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ゼーラント伯爵家の姉妹
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ドレンダレン王国王都マドレスタムにある、ゼーラント伯爵家の王都の屋敷にて。
「イリス、よく似合っているわ」
「ありがとうございます、リンデお姉様」
姉のリンデに褒められて、イリスは思わず頬を赤く染めた。
今年十五歳になるイリス・パウリーナ・ファン・ゼーラントは、ゼーラント伯爵家の次女として生まれた。
真っ直ぐ伸びた艶やかなブロンドの髪は編み込まれ、花が咲いたようなハーフアップになっている。
パチパチと、アメジストのような紫の目を瞬きするイリス。ほんのりと化粧も施してもらい、イリスは少しだけ大人になった気分である。
そして侍女達に手伝ってもらいながら着替えた、淡いピンクのAラインドレス。
「お姉様、晩餐会、緊張しますわ」
「大丈夫よ、イリス。今回の晩餐会、主催は私の婚約者ニールスの家、つまりラノワ伯爵家なのよ。だからそこまで緊張しなくても大丈夫。ラノワ伯爵家の晩餐会だからこそ、お父様とお母様は私達だけでの参加を認めてくださるのだし」
リンデはニッと明るい笑みをイリスに向けてくれた。
リンデ・ヘンドリカ・ファン・ゼーラント。イリスより二つ年上の姉で、ゼーラント伯爵家長女。リンデはゼーラント伯爵家を継ぐ立場にある。
イリスと同じ、艶やかで真っ直ぐ伸びたブロンドの髪は、シニョンにまとめられている。そして、イリスと同じアメジストのような紫の目。
イリスとリンデ、同じ親を持つ血の繋がった姉妹だが、顔立ちはあまり似ていない。
リンデは凛として美しく、大人びた顔立ちだ。おまけにスラリと背も高い。一方イリスは背丈が低くやや幼さが残り、美しいと言うよりも可愛らしいという言葉が似合う顔立ち。
(お姉様みたいに大人っぽい美人になりたかったわ)
イリスは姉のリンデが少し羨ましかった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
イリスはリンデに連れられ、ラノワ伯爵家の王都の屋敷までやって来た。
ゼーラント伯爵家の馬車を降りる時からイリスは少し緊張している。
「リンデお姉様、何か不作法をしてしまったら申し訳ございません」
イリスはガチガチの状態だった。
「もうイリス、心配し過ぎよ。この前の成人の儀できちんと出来たのだから、きっと大丈夫」
ドレンダレン王国の貴族令嬢は、十五歳になる年に王宮で開催される成人の儀に出席して社交界デビューをする。
「イリスはまだ社交界デビューしたばかりだから、ラノワ伯爵家みたいな付き合いのある家の夜会や晩餐会、それからサロンに少しずつ参加して慣れていけば良いのよ。それに、何かあったら私が絶対に守ってあげるわ」
「お姉様……」
リンデの頼もしい笑みに、イリスはホッと胸を撫で下ろす。
(私、いつもお姉様に守られてばかりね)
昔から、イリスはゼーラント伯爵家でリンデから守られて生きてきた。
リンデがいるとホッと安心する反面、いつまでもリンデに頼りきりなのは少しだけ申し訳なく感じるイリスであった。
「リンデ、イリス嬢」
不意に名前を呼ばれ、イリスは背筋をピンと伸ばす。
声の主を見たリンデは表情を柔らかくした。
「ニールス」
「ようこそ、我が家の晩餐会へ」
朗らかな声の男性だ。夜風に彼の栗毛色の癖のない髪がなびいている。ムーンストーンのようなグレーの目は優しげで、柔和な顔立ちである。
彼はニールス・ファーレンテイン・ファン・ラノワ。今年十八歳になるラノワ伯爵家の三男で、リンデの婚約者だ。
ニールスはゼーラント伯爵家に婿入りする立場である。
「こちらこそ、お招きありがとう。ニールス」
「ご招待いただきありがとうございます、ニールス卿」
リンデに続き、少し慌てた様子でお礼を述べるイリスである。
「ああ。さあ、リンデもイリス嬢も、中に入って楽しんで」
ニールスに言われ、イリスはリンデと共にラノワ伯爵家の王都の屋敷に入るのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
晩餐会ではサラダとスープ、そして牛肉を甘酸っぱいソースで煮込んだメイン料理が運ばれて来た。
イリスはゼーラント伯爵家で家庭教師から習った通りのマナーでメイン料理を食べる。
(美味しい……! 牛肉は柔らかくて、甘酸っぱいソースとよく絡んでいるわ)
料理の美味しさで、イリスの緊張は少しだけ解れていた。
「そう言えばこの前、ヴィルヘルミナ女王陛下ご懐妊のニュースがありましたわよね」
晩餐会に来ていた一人の婦人がそう話を切り出した。
「ええ、本当にめでたいことですわ。それに、ヴィルヘルミナ女王陛下達が革命を起こして、今までこのドレンダレン王国を支配していたベンティンク悪徳王家を処刑してくれたから、国が穏やかになりましたわ」
また別の婦人がそう口にする。
(ベンティンク悪徳王家……)
イリスは食べながら婦人達の話に耳を傾ける。
「革命が起こったのは一年程前でしたね。あの時、このドレンダレン王国の正当な王家の血を引くヴィルヘルミナ女王陛下の存在が分かり、どれだけ皆安堵したことか」
(そうよね。去年までドレンダレン王国は、ベンティンク悪徳王家が支配していた。厳しい言論統制、ベンティンク家に逆らう者達は非人道的な拷問を受けた末、処刑。淀んだ国だったわ)
イリスは表情を曇らせる。
「そう言えば、ラノワ伯爵家とゼーラント伯爵家の方々は、革命推進派として活躍なさったとか?」
「あ……」
突然家の話を振られ、イリスはピクリと肩を震わせた。
「ええ、父と母は元々ベンティンク家のやり方に反対しておりましたので」
リンデは何てことないかのようにスラスラと答えている。
「僕の両親もです。それに、リンデのゼーラント伯爵家とはその件で前から協力体制を結んでいましたから」
リンデの隣に座るニールスもそう答えた。
二人は顔を見合わせて微笑んでいた。
(私もお姉様みたいに話を振られてすぐに答えられるようになりたいわ)
イリスは少し恥ずかしくなりながら肩をすくめていた。
その時、デザートのアップルタルトが運ばれて来た。
(それにしても……)
イリスは周囲を見渡す。
晩餐会に参加している者達は、誰もが明るい表情をしていた。
(去年まではこんな風になるなんて、誰も思わなかったでしょうね。まだベンティンク悪徳王家に支配されていた時期だったから。それに、ヴィルヘルミナ女王陛下がまさかドレンダレン王国の正当な王家……ナッサウ王家のお方だなんて思わなかったわ。生まれてすぐ秘密裏にエフモント公爵家に逃がされていたと聞いたけれど)
イリスが生まれた時、ドレンダレン王国は既にベンティンク家によるクーデターで国が乗っ取られている状態だった。
各地に秘密警察が配置され、自分たちの会話が誰に聞かれているか分からない状況。少しでもベンティンク家に逆らえば、拷問の末に処刑されてしまう。処刑ではなくとも、国中あちこちで誰かが殺されていることが日常茶飯事だった。
そんな状況だったので、革命によりドレンダレン王国を取り戻そうとしていたイリスの両親は当然ながら死と隣り合わせだったのだ。
自分達がベンティンク家に処刑されても、イリスとリンデだけは守る手段も立てていたらしい。
イリスはチラリとリンデの方に目を向ける。
リンデはニールスと談笑していたが、イリスの視線に気付き、ニコリと微笑んでくれる。
「イリス、どうかしたの?」
「あ、いえ、お姉様」
イリスは少し慌ててアップルタルトを食べる。
りんごの甘酸っぱさとシナモンの香りが口の中に広がった。
(リンデお姉様は、お父様とお母様にもしものことがあった場合も考えて私を守ろうとしてくれているのよね)
イリスはアップルタルトをもう一口食べる。
(でも、いずれ私はゼーラント伯爵家を出てどこかに嫁がなければならない身。いつまでもリンデお姉様に守ってもらうのではなく、自分の身は自分で守らないと。しっかりしないといけないわね)
テーブルの下で拳を握り、そう決意するイリスだった。
「イリス、よく似合っているわ」
「ありがとうございます、リンデお姉様」
姉のリンデに褒められて、イリスは思わず頬を赤く染めた。
今年十五歳になるイリス・パウリーナ・ファン・ゼーラントは、ゼーラント伯爵家の次女として生まれた。
真っ直ぐ伸びた艶やかなブロンドの髪は編み込まれ、花が咲いたようなハーフアップになっている。
パチパチと、アメジストのような紫の目を瞬きするイリス。ほんのりと化粧も施してもらい、イリスは少しだけ大人になった気分である。
そして侍女達に手伝ってもらいながら着替えた、淡いピンクのAラインドレス。
「お姉様、晩餐会、緊張しますわ」
「大丈夫よ、イリス。今回の晩餐会、主催は私の婚約者ニールスの家、つまりラノワ伯爵家なのよ。だからそこまで緊張しなくても大丈夫。ラノワ伯爵家の晩餐会だからこそ、お父様とお母様は私達だけでの参加を認めてくださるのだし」
リンデはニッと明るい笑みをイリスに向けてくれた。
リンデ・ヘンドリカ・ファン・ゼーラント。イリスより二つ年上の姉で、ゼーラント伯爵家長女。リンデはゼーラント伯爵家を継ぐ立場にある。
イリスと同じ、艶やかで真っ直ぐ伸びたブロンドの髪は、シニョンにまとめられている。そして、イリスと同じアメジストのような紫の目。
イリスとリンデ、同じ親を持つ血の繋がった姉妹だが、顔立ちはあまり似ていない。
リンデは凛として美しく、大人びた顔立ちだ。おまけにスラリと背も高い。一方イリスは背丈が低くやや幼さが残り、美しいと言うよりも可愛らしいという言葉が似合う顔立ち。
(お姉様みたいに大人っぽい美人になりたかったわ)
イリスは姉のリンデが少し羨ましかった。
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イリスはリンデに連れられ、ラノワ伯爵家の王都の屋敷までやって来た。
ゼーラント伯爵家の馬車を降りる時からイリスは少し緊張している。
「リンデお姉様、何か不作法をしてしまったら申し訳ございません」
イリスはガチガチの状態だった。
「もうイリス、心配し過ぎよ。この前の成人の儀できちんと出来たのだから、きっと大丈夫」
ドレンダレン王国の貴族令嬢は、十五歳になる年に王宮で開催される成人の儀に出席して社交界デビューをする。
「イリスはまだ社交界デビューしたばかりだから、ラノワ伯爵家みたいな付き合いのある家の夜会や晩餐会、それからサロンに少しずつ参加して慣れていけば良いのよ。それに、何かあったら私が絶対に守ってあげるわ」
「お姉様……」
リンデの頼もしい笑みに、イリスはホッと胸を撫で下ろす。
(私、いつもお姉様に守られてばかりね)
昔から、イリスはゼーラント伯爵家でリンデから守られて生きてきた。
リンデがいるとホッと安心する反面、いつまでもリンデに頼りきりなのは少しだけ申し訳なく感じるイリスであった。
「リンデ、イリス嬢」
不意に名前を呼ばれ、イリスは背筋をピンと伸ばす。
声の主を見たリンデは表情を柔らかくした。
「ニールス」
「ようこそ、我が家の晩餐会へ」
朗らかな声の男性だ。夜風に彼の栗毛色の癖のない髪がなびいている。ムーンストーンのようなグレーの目は優しげで、柔和な顔立ちである。
彼はニールス・ファーレンテイン・ファン・ラノワ。今年十八歳になるラノワ伯爵家の三男で、リンデの婚約者だ。
ニールスはゼーラント伯爵家に婿入りする立場である。
「こちらこそ、お招きありがとう。ニールス」
「ご招待いただきありがとうございます、ニールス卿」
リンデに続き、少し慌てた様子でお礼を述べるイリスである。
「ああ。さあ、リンデもイリス嬢も、中に入って楽しんで」
ニールスに言われ、イリスはリンデと共にラノワ伯爵家の王都の屋敷に入るのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
晩餐会ではサラダとスープ、そして牛肉を甘酸っぱいソースで煮込んだメイン料理が運ばれて来た。
イリスはゼーラント伯爵家で家庭教師から習った通りのマナーでメイン料理を食べる。
(美味しい……! 牛肉は柔らかくて、甘酸っぱいソースとよく絡んでいるわ)
料理の美味しさで、イリスの緊張は少しだけ解れていた。
「そう言えばこの前、ヴィルヘルミナ女王陛下ご懐妊のニュースがありましたわよね」
晩餐会に来ていた一人の婦人がそう話を切り出した。
「ええ、本当にめでたいことですわ。それに、ヴィルヘルミナ女王陛下達が革命を起こして、今までこのドレンダレン王国を支配していたベンティンク悪徳王家を処刑してくれたから、国が穏やかになりましたわ」
また別の婦人がそう口にする。
(ベンティンク悪徳王家……)
イリスは食べながら婦人達の話に耳を傾ける。
「革命が起こったのは一年程前でしたね。あの時、このドレンダレン王国の正当な王家の血を引くヴィルヘルミナ女王陛下の存在が分かり、どれだけ皆安堵したことか」
(そうよね。去年までドレンダレン王国は、ベンティンク悪徳王家が支配していた。厳しい言論統制、ベンティンク家に逆らう者達は非人道的な拷問を受けた末、処刑。淀んだ国だったわ)
イリスは表情を曇らせる。
「そう言えば、ラノワ伯爵家とゼーラント伯爵家の方々は、革命推進派として活躍なさったとか?」
「あ……」
突然家の話を振られ、イリスはピクリと肩を震わせた。
「ええ、父と母は元々ベンティンク家のやり方に反対しておりましたので」
リンデは何てことないかのようにスラスラと答えている。
「僕の両親もです。それに、リンデのゼーラント伯爵家とはその件で前から協力体制を結んでいましたから」
リンデの隣に座るニールスもそう答えた。
二人は顔を見合わせて微笑んでいた。
(私もお姉様みたいに話を振られてすぐに答えられるようになりたいわ)
イリスは少し恥ずかしくなりながら肩をすくめていた。
その時、デザートのアップルタルトが運ばれて来た。
(それにしても……)
イリスは周囲を見渡す。
晩餐会に参加している者達は、誰もが明るい表情をしていた。
(去年まではこんな風になるなんて、誰も思わなかったでしょうね。まだベンティンク悪徳王家に支配されていた時期だったから。それに、ヴィルヘルミナ女王陛下がまさかドレンダレン王国の正当な王家……ナッサウ王家のお方だなんて思わなかったわ。生まれてすぐ秘密裏にエフモント公爵家に逃がされていたと聞いたけれど)
イリスが生まれた時、ドレンダレン王国は既にベンティンク家によるクーデターで国が乗っ取られている状態だった。
各地に秘密警察が配置され、自分たちの会話が誰に聞かれているか分からない状況。少しでもベンティンク家に逆らえば、拷問の末に処刑されてしまう。処刑ではなくとも、国中あちこちで誰かが殺されていることが日常茶飯事だった。
そんな状況だったので、革命によりドレンダレン王国を取り戻そうとしていたイリスの両親は当然ながら死と隣り合わせだったのだ。
自分達がベンティンク家に処刑されても、イリスとリンデだけは守る手段も立てていたらしい。
イリスはチラリとリンデの方に目を向ける。
リンデはニールスと談笑していたが、イリスの視線に気付き、ニコリと微笑んでくれる。
「イリス、どうかしたの?」
「あ、いえ、お姉様」
イリスは少し慌ててアップルタルトを食べる。
りんごの甘酸っぱさとシナモンの香りが口の中に広がった。
(リンデお姉様は、お父様とお母様にもしものことがあった場合も考えて私を守ろうとしてくれているのよね)
イリスはアップルタルトをもう一口食べる。
(でも、いずれ私はゼーラント伯爵家を出てどこかに嫁がなければならない身。いつまでもリンデお姉様に守ってもらうのではなく、自分の身は自分で守らないと。しっかりしないといけないわね)
テーブルの下で拳を握り、そう決意するイリスだった。
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