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宝石のような初恋
見知らぬ老紳士
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「シンシア、いきなりお爺さん呼びは失礼だぞ」
「いや、構わん。私もこの子に何者か名乗っておらぬのだから」
慌ててシンシアを窘めるスコット。しかし老紳士は全く気にした様子はなく笑っている。
老紳士は上流階級の者と同じような、上品な発音のネンガルド語を話す。しかし、どこか独特の訛りがあった。
シンシアはその話し方を聞いたことがあり、どことなく安心感を覚えた。
「お爺さん……ママと同じ話し方ね」
微かに表情を綻ばせるシンシア。
すると老紳士は眼鏡の奥のアメジストの目をどこか懐かしげに優しく細める。
「そうか。お前さんの母親と同じか。私はオラース。オラース・エドモン・ド・モンベリアルだ」
「……何だか少し変な名前ね」
シンシアはクスッと笑う。
「シンシア、失礼だぞ」
「構わん構わん」
再び慌ててシンシアを窘めるスコットだが、オラースと名乗った老紳士は全く気にした様子はない。
「確かに変な名前かもしれぬな。ネンガルド王国では私の名前はホレス・エドマンド・ド・モンベリアルと発音する」
「それなら……変じゃないわ。苗字は不思議な感じだけれど」
シンシアは少しだけ楽しそうにアメジストの目を細め微笑んだ。
「シンシア、このお方はナルフェック王国のモンベリアル伯爵家のお方だ」
「……伯爵家? お貴族様なの?」
スコットにそう言われ、シンシアはまじまじとオラースを見つめる。
「ああ、そうだ。当主の座はもう引退したがな。そしてシンシア、私はお前さんの母親の父親……つまり、お前さんの祖父だ」
オラースの眼鏡の奥から覗くアメジストの目は、優しくシンシアを見つめていた。
「祖父……私のお祖父ちゃんってこと?」
きょとんとするシンシア。
「その通りだ。シンシア……お前さんは……マリルーにそっくりだ。髪の色は父親似だな」
優しく懐かしむようにシンシアを見つめるオラース。アメジストの目には、どこか後悔のようなものも感じられた。
「マリルー……ママの名前だわ」
懐かしい母親の名前を聞き、シンシアはどこかホッとした気持ちになっていた。
オラースのアメジストの目は、どこかシンシアに似ていた。
シンシアの母マリルーは、ナルフェック王国のモンベリアル伯爵家の一人娘だった。モンベリアル伯爵家の跡継ぎでもあり、家同士の繋がりの為に政略結婚しなければならない身でもあったのだ。しかし、マリルーは交流のある家で雇われていた庭師見習いと恋仲になった。父親であり、当時モンベリアル伯爵家当主だったオラースはそれを許しておくことは出来ずにマリルーと庭師見習いの仲を無理矢理引き裂こうとした。それに反発したマリルーはモンベリアル伯爵家を出て行ってしまう。オラースは数日経てば戻ってくるだろうとたかを括っていたが、マリルーはそのまま庭師見習いと駆け落ちして二度と戻って来なかったのだ。そして海を挟んだ隣国であるネンガルド王国まで辿り着いたマリルー達。その間に生まれたのがシンシアである。
一方オラースは戻って来なかったマリルーのことは諦め、甥を引き取ってモンベリアル伯爵家の次期当主として教育した。そしてつい最近当主の座を甥に譲ったそうだ。
少しだけ時間に余裕が出来たオラース。そんな中、オラースの妻が病気になり倒れてしまう。その時に妻から「せめて死ぬまでにはもう一度で良いからマリルーに会いたい」と言われた。そこでオラースは蓋をしていた後悔が心の底から溢れ出す。娘であるマリルーとあの時ちゃんと話をしていれば良かったと。
こうしてオラースはマリルーの行方を探し始めた。そしてネンガルド王国にいる情報を掴み、ナルフェック王国から渡って来たのだ。しかしマリルーと庭師見習いは七年前、シンシアが四歳になる年に事故で亡くなっていた。それを知ったオラースは意気消沈するが、マリルーの忘形見であるシンシアの存在を知る。そして今オラースはシンシアに会いにターラント孤児院まで来たのである。
「シンシア、私はお前さんをモンベリアル伯爵家で引き取りたいと思っている。もちろん、お前さんが望めばだが」
オラースの眼鏡の奥から覗くアメジストの目は真っ直ぐシンシアを見つめている。
その目はシンシアにとってどこか安心感があった。
「私をモンベリアル伯爵家で……? でもそれって私は海を渡ってナルフェック王国に行くことになるのよね……。ティムに会えなくなっちゃう……。迎えに来てくれるって約束もしたのに……」
しかしシンシアはティモシーに会いたいという気持ちが強かった。
「ティム? それはお前さんの友達かい?」
オラースは首を傾げる。
するとその問いには院長であるスコットが答える。
「ティム……ティモシーはシンシアと仲が良かった男の子ですよ。彼女とは同い年でしてね。でも、去年公爵家の庶子だと判明して引き取られたんですよ」
「ほう……」
オラースは少し考え込む。
「シンシア、お前さんはそのティモシー……という子にまた会いたいんだな?」
オラースの言葉にシンシアはコクリと頷く。
「そうか……」
その時、シンシアは大きく咳き込む。喘息の発作である。
「シンシア、薬だ。吸入しなさい」
シンシアはスコットから渡された吸入薬で何とか発作を落ち着けることが出来た。
「シンシア、お前さんは重い喘息のようだな。マリルーもそうだった」
オラースは懐かしむように呟く。そして言葉を続ける。
「ナルフェック王国は医療が発達している。お前さんの喘息もほとんど発作が起きないくらいまで治療することが出来る。お前さんの友達……ティモシーもきっとお前さんが喘息だということは知っているだろう?」
オラースはティモシーの名前を発音しにくそうであった。
シンシアはコクリと頷く。
「ならば、ナルフェック王国で喘息を治してティモシーに会いに行きなさい。きっと元気になったお前さんを見たら彼も驚くだろう」
優しく笑うオラース。
するとシンシアはアメジストの目を輝かせる。
「そうね。私が元気になった姿を見せたらティムもきっとびっくりするわ」
楽しそうに笑うシンシア。そして少し悲しげな表情でスコットを見る。
「スコット院長、私がモンベリアル伯爵家に引き取られたら、もう医療費に困ることはない? 他のみんなの食費、削らなくて済む? 私がいなくなった方が……」
するとスコットは目を大きく見開く。
「シンシア、昨日の先生達との会話を聞いていたんだね……」
シンシアはコクリと頷いた。
「院長、気持ちは分かるが、子供が聞いているかもしれないから会話には気を付けるべきだったな」
困ったように苦笑し、オラースはポンと軽くスコットの肩を叩いた。
「すまない、シンシア。君にいなくなって欲しいとは思っていないさ」
「うん。いいの。私、モンベリアル伯爵家に行くわ。それに、喘息の治療をして元気になった姿をティムに見せたい」
シンシアのアメジストの目は希望に溢れていた。
「そうか。お前さんの好きにしたら良い」
オラースは嬉しそうにアメジストの目を細め、優しくシンシアの頭を撫でた。
こうして、シンシアはナルフェック王国のモンベリアル伯爵家に引き取られることになった。
(ティム、元気になって絶対に貴方に会いに行くわ!)
アメジストの目はキラキラと輝いていた。
海を挟み、国境を越えて離れ離れになってしまったシンシアとティモシー。果たして彼らは再会を果たすことが出来るのだろうか。
「いや、構わん。私もこの子に何者か名乗っておらぬのだから」
慌ててシンシアを窘めるスコット。しかし老紳士は全く気にした様子はなく笑っている。
老紳士は上流階級の者と同じような、上品な発音のネンガルド語を話す。しかし、どこか独特の訛りがあった。
シンシアはその話し方を聞いたことがあり、どことなく安心感を覚えた。
「お爺さん……ママと同じ話し方ね」
微かに表情を綻ばせるシンシア。
すると老紳士は眼鏡の奥のアメジストの目をどこか懐かしげに優しく細める。
「そうか。お前さんの母親と同じか。私はオラース。オラース・エドモン・ド・モンベリアルだ」
「……何だか少し変な名前ね」
シンシアはクスッと笑う。
「シンシア、失礼だぞ」
「構わん構わん」
再び慌ててシンシアを窘めるスコットだが、オラースと名乗った老紳士は全く気にした様子はない。
「確かに変な名前かもしれぬな。ネンガルド王国では私の名前はホレス・エドマンド・ド・モンベリアルと発音する」
「それなら……変じゃないわ。苗字は不思議な感じだけれど」
シンシアは少しだけ楽しそうにアメジストの目を細め微笑んだ。
「シンシア、このお方はナルフェック王国のモンベリアル伯爵家のお方だ」
「……伯爵家? お貴族様なの?」
スコットにそう言われ、シンシアはまじまじとオラースを見つめる。
「ああ、そうだ。当主の座はもう引退したがな。そしてシンシア、私はお前さんの母親の父親……つまり、お前さんの祖父だ」
オラースの眼鏡の奥から覗くアメジストの目は、優しくシンシアを見つめていた。
「祖父……私のお祖父ちゃんってこと?」
きょとんとするシンシア。
「その通りだ。シンシア……お前さんは……マリルーにそっくりだ。髪の色は父親似だな」
優しく懐かしむようにシンシアを見つめるオラース。アメジストの目には、どこか後悔のようなものも感じられた。
「マリルー……ママの名前だわ」
懐かしい母親の名前を聞き、シンシアはどこかホッとした気持ちになっていた。
オラースのアメジストの目は、どこかシンシアに似ていた。
シンシアの母マリルーは、ナルフェック王国のモンベリアル伯爵家の一人娘だった。モンベリアル伯爵家の跡継ぎでもあり、家同士の繋がりの為に政略結婚しなければならない身でもあったのだ。しかし、マリルーは交流のある家で雇われていた庭師見習いと恋仲になった。父親であり、当時モンベリアル伯爵家当主だったオラースはそれを許しておくことは出来ずにマリルーと庭師見習いの仲を無理矢理引き裂こうとした。それに反発したマリルーはモンベリアル伯爵家を出て行ってしまう。オラースは数日経てば戻ってくるだろうとたかを括っていたが、マリルーはそのまま庭師見習いと駆け落ちして二度と戻って来なかったのだ。そして海を挟んだ隣国であるネンガルド王国まで辿り着いたマリルー達。その間に生まれたのがシンシアである。
一方オラースは戻って来なかったマリルーのことは諦め、甥を引き取ってモンベリアル伯爵家の次期当主として教育した。そしてつい最近当主の座を甥に譲ったそうだ。
少しだけ時間に余裕が出来たオラース。そんな中、オラースの妻が病気になり倒れてしまう。その時に妻から「せめて死ぬまでにはもう一度で良いからマリルーに会いたい」と言われた。そこでオラースは蓋をしていた後悔が心の底から溢れ出す。娘であるマリルーとあの時ちゃんと話をしていれば良かったと。
こうしてオラースはマリルーの行方を探し始めた。そしてネンガルド王国にいる情報を掴み、ナルフェック王国から渡って来たのだ。しかしマリルーと庭師見習いは七年前、シンシアが四歳になる年に事故で亡くなっていた。それを知ったオラースは意気消沈するが、マリルーの忘形見であるシンシアの存在を知る。そして今オラースはシンシアに会いにターラント孤児院まで来たのである。
「シンシア、私はお前さんをモンベリアル伯爵家で引き取りたいと思っている。もちろん、お前さんが望めばだが」
オラースの眼鏡の奥から覗くアメジストの目は真っ直ぐシンシアを見つめている。
その目はシンシアにとってどこか安心感があった。
「私をモンベリアル伯爵家で……? でもそれって私は海を渡ってナルフェック王国に行くことになるのよね……。ティムに会えなくなっちゃう……。迎えに来てくれるって約束もしたのに……」
しかしシンシアはティモシーに会いたいという気持ちが強かった。
「ティム? それはお前さんの友達かい?」
オラースは首を傾げる。
するとその問いには院長であるスコットが答える。
「ティム……ティモシーはシンシアと仲が良かった男の子ですよ。彼女とは同い年でしてね。でも、去年公爵家の庶子だと判明して引き取られたんですよ」
「ほう……」
オラースは少し考え込む。
「シンシア、お前さんはそのティモシー……という子にまた会いたいんだな?」
オラースの言葉にシンシアはコクリと頷く。
「そうか……」
その時、シンシアは大きく咳き込む。喘息の発作である。
「シンシア、薬だ。吸入しなさい」
シンシアはスコットから渡された吸入薬で何とか発作を落ち着けることが出来た。
「シンシア、お前さんは重い喘息のようだな。マリルーもそうだった」
オラースは懐かしむように呟く。そして言葉を続ける。
「ナルフェック王国は医療が発達している。お前さんの喘息もほとんど発作が起きないくらいまで治療することが出来る。お前さんの友達……ティモシーもきっとお前さんが喘息だということは知っているだろう?」
オラースはティモシーの名前を発音しにくそうであった。
シンシアはコクリと頷く。
「ならば、ナルフェック王国で喘息を治してティモシーに会いに行きなさい。きっと元気になったお前さんを見たら彼も驚くだろう」
優しく笑うオラース。
するとシンシアはアメジストの目を輝かせる。
「そうね。私が元気になった姿を見せたらティムもきっとびっくりするわ」
楽しそうに笑うシンシア。そして少し悲しげな表情でスコットを見る。
「スコット院長、私がモンベリアル伯爵家に引き取られたら、もう医療費に困ることはない? 他のみんなの食費、削らなくて済む? 私がいなくなった方が……」
するとスコットは目を大きく見開く。
「シンシア、昨日の先生達との会話を聞いていたんだね……」
シンシアはコクリと頷いた。
「院長、気持ちは分かるが、子供が聞いているかもしれないから会話には気を付けるべきだったな」
困ったように苦笑し、オラースはポンと軽くスコットの肩を叩いた。
「すまない、シンシア。君にいなくなって欲しいとは思っていないさ」
「うん。いいの。私、モンベリアル伯爵家に行くわ。それに、喘息の治療をして元気になった姿をティムに見せたい」
シンシアのアメジストの目は希望に溢れていた。
「そうか。お前さんの好きにしたら良い」
オラースは嬉しそうにアメジストの目を細め、優しくシンシアの頭を撫でた。
こうして、シンシアはナルフェック王国のモンベリアル伯爵家に引き取られることになった。
(ティム、元気になって絶対に貴方に会いに行くわ!)
アメジストの目はキラキラと輝いていた。
海を挟み、国境を越えて離れ離れになってしまったシンシアとティモシー。果たして彼らは再会を果たすことが出来るのだろうか。
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