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ユーリの過去・前編(残酷描写あり、閲覧注意)
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※暴力描写、動物虐待描写があります。かなりきつい描写になっていますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
『お前はあの憎き兄にそっくりだな! お前も兄達と一緒に事故で死ねば良かったんだ!』
(煩い!)
『ユーリ・ネストロヴィチなんかより、私達の子供の方が優先よ。お前の食事はないわ』
(煩い!)
『ユーリは床に這いつくばっているのがお似合いなんだよ』
(煩い!)
『ユーリの猫だし、川に投げ捨てておこう』
(煩い煩いやめろ!!)
ユーリはハッと目を覚ます。
呼吸は酷く乱れており、寝汗で寝衣が濡れている。
「またあの夢か……」
ユーリはポツリと呟く。その呟きは、闇へと吸い込まれるように消えていく。
ここ最近、悪夢を見ることが増えたユーリ。
ユーリの精神は徐々に蝕まれていた。
ふと隣に目を向けると、スヤスヤと穏やかな寝息を立てるアリョーナがいる。
「アリョーナ……」
ユーリはアリョーナの頭をそっと撫でる。
(寝顔も……美しく可憐な天使のようだ)
ユーリはアリョーナを切なげに見つめている。
何よりも愛しい存在。それなのに、ユーリはアリョーナの自由を奪い、監禁してしまっている。
(僕にはもうアリョーナだけなんだ。アリョーナがいなければ僕は……。だから、その天使の翼をもぎ取って閉じ込めてしまいたい。そうしたらどこにも行けなくなって、僕の側から離れないだろう?)
ユーリのムーンストーンの目は、仄暗く虚ろだった。
アリョーナの自由を奪い閉じこめることで、ユーリの精神は幾分か安定した。しかし、それと同時に虚しさも感じていた。
(僕はいつからこうなってしまったのだろうか……?)
ユーリは自嘲しながらゆっくりと己の過去を思い出していた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
ユーリはレポフスキー公爵家長男として生まれた。
実父ネストル、実母フェオドーラが生きていた頃は愛され、レポフスキー公爵家次期当主として期待され、ユーリは幸せな日々を送っていた。
しかし、ネストルとフェオドーラが視察先での事故に巻き込まれて亡くなってから、ユーリの生活は一変する。
ネストルの弟、ユーリにとっては叔父であるマクシミリアンが妻子引き連れてレポフスキー公爵家にやって来た。まだ八歳のユーリには後見人が必要であるということで、マクシミリアンが彼の後見人になったそうだ。
しかしネストルとマクシミリアンは折り合いが悪かった為、ユーリはマクシミリアンから暴力を振るわれることが日常茶飯事になったのだ。
時には死んでしまえとも罵られた。
マクシミリアンの妻ゲルトルーダもユーリを虐げていた。
マクシミリアンとゲルトルーダの息子達――ユーリと同い年の従兄ゲラーシーとユーリより二つ年下の従弟ヴラドレンからも暴力を振るわれたり嫌がらせを受けることもあった。しかし、ユーリが反撃をしたらマクシミリアンの手により苛烈な制裁が加えられるのである。
ユーリはひたすら彼らの仕打ちを耐えながら生きるしかなかった。
更にマクシミリアンがユーリの味方をする使用人達を全員解雇したせいで、ユーリの味方は誰もいないのである。
唯一ユーリが心を許せる存在は、レポフスキー公爵城に居着いていた猫のエーシャだった。
ユーリの精神は蝕まれていくが、亡きネストルとフェオドーラの為にもレポフスキー公爵領を守りたいと思い、必死に生きていた。
辛い時はエーシャを撫でて心を落ち着かせていたのである。
しかしある日、ユーリの心が壊れてしまう出来事が起こる。
ゲラーシーとヴラドレンがエーシャに目を付けたのだ。
「お、この猫、ユーリの奴が可愛がってるみたいだぞ」
ゲラーシーがエーシャを蹴り飛ばす。
するとエーシャはゲラーシーに噛み付き、顔を引っ掻いた。
「兄上!」
ヴラドレンがエーシャをゲラーシーから引き離す。
「猫の癖にやりやがったな!」
猫のエーシャから思わぬ反撃を受けたゲラーシーは怒りに染まり、エーシャを力一杯殴る。
エーシャは度重なる暴行で弱っていた。
(あれは……!)
ユーリはゲラーシーとヴラドレン達の様子に気付き、ムーンストーンの目を零れ落ちそうなくらい大きく見開いた。
「エーシャ!」
気付けばユーリはエーシャを助けようと向かっていた。
「やめろ! エーシャを離せ!」
ユーリは必死に走る。
「兄上、ユーリがこっちに向かって来てますよ」
ユーリの姿を捉えたヴラドレンはニヤニヤしながらゲラーシーに声をかける。
「チッ、ユーリか。面倒臭えな」
ユーリの姿を見たゲラーシーは舌打ちをする。
「これはユーリの猫だし、殺しても良いよな」
ゲラーシーはニヤリと笑い、エーシャを地面に叩き付けた。
弱っていたエーシャは息絶えてしまう。
「うわ、流石兄上。死んでますよ」
ヴラドレンは面白そうに笑う。
「ユーリの猫だし、川に投げ捨てておこう」
ヴラドレンはエーシャの死体を川に投げ捨てた。
「エーシャ……!」
ようやくゲラーシーとヴラドレンの所にたどり着いたユーリだが、既に手遅れだった。
ユーリの中の何かがプツンと切れた。
気が付けば、ユーリはゲラーシーを顔の原型が崩れるくらいまで殴っていた。ゲラーシーの男の象徴たる部分も何度も踏み潰し、使い物にならなくした。
ヴラドレンはユーリに殴りかかり、ゲラーシーへの暴行を止めようとしであっさり蹴られて尻餅をつく。
ユーリを恐れたヴラドレンはその場を逃げ出したが、前を見ていなかったので木に衝突した。
そして当たりどころが悪く、脳震盪を起こしてヴラドレンは死亡するのであった。
こうなってはマクシミリアンも手に追えなくなり、ユーリは追い出される形でレポフスキー公爵家と遠縁であるストロガノフ伯爵家に引き取られるのであった。
『お前はあの憎き兄にそっくりだな! お前も兄達と一緒に事故で死ねば良かったんだ!』
(煩い!)
『ユーリ・ネストロヴィチなんかより、私達の子供の方が優先よ。お前の食事はないわ』
(煩い!)
『ユーリは床に這いつくばっているのがお似合いなんだよ』
(煩い!)
『ユーリの猫だし、川に投げ捨てておこう』
(煩い煩いやめろ!!)
ユーリはハッと目を覚ます。
呼吸は酷く乱れており、寝汗で寝衣が濡れている。
「またあの夢か……」
ユーリはポツリと呟く。その呟きは、闇へと吸い込まれるように消えていく。
ここ最近、悪夢を見ることが増えたユーリ。
ユーリの精神は徐々に蝕まれていた。
ふと隣に目を向けると、スヤスヤと穏やかな寝息を立てるアリョーナがいる。
「アリョーナ……」
ユーリはアリョーナの頭をそっと撫でる。
(寝顔も……美しく可憐な天使のようだ)
ユーリはアリョーナを切なげに見つめている。
何よりも愛しい存在。それなのに、ユーリはアリョーナの自由を奪い、監禁してしまっている。
(僕にはもうアリョーナだけなんだ。アリョーナがいなければ僕は……。だから、その天使の翼をもぎ取って閉じ込めてしまいたい。そうしたらどこにも行けなくなって、僕の側から離れないだろう?)
ユーリのムーンストーンの目は、仄暗く虚ろだった。
アリョーナの自由を奪い閉じこめることで、ユーリの精神は幾分か安定した。しかし、それと同時に虚しさも感じていた。
(僕はいつからこうなってしまったのだろうか……?)
ユーリは自嘲しながらゆっくりと己の過去を思い出していた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
ユーリはレポフスキー公爵家長男として生まれた。
実父ネストル、実母フェオドーラが生きていた頃は愛され、レポフスキー公爵家次期当主として期待され、ユーリは幸せな日々を送っていた。
しかし、ネストルとフェオドーラが視察先での事故に巻き込まれて亡くなってから、ユーリの生活は一変する。
ネストルの弟、ユーリにとっては叔父であるマクシミリアンが妻子引き連れてレポフスキー公爵家にやって来た。まだ八歳のユーリには後見人が必要であるということで、マクシミリアンが彼の後見人になったそうだ。
しかしネストルとマクシミリアンは折り合いが悪かった為、ユーリはマクシミリアンから暴力を振るわれることが日常茶飯事になったのだ。
時には死んでしまえとも罵られた。
マクシミリアンの妻ゲルトルーダもユーリを虐げていた。
マクシミリアンとゲルトルーダの息子達――ユーリと同い年の従兄ゲラーシーとユーリより二つ年下の従弟ヴラドレンからも暴力を振るわれたり嫌がらせを受けることもあった。しかし、ユーリが反撃をしたらマクシミリアンの手により苛烈な制裁が加えられるのである。
ユーリはひたすら彼らの仕打ちを耐えながら生きるしかなかった。
更にマクシミリアンがユーリの味方をする使用人達を全員解雇したせいで、ユーリの味方は誰もいないのである。
唯一ユーリが心を許せる存在は、レポフスキー公爵城に居着いていた猫のエーシャだった。
ユーリの精神は蝕まれていくが、亡きネストルとフェオドーラの為にもレポフスキー公爵領を守りたいと思い、必死に生きていた。
辛い時はエーシャを撫でて心を落ち着かせていたのである。
しかしある日、ユーリの心が壊れてしまう出来事が起こる。
ゲラーシーとヴラドレンがエーシャに目を付けたのだ。
「お、この猫、ユーリの奴が可愛がってるみたいだぞ」
ゲラーシーがエーシャを蹴り飛ばす。
するとエーシャはゲラーシーに噛み付き、顔を引っ掻いた。
「兄上!」
ヴラドレンがエーシャをゲラーシーから引き離す。
「猫の癖にやりやがったな!」
猫のエーシャから思わぬ反撃を受けたゲラーシーは怒りに染まり、エーシャを力一杯殴る。
エーシャは度重なる暴行で弱っていた。
(あれは……!)
ユーリはゲラーシーとヴラドレン達の様子に気付き、ムーンストーンの目を零れ落ちそうなくらい大きく見開いた。
「エーシャ!」
気付けばユーリはエーシャを助けようと向かっていた。
「やめろ! エーシャを離せ!」
ユーリは必死に走る。
「兄上、ユーリがこっちに向かって来てますよ」
ユーリの姿を捉えたヴラドレンはニヤニヤしながらゲラーシーに声をかける。
「チッ、ユーリか。面倒臭えな」
ユーリの姿を見たゲラーシーは舌打ちをする。
「これはユーリの猫だし、殺しても良いよな」
ゲラーシーはニヤリと笑い、エーシャを地面に叩き付けた。
弱っていたエーシャは息絶えてしまう。
「うわ、流石兄上。死んでますよ」
ヴラドレンは面白そうに笑う。
「ユーリの猫だし、川に投げ捨てておこう」
ヴラドレンはエーシャの死体を川に投げ捨てた。
「エーシャ……!」
ようやくゲラーシーとヴラドレンの所にたどり着いたユーリだが、既に手遅れだった。
ユーリの中の何かがプツンと切れた。
気が付けば、ユーリはゲラーシーを顔の原型が崩れるくらいまで殴っていた。ゲラーシーの男の象徴たる部分も何度も踏み潰し、使い物にならなくした。
ヴラドレンはユーリに殴りかかり、ゲラーシーへの暴行を止めようとしであっさり蹴られて尻餅をつく。
ユーリを恐れたヴラドレンはその場を逃げ出したが、前を見ていなかったので木に衝突した。
そして当たりどころが悪く、脳震盪を起こしてヴラドレンは死亡するのであった。
こうなってはマクシミリアンも手に追えなくなり、ユーリは追い出される形でレポフスキー公爵家と遠縁であるストロガノフ伯爵家に引き取られるのであった。
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