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バルコニーの先客
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数日後。
イリスはまた侍女達に着替えや化粧などを手伝ってもらい、夜会に出席する準備をしていた。
イリスのブロンドの髪には、つい最近姉のリンデから譲り受けたルビーの髪飾りがある。
(ほんの少しだけ、リンデお姉様みたいになれるかしら?)
イリスはルビーの髪飾りに触れ、少しだけ心を躍らせた。
「あら、イリス、今日もとても似合っているわ」
準備を終えたリンデがイリスの部屋に入って来た。
「お姉様も、今日も素敵です」
「ありがとう、イリス。イリスにそう言ってもらえて嬉しいわ」
イリスはリンデに抱きしめられた。
「お姉様、少し苦しいです」
イリスは思わず苦笑するが、嫌な感じは全くしない。
昔から、姉のリンデに抱きしめられることは大好きだった。
「あ、ごめんなさい。つい」
リンデはクスッと優しく笑っている。
「私の髪飾り、早速身に着けてくれているのね。何だか嬉しいわ」
リンデはイリスの髪飾りに気付いたようで、アメジストの目をキラキラと輝かせている。
「お姉様、素敵な髪飾りを譲ってくださりありがとうございます」
イリスは満面の笑みになった。
「イリス、その笑顔、あんまり男性に見せない方が良いわよ。イリスに惚れてしまう人が続出だわ。イリスに変な虫が付いたら大変」
リンデはやや困ったような、そしてどこかうっとりとしたような表情だった。
「お姉様、大丈夫ですわ。ありがとうございます」
イリスはクスクスと笑っていた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
今回イリスが参加する夜会は、ゼーラント伯爵家と付き合いのある家が主催する。
リンデがニールスからダンスに誘われ一人になっていたが、イリスも年の近い令息からダンスに誘われた。
「ゼーラント嬢、今度こちらの王都の屋敷に招待しますよ」
紳士的な誘い方の令息だ。
イリスは令息の目をさりげなく見つめる。
胸がゾワゾワし、少しだけ不快な感覚になった。
(周囲から見れば、特に問題はないけれど……この人は多分私を下に見ているわ。いえ、私だけでなく、女性全体を下に見ている……)
イリスは令息の目の奥から侮蔑の感情を読み取ったのだ。
イリスは令嬢らしい笑みを浮かべる。
「お誘いはありがたいのですが、生憎予定が詰まっておりますので」
イリスはやんわりと令息からの誘いを断るのであった。
「イリス、先程の方とはどうだったの?」
ダンスが終わるとリンデが興味津々な様子で聞いて来た。
「あのお方は……恐らく女性を下に見ているので。それに、ダンスのステップもどこか一方的でしたわ」
イリスは先程の令息とのやり取りを思い出し、苦笑した。
先程の令息とのダンスは家庭教師から教わった通りのステップは踏めるが、少し息苦しかったのだ。
「まあ、そうなの。あの方、周囲からの評判は良いけれど、イリスがそう言うのならきっとそうなのね。イリスは人を見る目があるから」
リンデはふふっと笑う。
「ほら、この前だってゼーラント伯爵家が不利になる契約を結ばれそうになった時、一番最初に相手の目的や本性を見抜いたのはイリスだったじゃない」
イリスは昔から人を見る目があった。
周囲の評判が高い人の冷酷な本性を何となくではあるが見抜いて自ら離れたり、領地で悪評のある少女が本当は不器用で優しい性格だと気付き交流をしたこともあったのだ。
「契約の件は、お姉様もお気付きになられたでしょう」
イリスは褒められて少し照れ臭くなり、眉を八の字にして肩をすくめた。
「私よりもイリスの方が先に気付いたから凄いわ。お父様とお母様も褒めていたでしょう」
ふふっと上機嫌な様子のリンデ。
「でも、イリスは評判の悪い人にも近付いたり近付かれたりするから少し心配でもあるのよ」
リンデは困り顔で軽くため息をついた。
「リンデお姉様、ご心配ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから」
リンデを安心させるよう、イリスはややしたり顔で答えた。
(いつまでもリンデお姉様に守られてばかりでは申し訳ないもの。私も成人したのだし)
イリスは真っ直ぐリンデを見つめていた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その後リンデはダンスの誘いがあれば令息とダンスをしたり、令嬢達と談笑して過ごしていた。
(少し疲れたわね。夜風に当たりたいわ)
イリスはふうっと息を吐き、バルコニーへ向かう。
ダンスで体温が上がっていたので、春の夜風はきっと気持ち良いだろうと思うイリスだった。
しかし、バルコニーには先客がいた。
柔らかな癖のある赤毛に、エメラルドのような緑の目。整った甘い顔立ち。
軽薄公爵ことヤンである。
(あ……)
思わずイリスはバルコニーの入り口で立ち止まってしまった。
ヤンはイリスの存在に気付いた様子はなく、バルコニーで夜空を見上げている。
その横顔が、少しだけ神秘的に見えた。
(ルーヴェン公爵閣下……。軽薄公爵として未婚の令嬢や未亡人と浮き名を流していらっしゃる。それに……)
イリスはヤンと初めて会った晩餐会のことを思い出した。
(あの時、リンデお姉様はルーヴェン公爵閣下に失礼なことを……。私を守ろうとしてくれたとはいえ、格上の公爵家を敵に回してしまったらゼーラント伯爵家は危ないわよね……)
改めてリンデのヤンに対する態度を思い出し、イリスは青ざめた。
もしもヤンの怒りを買い、ゼーラント伯爵家が危機に陥れば、家を継ぐリンデが大変な思いをすることになるだろう。
イリスは意を決してヤンの元へとゆっくり歩き始めるのであった。
イリスはまた侍女達に着替えや化粧などを手伝ってもらい、夜会に出席する準備をしていた。
イリスのブロンドの髪には、つい最近姉のリンデから譲り受けたルビーの髪飾りがある。
(ほんの少しだけ、リンデお姉様みたいになれるかしら?)
イリスはルビーの髪飾りに触れ、少しだけ心を躍らせた。
「あら、イリス、今日もとても似合っているわ」
準備を終えたリンデがイリスの部屋に入って来た。
「お姉様も、今日も素敵です」
「ありがとう、イリス。イリスにそう言ってもらえて嬉しいわ」
イリスはリンデに抱きしめられた。
「お姉様、少し苦しいです」
イリスは思わず苦笑するが、嫌な感じは全くしない。
昔から、姉のリンデに抱きしめられることは大好きだった。
「あ、ごめんなさい。つい」
リンデはクスッと優しく笑っている。
「私の髪飾り、早速身に着けてくれているのね。何だか嬉しいわ」
リンデはイリスの髪飾りに気付いたようで、アメジストの目をキラキラと輝かせている。
「お姉様、素敵な髪飾りを譲ってくださりありがとうございます」
イリスは満面の笑みになった。
「イリス、その笑顔、あんまり男性に見せない方が良いわよ。イリスに惚れてしまう人が続出だわ。イリスに変な虫が付いたら大変」
リンデはやや困ったような、そしてどこかうっとりとしたような表情だった。
「お姉様、大丈夫ですわ。ありがとうございます」
イリスはクスクスと笑っていた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
今回イリスが参加する夜会は、ゼーラント伯爵家と付き合いのある家が主催する。
リンデがニールスからダンスに誘われ一人になっていたが、イリスも年の近い令息からダンスに誘われた。
「ゼーラント嬢、今度こちらの王都の屋敷に招待しますよ」
紳士的な誘い方の令息だ。
イリスは令息の目をさりげなく見つめる。
胸がゾワゾワし、少しだけ不快な感覚になった。
(周囲から見れば、特に問題はないけれど……この人は多分私を下に見ているわ。いえ、私だけでなく、女性全体を下に見ている……)
イリスは令息の目の奥から侮蔑の感情を読み取ったのだ。
イリスは令嬢らしい笑みを浮かべる。
「お誘いはありがたいのですが、生憎予定が詰まっておりますので」
イリスはやんわりと令息からの誘いを断るのであった。
「イリス、先程の方とはどうだったの?」
ダンスが終わるとリンデが興味津々な様子で聞いて来た。
「あのお方は……恐らく女性を下に見ているので。それに、ダンスのステップもどこか一方的でしたわ」
イリスは先程の令息とのやり取りを思い出し、苦笑した。
先程の令息とのダンスは家庭教師から教わった通りのステップは踏めるが、少し息苦しかったのだ。
「まあ、そうなの。あの方、周囲からの評判は良いけれど、イリスがそう言うのならきっとそうなのね。イリスは人を見る目があるから」
リンデはふふっと笑う。
「ほら、この前だってゼーラント伯爵家が不利になる契約を結ばれそうになった時、一番最初に相手の目的や本性を見抜いたのはイリスだったじゃない」
イリスは昔から人を見る目があった。
周囲の評判が高い人の冷酷な本性を何となくではあるが見抜いて自ら離れたり、領地で悪評のある少女が本当は不器用で優しい性格だと気付き交流をしたこともあったのだ。
「契約の件は、お姉様もお気付きになられたでしょう」
イリスは褒められて少し照れ臭くなり、眉を八の字にして肩をすくめた。
「私よりもイリスの方が先に気付いたから凄いわ。お父様とお母様も褒めていたでしょう」
ふふっと上機嫌な様子のリンデ。
「でも、イリスは評判の悪い人にも近付いたり近付かれたりするから少し心配でもあるのよ」
リンデは困り顔で軽くため息をついた。
「リンデお姉様、ご心配ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから」
リンデを安心させるよう、イリスはややしたり顔で答えた。
(いつまでもリンデお姉様に守られてばかりでは申し訳ないもの。私も成人したのだし)
イリスは真っ直ぐリンデを見つめていた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その後リンデはダンスの誘いがあれば令息とダンスをしたり、令嬢達と談笑して過ごしていた。
(少し疲れたわね。夜風に当たりたいわ)
イリスはふうっと息を吐き、バルコニーへ向かう。
ダンスで体温が上がっていたので、春の夜風はきっと気持ち良いだろうと思うイリスだった。
しかし、バルコニーには先客がいた。
柔らかな癖のある赤毛に、エメラルドのような緑の目。整った甘い顔立ち。
軽薄公爵ことヤンである。
(あ……)
思わずイリスはバルコニーの入り口で立ち止まってしまった。
ヤンはイリスの存在に気付いた様子はなく、バルコニーで夜空を見上げている。
その横顔が、少しだけ神秘的に見えた。
(ルーヴェン公爵閣下……。軽薄公爵として未婚の令嬢や未亡人と浮き名を流していらっしゃる。それに……)
イリスはヤンと初めて会った晩餐会のことを思い出した。
(あの時、リンデお姉様はルーヴェン公爵閣下に失礼なことを……。私を守ろうとしてくれたとはいえ、格上の公爵家を敵に回してしまったらゼーラント伯爵家は危ないわよね……)
改めてリンデのヤンに対する態度を思い出し、イリスは青ざめた。
もしもヤンの怒りを買い、ゼーラント伯爵家が危機に陥れば、家を継ぐリンデが大変な思いをすることになるだろう。
イリスは意を決してヤンの元へとゆっくり歩き始めるのであった。
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