる上流階級の男を恐る恐るといった様子で見る。
男はエメラルドの目をスッと細め、冷たくティモシーを見下ろす。
「君がティモシーか」
値踏みをするような目でティモシーを見る男。
「……はい」
ティモシーは訝しむように頷く。
男は冷たいエメラルドの目で、ティモシーの顔をじっと観察する。
「……あの時見た通りだ。目の色は私と同じ。髪の色と顔のパーツは私が手を付けたあの女と似ているな」
満足げに口角を上げる男。しかし、エメラルドの目は冷たかった。
以前遊んでいたティモシー達を見ていたのはこの男だったのだ。
「私はドノヴァン・パーシヴァル・ションバーグ。ティモシー、君の父親だ。急遽君をションバーグ公爵家で引き取ることになった」
まるで決定事項のように言うドノヴァンと名乗った男。
ティモシーの頭の中は真っ白になった。
(僕の父親? 公爵家で引き取る?)
「何だ? 折角公爵家で引き取ってやると言っているのに、感謝の一つもないのか?」
ティモシーの反応に、眉を顰めるドノヴァン。
「申し訳ございません閣下! きっとティモシーは突然のことに驚いているだけでございますから!」
慌てて謝るのは院長であるスコット。
そこからはティモシーの意思とは関係なしに、ションバーグ公爵家に引き取られる手続きが始まった。
ティモシーはドノヴァンとションバーグ公爵家でメイドとして働いていた女性の間に出来た子供であった。ティモシーの実母は一応上流階級ではあるが、没落したジェントリの家の娘であった。彼女は家の為にションバーグ公爵家のメイドになった。その際ドノヴァンのお手付きになり、ティモシーを身籠ったのだ。しかし妊娠が発覚するとションバーグ公爵家を解雇され、劣悪な環境でお針子として働くしかなくなった。その後ティモシーを生んで育てていたが、彼が四歳になる年に流行病で亡くなってしまうのである。
そして今ドノヴァンがティモシーを引き取りに来た理由は、ションバーグ公爵家の次男が病気で亡くなったから。次男は長男にもしものことが起こった際のスペアである。現在次男を失ったションバーグ公爵家は、新たなスペアが必要になった。そこでドノヴァンは自分が手を出したメイドの女性とティモシーのことを思い出したのである。
(そんな……僕がションバーグ公爵家に引き取られるなんて……。シンシアと離れ離れになるだなんて……)
有無を言わさずドノヴァンの身勝手な理由でションバーグ公爵家に引き取られることになったティモシー。すなわちそれはシンシアとの別れを意味する。
ティモシーのエメラルドの目は絶望に染まった。
しかし、ティモシーに拒否権などない。
身支度の時間が与えられたティモシー。先生達の目を盗み、迷わずシンシアのいる医務室へ向かった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
医務室では、シンシアが苦しそうにうなされていた。
(寒い……苦しい……助けて……)
熱でぼんやりするなか、シンシアは心細かった。
その時、気配を感じたのでゆっくりとその方向を見る。
エメラルドの目が切なげにシンシアを見つめていた。
「ティム……!」
そこにいたのはティモシー。
シンシアはティモシーの姿を見ると、少しだけ体が楽になったように感じた。
熱と喘息で苦しい中、ほんのり表情を綻ばせるシンシア。
「シンシア……」
切なげな声を出すティモシー。
「今回も来てくれて嬉しいわ」
シンシアはゆっくりとティモシーに手を伸ばす。
ティモシーはシンシアの細く小さな青白い手を優しく握る。
「私ね……ティムの声を聞くと……落ち着くの。ティムは優しい話し方をするから、安心するわ」
浅くゼエゼエと苦しそうだが、シンシアのアメジストの目は嬉しそうである。
その言葉を聞き、ティモシーは昔の記憶が蘇る。
それはティモシーが五歳になり、シンシアがターラント孤児院にきたばかりの頃。
ターラント孤児院には労働者階級や下位中産階級の子供達がほとんどであり、上流階級に近い発音で話すティモシーは子供達の中でも浮いていた。
そのことで当時ガキ大将だったカイルに揶揄われたりするなど、やや孤立していたティモシー。そんな中、シンシアはこう言ったのだ。
『私、ティムの優しい話し方、好きよ。何だか聞いていて安心するの。だから、ティムは変わらなくて良いわ』
シンシアはその時、とびきりの笑顔であった。
(そうだ……。きっと僕はあの時からシンシアのことが……)
ティモシーのエメラルドの目は、真っ直ぐシンシアのアメジストの目を見つめる。
「シンシア……僕はお貴族様の家に引き取られることになったんだ」
「え……?」
それを聞いたシンシアは不安そうな表情になる。
「じゃあ……ティムはここからいなくなっちゃうの?」
弱々しい声のシンシア。
「うん。行かないといけないんだ。本当はずっとここに……シンシアの側にいたかったけれど……」
ティモシーはシンシアの手を握る力を強めた。
「そんな……」
不安げで泣きそうな表情になるシンシア。
「シンシア……僕は君が好きだ。大好きだ」
エメラルドの目はどこまでも強く真っ直ぐである。
「ティム……! 私も、ティムが好き。大好きよ」
シンシアはアメジストの目を潤ませる。
「シンシア、僕はここから出ないといけない。だけど……大きくなったら必ず君を迎えに行く。だから、待っていてくれる?」
ティモシーのエメラルドの目は真剣である。
「うん。……私、ティムのことをずっと待っているわ」
シンシアは泣きそうになりながら微笑んだ。アメジストの目から涙が零れ落ちる。
ティモシーはシンシアの涙を優しく手で拭った。
「ありがとう。必ず迎えに行く。約束だ」
ティモシーはシンシアの額にキスをした。
「ティム……約束……よ」
シンシアは嬉しそうにアメジストの目を細め、そのまま眠りについた。
(絶対にシンシアを迎えに行く。このまま離れ離れになってたまるか)
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エメラルドの目は、どこまでも強く真っ直ぐであった。
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