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一章

42・秘密だぞー

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 館の談話室に仲間に集まって貰った。
「みなさんに重大な報告があります。私は魔王バルザックを倒すための行動を取ろうと思います」
 みんなは全然 驚く風でなく、寧ろやっぱりといった表情。
「君がそう言いだすだろうと思っていたよ」
 ラーズさまが微笑みを浮かべて言った。
「反対しないのですか?」
「いいや。実は俺も、魔王が復活したことを知った時、倒そうかと考えていた」
「どうしてですか?」
「魔王が持っていると伝説に語られる剣が目的だ」
神銀ミスリルの剣カリバーン」
 闇属性の無限耐久度を持つ剣。
 ゲームでは魔王を倒した後、二週目のプレイに入ると、特典として始めからラーズさまが装備している武器だった。
 現実では、五百年前に起きた魔王バルザックと勇者たちとの戦いの伝説で、魔王が所持していた武器として有名だ。
 その剣は魔王バルザックと共に封印されていたという。
 だが、バルザックが復活した今、神銀の剣カリバーンもまた封印から解き放たれ、魔王の手にあるはず。
「その剣なら俺の魔力に耐えられるだろうと思った。だが、魔王バルザックほどの存在を倒すのは至難だろう。だから、まずは入手できる剣から試していくことにしたんだ」
「では、私に力をお貸して下さるのですか?」
「勿論だ。俺の魔力に耐えられる剣は多い方がいい。
 それに、君が言った通り、リリア・カーティスと言う人物が、女神の神託を受けることになり、魔王を倒し世界を救ったという栄光を手に入れれば、もしかすると世界は魔王バルザック以上の脅威にさらされるかもしれない。
 話を聞いただけでも問題の多い人物の様だし、しかもアイリーンさんにあんなことをしたのだ。可能性は大きいだろう。それは、一人の人間として止めたい」
 ラーズさまは私と同じことを考えてくださっていた。
 セルジオさまとキャシーさんも、
「うむ、吾輩も魔王の野望を阻止することに賛成である」
「アタシも異論はありません」
 そしてスファルさまも、
「いいねぇ、いいねぇ、俺たちで世界を救おうってか。魔王を倒したら俺たちは勇者として伝説になるぜ!」
 仲間の協力を得られた私は頭を下げた。
「みなさん、ありがとうございます」


 議題は次に移る。
 まずは魔王バルザックについて知っていることを確認した。
 五百年前、バルザックは魔王として数多の魔物の頂点に君臨し、世界制覇に乗り出した。
 世界各国はその脅威に一致団結し立ち向かったが、魔王軍の力は凄まじく、劣勢に追いやられた。
 しかし奇跡は起きた。
 女神の神託を受けた勇者シュナイダーが現れ、四人の仲間と共に魔王を倒した。
 救世主となった勇者たちは その後、魔物討伐の旅を続け、引退後は冒険者組合の設立に尽力し、より効率的に魔物を退治し駆逐する組織を作ることに成功した。
 そして長い年月が必要だけど、いつかは全ての魔物を滅ぼすことができ、人間が魔物に脅かされることのない世界になると思われた。
 しかし、勇者シュナイダーは魔王バルザックの復活を予言した。
 自分の力では完全に倒すことができず、封印するのが限界だったと。
 魔王の封印は、いつか必ず解けてしまうと。
 その時、魔王は再び世界制覇に乗り出すだろう。
 そのために冒険者組合を組織した。
 効率的に魔物を討伐するだけではなく、冒険者たちがより強くなるための組織だと。
 つまり冒険者組合は対魔王バルザックの組織なのだと。
 そして現在、勇者の予言通り、魔王バルザックは復活した。
 ここまではゲームと変わらない。
 しかし、ここからは違う。
 魔王バルザックの復活はゲームより一年以上早いと思われる。
 そして魔王バルザックは、カーマイル・ロザボスイの言葉では、女性だということ。
 しかも、聖女が現れるかもしれないことを知っていた。
 五百年前に魔王バルザックを倒したのは男性の勇者だ。
 だから再び勇者が現れるのを警戒するのは分かる。
 でも、カーマイルはハッキリと聖女だと言った。
 それに、今は疾風の剣サイクロンになっている白剣歯虎ホワイトサーベルタイガーも、私の事を聖女だと言っていた。
 あれは 今 思えば、魔王バルザックから警告を受けており、それで私が聖女だと誤解したのだ。
 私はゲームのことを避けながら、みんなに説明する。
「フーム、伝説では語られなかったが、魔王バルザックは女だと。しかも聖女が現れるかもしれなかったことをあらかじめ知っていたと」
 セルジオさまは思案顔。
 スファルさまが、
「もしかすると、バルザックは邪神から神託を受けたんじゃないか? それなら説明がつくだろ。魔物に人間を滅ぼさせるために、邪神がこれから起きることを事前に教えた。どうだ?」
 矛盾はないと思う。
 でも、違う説明も付く。
 私だから思いつく説明。
「あるいは、私と同じなのかもしれません。魔王バルザックは、私やリリア・カーティスと同じ理由で、これから起こることを知っているのかも」
 転生者。
 私が前世の日本で乙女ゲーム、ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナスをしたことがあったから、この世界のこれから起こる出来事をある程度 知っているように、魔王バルザックも私と同じ転生者で、ゲームをしたことがあるのかもしれない。
 それは同時に大きな疑問が出てくる。
 元々は人間であるはずのバルザックが、なぜ魔物に人間を滅ぼそうとさせているのか?
 魔物が人間を襲うのを止めることが出来る立場にいながら、寧ろそれを推奨するかのように、世界制覇に乗り出している。
 いったいなぜ?
 スファルさまが怪訝に、
「同じ理由って、なんのことだ?」
「あ、それは……」
 口を滑らせてしまったみたい。
 しかし、私がどうやって誤魔化そうか考えるより早く、スファルさまは右手をパタパタと振った。
「わかってる。みなまで言うな。秘密なんだろ」
「ええ、そうなんですけど……」
「まあ、俺はもうわかってるけどな。でも 秘密なんだよなー、秘密。神託とか聖女とか、全部秘密。みんなもわかってると思うけど、秘密だぞー。秘密ー。しー、だ。しー」
 人差し指を口に当てて、みんなに念入りに秘密にするように言っているけど、なにも分かってないな、この人。


 さて、魔王の居城がゲームや伝説通りなら、最東の島にある。
 アドラ王国から寄り道せずに向かったとしても三ヶ月以上かかる。
「だが、その前に情報を集めておいた方が良いだろうな。魔王については伝説の事ぐらいしかわからない」
 ラーズさまの言う通りだ。
 魔王やその配下に付いて分かっていないことが多い。
 ゲーム通りならまだしも、現実は色々異なっているのだから。
「ですが、当てがあるのですかな? 闇雲に動いても、魔王の情報は都合よく得られませんぞ」
 セルジオさまの指摘に、私は提案する。
「では、当面の目的として、このまま他の剣を集めるのはどうでしょうか?」
 魔王四天王が守っている残りの剣を入手しておけば、魔王戦で有利になる。
 それに、残り二体の四天王を倒しておけば、魔王の世界制覇計画を大きく挫くことになるだろう。
 ラーズさまは同意して、
「そうだな。エクスカリバー以外の他の剣も、一応 集めておくか。それと並行して魔王の情報を集める」
 こうして、神金の剣エクスカリバーの他にも、残り二つの剣を集めることが決まった。
 残りの剣の所在地は大陸の東側。
 東南海の島プラグスタに、業炎の剣ピュリファイア。
 東南の国、カナワ神国に、大地の剣ディフェンダー。
 そして神金の剣エクスカリバーを打って貰う鍛冶師がいる国は、東北の国カノイ皇国。
 だけど その前に、アドラ国でもう一つやらなければならないことがある。
 それは、殺人事件を未然に防ぐこと。
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